2 壊れたスペースシップ
ジャンク屋に戻ってオヤジに酒を渡すと、ナギは乾パンの袋を抱えてガラクタの山に逃げた。
今日、ボロボロに壊れたスペースシップが清掃シップから運び込まれた。あれはまだ見たことのない新型機だった。こんな田舎では滅多にお目にかかれないものだ。あれの中に隠れていよう。新しいシップを見るのはワクワクする。
壊れたスペースシップには熱線で撃たれたような疵があった。
(撃たれて、堕ちて、大破した……?)
ナギは壊れてグニャグニャに折れ曲がったシップをぐるりと見た後、操縦室を探した。天井は潰れているけれど小柄なナギの身体なら潜り込むことが出来た。
操縦席の下に座れるだけの空間を見つけてそこにしゃがみ込み、乾パンをくわえて改めて内部を見回した。
数人乗りの小型スペースシップのようだった。はじめて見るような機材が使われている。こんなシップにどんな人が乗っていたのだろう。ナギは何となくこのシップが気に入った。
(いずれオヤジの手に掛かって解体されるまで、ここに来て……)
ナギがそう思っているとウィーーンー……と、低いエンジン音がした。ナギは周りを見回した。シップの内部から音がする。何処から聞こえてくるのか。
『……ガ……ピ……』
運転席の下の辺りから音がする。
『ガガ……ガ……』
ついでに瀕死の鳥が羽ばたくようにブル……、ブルルルとシップが振動した。驚いたナギが乾パンを抱えて逃げようとすると、雑音のような音は人の声のようになった。
『ナ……マエ……、ピー……、ナマエ……』
ナギは逃げようとした動きを止めた。シップが喋った。そういえば、マシンの中には人工知能を搭載していて、人間のように話をするタイプのものがあるとオヤジが言っていた。
『ピー……、ナマエヲ……』
「お、俺はナギだ」
『ナギ……』
シップの何処からか赤い光線が出てきて、ナギの身体を舐めるように何度も往復した。ナギは息を詰めて身体を硬直させたまま待った。やがて赤い光が消える。
『ナギ……、ニンシキカンリョウ』
ナギはぐったりとその場に脱力した。
『ナギ……』
「なっ、何だよ」
『シュウリ……シロ……』
シップはピーピーガーガーと雑音のする合間に、切れ切れにナギに修理を依頼してきた。
「俺に出来るのか?」
『デキル……、イウトオリ……ヤレ……』
随分と横柄なシップのようだった。どうせオヤジが酔っ払って管巻いて寝付くまでは出て行けない。暇つぶしに丁度いいかとナギはシップの言う通りに修理を始めた。
シップの命ずるままに廃材から型落ちの部品を持ってきて、切れた配線を繋ぎ部品を交換してゆくと、シップの声は段々明瞭になっていった。雑音もあまり入らなくなった。
「お前って丈夫だな。これだけ撃たれて、墜落して」
『私ハ最新式ノスペースシップダ。ボディニハ特殊炭素合金ヲ、ツギハギ無シニ使イ……』
自分の性能を滔々と自慢し始めた。
「はいはい。で、何で撃たれたの?」
『ゴ主人ヲ逃ス為ノ囮ニナッタノダ』
シップは得々と自分の行為を語りだした。どうやら悪者に追われたこの船の持ち主をどこかに降ろして囮になって逃げる途中やられたらしい。随分頭がよくて、主人思いのシップのようだった。これが人間なら自慢したくもなるだろうが──。
しかし、シップの自慢したボディはナギの下手糞な修理でツギハギだらけになった。
「飛べる?」
ナギは心許なさげに聞いた。
『近距離ナラ、モツダロウ』
「ふうん……、お前って自分で勝手に飛んで行きそうだな」
『礼ハスル』
(コイツ本当にシップかよ)
このシップは飛んで行きたそうにしているけれど、勝手に燃料を入れたらオヤジが怒るだろうな。そろそろオヤジも酒盛りの後の爆睡から目を覚ます頃だった。
(とりあえずオヤジの家に帰らなければ……)
ナギはしばらく一緒に暮らしたシップをペチペチと撫でて、オヤジの家に向かった。
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