2023/05/21群馬県多々良沼
さて、この日記を書き始めた4月30日。あの時は突如湧き上がった執筆欲求に従ってめちゃ時間使っちゃたから直帰したけど、本当は美術館観た後でここに来るつもりだったんすよ。
というわけで来たぜ多々良沼。正確には多々良沼公園。
これはもう初夏といって良いんじゃないかな。休みに歩くには抜群の気候だよ。
「そうだねぇ」
グランヴィルは柵にもたれ掛かり、多々良沼をのんびりと眺めている。風が穏やかに木の枝を揺らす音と、楽しそうに釣りをする子供の声を聴きながら、沼の揺れる大きな水面を見つめていると心が洗われるようだ。
そう、火気厳禁の公園内でバーベキューしてる連中が視界の端にあっても、どうやらそいつらが流しているらしい音楽が漏れ聞こえてこようとも、冷静に落ち着いていられる。冷静に通報だけした。
対処してくれるってさ。
グランヴィルが沼を見るその表情は穏やかだったが、その拳は硬く握られていた。
「じゃあ私があいつらを沼に沈める必要はないのね」
沼を汚すな。あ、パトカー来た。
「ここから先は彼らの仕事……ね」
さて、歩いているうちにいい感じに雲が出てきて快適な気温になってきた。だいたい中間地点のガバ沼のベンチに座って休憩する。ここは季節が合えば白鳥が見れるらしい。
「ねえ、あれもしかして白鳥?」
グランヴィルが草むらを指さして言う。いやいや、白鳥は越冬のためにここに来るらしいから、流石にもういないだろう。そう思っていたが、たしかに草の隙間に何か白いものが見える。
「おーい、白鳥ですか?」
「そうハクチョ。アタイは白鳥でハクチョ」
あっ白鳥じゃないわ。
「なーんだ、白鳥じゃないのかぁ」
そんなに白鳥が好きだったのかグランヴィル。
ところで柵に座って釣りしてる少年がさっきから心配でならない。何がそこまで彼を掻き立てるんだ普通に危ないぞ。
いまだに歩いていると、頭の中に和田アキ子のさぁ冒険だが流れる。曇ってるのに。ワクワクするこの気持ちなんだろう。
「さぁぼーおーけーんだぁー」
多々良沼、沼という言葉のイメージとは違い見た目はでかい湖だ。ボートに乗った釣り人とかもいる。ボートに乗ってない釣り人もいる。ようするにたくさんの釣り人がいる。ちらっと見てみるとモバイルバッテリーみたいなサイズのルアー?浮き?的なものを付けてる竿が多い。そんなでかい魚いるのここ?
「見てこの竿、蛙の形のルアー付いてる」
周囲ではグゥグゥと蛙の鳴き声が響いている。ルアーなくてもその辺で捕まえたらいいんじゃないかな蛙。
グゥ~。
どうやら抗議された。
さて、最後にこの夕陽の小道を通ったらゴールだ。夕陽の小道ってくらいだからここから見る夕陽が綺麗なんだ。水面にいい感じに映って……。
「曇りです」
はい。
あ、そういえばこの道ってさぁ。
「?」
なんかめっちゃスズメバチ飛んでるんだよな。
「いるいるいるいる!飛んでる!でかいのが!」
うーん、マジでスズメバチよく見るなここ。
「いやサイズ感と距離感が怖い!」
何もしなきゃ大概大丈夫とは頭ではわかってるんだけどね。
うん、休憩しつつ一周2時間半か。美術館回った後に歩くのはちょっとキツイかな。
「多々良沼いいところだったね。沼の景色はいいし、公園は緑豊富で気分いいし、ちょいちょいベンチとか自販機あって休みやすいし。また来たいね」
今度は逆回りで歩こう。人多すぎてさらっと見ただけの弁天様とかもっとしっかり見たいし。ちゃんとした白鳥にも会ってみるか。
じゃあ帰ろう。ほれ車に乗り込めー。
「ねえ、こっち見てるよ」
グランヴィルがまた草むらを指さした。
まったく、ちゃんとした白鳥に会いたいって言ったばっかだろ。
草の隙間にまた白いやつがいるのが見える。そしてその隣に……金属光沢?
「僕の友達が君たちに会いたいらしいハクチョ」
白いのが言うと、金属光沢の方が草むらから出てきた。
ウサギだ。金属のウサギだった。
「あれっあのウサギってあいつだよね?美術館の」
多々良沼のすぐ近くに館林美術館がある。そして美術館の外にウサギの像がある。今目の前にいるのはそのウサギだった。
さらにそして、そのウサギは“こっちの多分日刊プリコラージュダイアリー”第一回、4月30日の日記に出てきている。
ウサギはこちらをジッと見つめながらボソボソと何か言っている。耳を澄ませてみよう。
ビジュツカンニイコウビジュツカンニイコウビジュツカンニイコウビジュツカンニイコウビジュツカンニイコウビジュツカンニイコウ……。
「うわっなんだこいつ怖いハクチョ」
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