2023/05/22埼玉県加須市 中に花が入ってる回さなきゃいけない箱のある家

 うーん、雲が多い。もうすぐ雨らしいけどちょっとだけ外でやる事あるなぁ。まぁ3分くらいなら大丈夫かな。

 俺は外にでて箱を回す。定期的にこの箱を100回転さないと、箱の中にある花が枯れてしまうとグランヴィルに言われたのでしょうがない。


 くーるくーる、回していると背中に何かがポツリと落ちるのを感じた。あらら、雨が降ってきたか。強くなる前に終わらせて『かかったなクソ下民がよォォォッ!!ゲリラ豪雨じゃボケェ!!』

 ぎゃああああああああ!!


「うわっ濡れネズミが入ってきた」

 グランヴィルさん辛辣っすね。

 いやもう、一瞬でずぶ濡れである。大雨がなんぼ何でも急すぎる。もっと段階踏んで雨脚って強くなるだろ、何で今日は最初からクライマックスなんだよ。天からの悪意を感じるレベルだぞ。

「とりあえず体を拭きなよ。風邪ひいちゃうって」

 グランヴィルがタオルを差し出す。本当は雑巾にしか見えないがタオルということにしておこう。

 

「ねえねえ、あれ見て♡玄関の隙間から雨水がびちゃびちゃ♡」

 グランヴィルは真顔で言った。俺も真顔だった。雨を防げない家屋の絶望感やばい。

 適当な布をかき集めて玄関前に堰を構築。あとは無限にモップをかける、雨が止むまで。

「先生、モップ壊れました」

 いきなり唯一の装備を壊すんじゃねえ!モップの布部分が外れてるじゃねえか……そこに転がってる金具なんだよ!?

「いやなんか、ここのフック?的な部分がうまくはまらなくて」

 あっそれは俺が前に曲げちゃったせいっすね。

「八の型、篠突く雨!!」

 モップで時雨葵燕流を打つのやめてください。雨だけにってか。


 この後、俺たちは2時間くらいノンストップモップだった。じわじわと雨水が入ってき続けるのを、ひたすら無言でモップがけする。モップ絞り器には大量の濁り水が溜まっているが捨てに行くタイミングもない。


「私、モップってアレがイメージ強いな。魔女の宅急便」

 魔女宅?あー、パン屋の部屋を掃除とかするシーンで使ってたっけ?

「いやほらクライマックスでさ」

 それデッキブラシだろ。

「エ?あっそっか……」

 会話もグダついてきた。もう駄目だよ。


 玄関に雨がぶつかる音が聞こえなくなっている事に気が付いた俺たちは、恐る恐るドアを開けた。まだ雨は降っていたが豪雨ではなくなっていたし、風も止んでいた。

 久しぶりに雨でこんなにドタバタしたよ。


 すっとグランヴィルが手ぶらで外に出ていく。おいおいと俺も傘を手に外に出ると、彼女は箱を覗いていた。例の回す箱だ。

「花、沈んじゃってる」

 見てみると、箱の内側に水槽めいて水が溜まり、花が水草のように水中で揺れている。グランヴィルは箱を持ち上げて水を庭に流した。

 俺は流れた水を目で追う。舗装された庭に広がって元々の雨跡と区別できなくなる。

 近くで稲光。コレが春雷ってやつだろうか。

「カミナリ怖いから、今日は箱と一緒に寝ようかな」

 グランヴィルが雨に打たれながら箱を撫で、そんな事を言った。

 

 今日は雨の日。他に特に無かった日。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る