4 空港での戦闘


 惑星ナジューラにあるマシュリア空港は、ケララと同規模の小さな無人空港だった。二階建ての無人管理事務所がぽつんと建っている。

 空港は不気味に静まっていた。昼過ぎなのに船も飛んでいない。もちろん今の季節は、方角によっては磁気嵐で通信が殆んど出来ない。


 クレイグは空港の近くで船を止めた。ディヤーヴァと一緒に船から下りようとする。

「あんたはここで待ってな」

「そうだよ、おじさん」

 二人は引きとめたがクレイグは首を横に振った。反対にナギに向かって言う。

「いや、君こそ、ここで待っていなさい」

 船のクローゼットの中から小型のマシンガンとライフルを引っ張り出し、肩に背負って少し顔を顰めた。


「俺は行く」

 ナギはクレイグにそう返事をして、ディヤーヴァのあとを追いかけた。自分には何の装備もないけれど役に立つ事が出来る。クレイグの身体を治してそう思った。

 ディヤーヴァがもし怪我したとき、すぐ側にいれば治療が出来る。

 間に合わなくて死んでしまった孤児院の皆と違って。一人でみんなの死体を埋めるような、あんな事だけはもう嫌だった。


 ディヤーヴァは何を思っているのか、ナギに何も言わなかった。それでナギは付いて行くと決めた。何も言わない背中を無心で追いかけた。最後にクレイグが続いた。

 地上に降りれば、延々と広がる背の高い棘のある植物の生えた砂地が、空港の周りを囲んでいる。ディヤーヴァはその間を縫って空港に近付いて行く。


 空港の入り口の前に立ち、ディヤーヴァが大音声で事務所に向かって怒鳴った。

「おい、きさまら。いるんだろう。隠れていないで出て来い」


 空港の事務所から数人の男たちがヘラヘラと笑いながら出て来た。皆綺麗な顔をし、手に手に銃器を構えている。

「頭のおかしいのがいるぜ」

「何を喚いているやら」

「笑わせるんじゃねえぜ、変な格好しやがってよ」

 口々にディヤーヴァをあざ笑いながら、それでも油断なく距離を詰めてきた。


 ディヤーヴァは唇の端を少し上げ、男たちを斜めに見返しながらクレイグに聞く。

「コイツらか? あんたの娘を攫ったのは」

「そうだ。まだいる筈だ」

「焦る事はねえさ。ぼちぼち行こうぜ」


 ディヤーヴァは指をポキリポキリと鳴らしてニヤリと笑い、それから一気に男たちの懐に飛び込んで行った。

 すごいスピードだった。

 かわすどころか身構える暇もなかった。懐に入り込まれて銃を構える暇もなく、男達はあっという間にディヤーヴァの素手の攻撃をくらって地に伸びた。


「すごいっ!」と、ナギが走り寄って行く。

 そのナギを背中に庇いディヤーヴァは船の方を見た。

 二人の男がスペースシップから降りて来た。先に出た男たちと気配が違う。訳もなく肌がゾワリと総毛だった。


 一人は金属光沢の肌をしていた。身体も通常の人間より大きくて、力も強そうだった。その後ろから現れた男は、金と銀と赤に染めた髪をたてがみのように煌めかせ、整った顔貌、銃器を構えたままクレイグに向かって言った。


「てめえまだ生きてやがったか。用心棒まで雇ってよ。みんなでここまで殺されに来たのか、ハハハ」

 低い哄笑を浴びせた後、ナギを見て首を傾げた。

「おや、その後ろにいるガキは──」

「コイツじゃねえのか。ここに来る前に見た手配書にあったのは」

 金属光沢の肌をした男が筋肉の盛り上がった腕を組んで言う。

「そうらしいな」

 金銀赤のたてがみの男がニヤリと笑った。金属の肌の男がディヤーヴァとクレイグに言う。


「おい、そのガキを寄越せ。大人しく寄越せば、お前たちの命だけは助けてやらんでもないぞ」

「その気もないくせに言うんじゃねえぜ」

 ディヤーヴァはせせら笑った。


「よく分かっているようだ。まあ良い。死体が二つになろうが三つになろうが幾つになろうが構うものか。俺たちの稼ぎが多くなるだけだって事さ」

 男達が構えた。


「殺し屋か」

 ディヤーヴァも腰の剣を抜いた。男たちの失笑。だがそんなことに構ってはいなかった。トンと軽く地を蹴ってディヤーヴァは男たちの前に突っ込んで行った。


 ダダダダ……!! たてがみの男の銃器が火を噴いた。まるっきり弾を避けずにディヤーヴァは男達の懐まで一気に間合いを詰めた。


「コイツ!」

 たてがみの男は弾を撃ちながら、金属光沢の男を盾にした。男の手が陽を受けて鈍く光った。その手が上がって躍り込んで来たディヤーヴァの身体をブインッとぶっ飛ばした。


「きゃっ!!」

 ナギの悲鳴。

 しかし、ディヤーヴァは吹っ飛ばされたが、途中でクルリと後転して体勢を変え地上に降り立った。男たち三人がニヤリと笑う。


 今度は金属光沢の男がディヤーヴァに向かって突進した。たてがみの男がバリバリバリと銃を放って応援する。ディヤーヴァは一度横に飛び、また男たちに向かった。

 剣をブンッと金属光沢の男に放つ。衝撃波が地を割いて男に向かった。しかし男は両腕を前にして衝撃波をやり過ごしたのだ。

 だが、ディヤーヴァはその時にはもう、男の横に回りこんでいた。足でドンッと男を蹴った。ドウッと横倒しに倒れた男は、すぐさまクルリと身を起こしてディヤーヴァを睨み付けた。



 男たちの死闘を、固唾を呑んで見守っていたナギの腕をクレイグが掴んだ。

「シッ、今のうちに娘を助け出そう」


 男達は戦いに夢中だった。弾と衝撃波が飛び交い、力強い腕が振り下ろされ、何度も腕と剣が交えられている。


 ナギは頷いて、二人はそっとその場を離れて空港事務所に向かった。棘のある植物が二人の姿を隠したが、見つからないようにとナギは念じていた。


 男たちのスペースシップに辿り着くと、クレイグは入り口でカードを取り出した。それを検知器に差し出すと、シップはすぐに入り口を開けた。

(何故そんなものを持っているんだ?)


 首を傾けるナギに合図をして、二人はスペースシップの中に潜り込んだ。

「娘の居所が、気配で分るか?」

 クレイグが聞いた。ナギは首を横に振る。


 この男の娘はインティだと言ったが、彼女はそんな事が出来るのだろうか。この力を隠さなくても良いのなら、ディヤーヴァ程ではなくても強くなりたいとナギは思った。

「人の気配のある方角でも良いが」

 人がいる気配なら、ナギにも薄々感じることが出来た。ナギは頷いてクレイグと、微かな気配のする方角に向かった。

 そして二人は、ドアの外に見張りの居る部屋を見つけたのだ。

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