一話 旅立ちは壊れたマシンで
1 ジャンク屋の少年
ヒュルルルーーー……と風が吹く。切り立った回廊のような岩山を抜けて風が吹いてくる。所々に植物がしがみ付くようにして生えている赤茶けた台地に。
その広大な台地に、今一隻の清掃シップが到着したところだった。
清掃シップは着陸すると、船の倉庫からドロドロとガラクタを吐き出してゆく。その吐き出されたガラクタをフォークリフトを使って選り分けている少年がいた。年の頃十四、五歳。髪も顔もオイルが染み付いてどちらが前か後ろか分からない。ただ淡い茶色の瞳だけが生き生きと輝いている。
「あ……」
ガラクタの中にぐちゃぐちゃに壊れた新型のスペースシップを見つけて、少年の手が一瞬止まった。
「早くしろ、ナギ! モタモタすんな!!」
すかさず、赤ら顔をしたジャンク屋のオヤジに怒鳴られる。ナギと呼ばれた少年は、大きなフォークリフトを操って、必死になってガラクタを選り分けた。
中央から遠く離れ、たいした産物もなく、砂漠と、毒虫が住まう密林だけの、星図にも載らない忘れ去られた辺境惑星カダイル。全土に生息する毒虫とそれが媒介する恐ろしい疫病の所為で、望むと望まぬとに関わらずこの地に追いやられた人々の中でも、生き残れる人間は少ない。
その所為で、他の星々では変化する身体も、この星ではほとんど変化しないといっても、自ら移住してくる人間はいない。この地で生き残ったわずかな人々と、住むところも親も失って、この星に捨てられた子供たちが、細々と命を繋いでいた。
辺境惑星カダイルにある孤児院でナギは育った。人はガラクタを捨てるように、この星に子供を捨てていく。
ナギは、ボロに包まれて孤児院の前に捨てられていたという。名前も何もなくて、孤児院をしている黒髪の神父がナギという名前をくれた。季節風の強いその星で、ナギの泣いていた日だけ風が凪いでいたからだと神父は言った。
孤児院には清掃シップでガラクタと共に運ばれてきた子供が、数十人ばかり神父に面倒を見られて、貧しく倹しく暮らしていた。
毒虫の疫病の所為で大した耕作地もなく、人も少なく、食事は朝晩二回のイモと菜っ葉の薄いスープと、この地でわずかに穫れる麦で作った黒パンだけだった。
孤児たちはいつもひもじい思いをしていた。それでも孤児院にいる間は食事とねぐらがあった。
十五になると孤児院を出て行かなければならない。ナギは山一つ離れた所にあるジャンク屋に雇われた。年を食ったオヤジがガラクタの山でエアカーやら、スペースシップの屑を解体して糊口を凌いでいた。
無口だが腕の方は確かでナギに色々なマシンのことを詳しく教えてくれたが、酒癖が悪く、酔うと狂暴になって暴れだした。
「クッソー!! 俺はな、世が世ならこんな田舎で冷や飯を食っているような身分じゃねえんだぞ!!」
怒鳴りまわして当り散らし、近くにいるとぶん殴られるし何が飛んでくるか分からない。そういう日は、ナギはガラクタの山の中に逃げ込んで過ごした。
その日もオヤジは、清掃シップから貰った解体品の代金をナギに渡して酒を買いに行かせた。
ナギがエアカーで小さな峠を一つ越えた雑貨屋に行くと、太ったおばさんが出てきて、ナギが持って行ったボトルに酒を量って入れてくれる。
それを待っている間、ナギはぼんやりと店のショーケースに陳列してある美味しそうな食べ物を眺めていた。オヤジが酒を喰らい始めると食事が抜きになる。まだ十五歳のナギにとって空腹は一番辛い事だった。意識が食べ物のことに集中した。
「欲しいのかい?」
ナギの様子を見ていた店のおばさんが聞いた。
「え? うん、でも……」
おばさんはショーケースの中からではなく、手許から袋に入ったものを寄越した。乾パンが入っている。
「残り物だよ。お食べ」
「あ、ありがとう!」
店のおばさんに礼を言って、ナギは乾パンとオヤジの酒とを受け取った。
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