4 客を探して


 恒星ドラヴィダの小さな第五惑星にあるのは無人空港ケララ。

 広い飛行場にはスペースシップの燃料補給スタンドがあるだけで、二階建ての無人空港事務所の建物を経て外に出ると小さな町が広がっていた。


 町の建物は低い、粘土やレンガで造ったような建屋や事務所や店が、まるで迷路のように入り組んで建っていた。緑は少ない。埃っぽい町のようだった。


 それでもナギはそんなにたくさんの人を見たことが無かったので、道歩く人をしばらく呆然と眺めた。行きかう人々は皆、砂塵にまみれて砂色っぽい顔をしていて、髪もパサついた砂色で、小さな目と垂れたような鼻をしていた。

 殆んどの人間が長い鼠色の布っ切れを頭から被り、俯きがちに歩いている。


 ナギは客になりそうな人を探した。しかし、このボロボロの自分を買うような物好きな奴っているんだろうかと思う。シップは、ああ言ったが、ナギはオイルだらけで汚れ果てていた。



 ふと気配を感じて、ナギは反射的にその場にしゃがみ込んだ。気配の方をそっと見る。男が二人空港の方に向かって歩いて行くのが目に入った。

(あいつらだ!!)

 ナギには分った。忘れもしない、カダイルの皆を殺したあの男たちと同じ気配だった。


 しかし、分ってもどうしようもなかった。ナギの手には武器も何も無かった。反対に男達は銃器を背負い、腕にも装備していた。

 ナギは気配を消しながら二人の男を見た。やせて背の高い灰色の髪の男と、がっちりして中背の赤毛の男。無表情の整った顔。


『人には普通の人と、新人類と、そしてサイボーグ・ドールがいます』

 そう神父が言っていた。ドールは機械の身体に人の脳を入れた人間なのだ。外見は整っていて美しいと。


 しかしナギはまだドールに会ったことは無かった。辺境の貧しい星にはそんなモノが買えるような人はいなかった。神父もジャンク屋のオヤジも店のおばさんも孤児院の子供達も皆新人類だった。

 その星に合わせて体形も肌も変化する身体を持っていた。ただ、カダイルの地ではあまり変化が起こらない星だっただけで。


 しかし、彼らはドールなのだ。変化しない整った美しい身体を持った男たち。ナギは男たちの姿かたちをしっかりと目に焼き付けた。



 男達が空港に入って行くのを建物の隅から座り込んで見ていると、通りかかった男がナギにチャリーンとお金を放った。

 ナギは金とくれた男を見比べた。男はもう行きかけている。慌ててお金を拾うと男の後を追いかけた。


「あんた! この金」

「何だ」

 振り返った男は大きかった。この地の砂色の人々と違う、長い鼠色の布っ切れを被っているが、中は日に焼けた褐色の肌をしている。


 怖げな男だが、ナギは必死になって貰ったお金を差し出した。

「俺は金を恵んでもらうつもりはないんだ」

 男は首を傾げてナギを見たがすぐに興味を失い向きを変えて、また大股で歩き出した。

 頭にターバンを巻き、グレーっぽい衣装にぐるぐると腰布を巻いていて、その上から無造作に、長い鼠色の布っ切れを被っている。腰に下げているのは剣だろうか。


「待ってよ。この金で俺を買ってくれ!」

 ナギは大男の後を必死になって追いかけた。男の前に回りこんで訴える。

「五月蝿いガキだな。何を売るって?」

 男がナギの首根っこを摘んで持ち上げた。目の前に男の顔が来た。浅黒い顔。額に赤い宝石。黒い瞳がナギを見る。


「俺の身体を買ってくれ」

 ナギは男に訴えた。男はしばらく首を傾げて摘み上げたナギを見ていたが、やがて下ろして「付いて来い」と言った。ナギは大股で去る男の後を必死になって追いかけた。

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