幕間 ルス


 小型のバイク型のエアカーを駆って久しぶりに街に出ると、そこには雑然とした喧騒が渦巻いていた。

「にぎやかね」

「ああ、この星にインティがいるらしいってんでな」


 街に食糧を買いに出かけたルスは、行きつけの薬局で狩りの事を知った。

「奴ら遊びのつもりでいやがる」と、薬局の親父は顔を顰めた。祖母の持病の飲み薬を受け取るルスの手が震える。



 インティ狩りはサイボーグの人々の娯楽になっていた。

 インティは丈夫で足が速く、息も続けば跳躍力もあるといった、力とか強さとかの能力に加え、特殊な能力を持つ者が多かった。岩を動かしたり、とんでもない所に一瞬のうちに行けたりといったものがそれで、サイボーグには逆立ちしても出来ない事だった。


 ルスの一家はインティだ。外見はこの星特有の黄色い肌とめくれた唇を持つ、この街の人々に合わせているけれど、それは幻惑をかけているわけで、インティのルスが持つ特殊能力の一つだ。



 ルスは慌てて家族に知らせるために街を出た。しかし遅かったのだ。

 ルスがエアカーを駆って山を越え、家のある盆地に入ると、その辺りにはすでに狩りをするサイボーグの男達が乗るエアカーで溢れかえっていた。


 逃げなければならない。万一の事があったとき、家族の集まる場所というのが決められていた。ルスはそこに向かって急いだ。誰かが逃げ延びていることを願いながら。


 しかし、途中で見つかった。

「いたぞー」

「女だ! あっちに行くぞ!」

 狩りの男たちがエアカーを駆って追いかけてくる。ルスは逃げた。たくさんのサイボーグの男たちに追いかけられていては、逃げるのに精一杯で幻惑も使えないし、飛べなかった。


 耳元を男たちの放ったスタンガンの熱線が通り過ぎてゆく。捕まったらおしまいだった。切り刻まれて実験材料にされるのだ。ルスはサイボーグたちのエアカーを避けながら必死になって逃げた。

 しかし僻地のエアカーは、サイボーグたちが駆る最新式のエアカーに比べて格段に性能が落ちた。ルスがインティで、能力が少しばかりあってもどうしようもなかった。


 目の前にルスの行く手を阻むように突然切り立った崖が現れた。その向こうは広大な湖だった。こんな所まで逃げて来たのか。絶望的な思いで視線をめぐらせた。

 湖の岸辺に人がいるのが見えてルスの注意が一瞬それる。熱線がルスの背中を焼いた。

「きゃあぁぁーー!!」

 ルスの身体は湖の中へと落ちて行った。

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