2023/05/15埼玉県某コンビニ駐車場
車内は沈痛な空気に包まれていた。俺もグランヴィルも俯いて何かを言う気力がしばらく湧かなかった。買ったばかりのおにぎりやサンドイッチに手をつける気になれない。あんなに空腹だったのに、夕暮れはもう違う色。
何故か?
「冷えたシュウマイを食べたからよ」
冷えたシュウマイを食べたからだ。
時間を戻そう。
俺たちは軽食を色々と買ったが、その中に6個入りのシュウマイがあった。持って帰って食べるつもりだったのだが、2人とも凄く腹が減っていたので車内でパーティーと洒落込もうぜ!となった。
で、まずシュウマイを開けた。肉が食いたかった。ただ、持ち帰るつもりだったので当然温めてない。冷蔵されていたのでヒエヒエだった。今から店内に戻って"やっぱ温めお願いします!"するか?いやなんか恥ずかしいしな……肉お預けか?
そこで、グランヴィルが囁いたのだ。
「冷たくても、きっと美味しいよ♡」
今思うと、彼女は正気ではなかった。
「温めなくても平気だよ♡」
空腹により正常な判断力が欠けている。
「シュウマイだから大丈夫♡」
なんの根拠もない。
「お・な・か、ペコペコでしょ♡」
俺は、弾けた。
シュウマイの冷気を掌に感じつつ開封!
割り箸にシュウマイをぶっ刺してシュウマイ3兄弟×2を召喚!
グランヴィルに3兄弟を一本パス!
パーティー、始まるザマスよ!
「いくでガンス!」
ふんがー!いただきマンモス!
「いただきマンモス!」
そして現在に至る。
車内にシュウマイ臭が漂う中、グランヴィルが重い口を開いた。
「すいませんでした……」
真っ直ぐな謝罪だった。
「いや、最高とまではいかないまでもね、こう、テンションと空腹でいい感じになると信じて疑わなかったんです」
わかる。わかるよ。
俺もそう思ったもの。
知らなかったよ、味と香りはシュウマイだけど冷たいって状態が、どれだけ脳と胃に負荷を強いるのか。
味と香りはシュウマイ、でも冷たい。シュウマイは熱い、ならこれはシュウマイではない?いや味と香りはシュウマイなのでこれはシュウマイ。でも熱くない、シュウマイは熱い。冷たいはシュウマイじゃない。でも味と香りが……。
頭の中のシュウマイの常識が口内の情報と衝突して、決して不味くはないのだが、脳が美味いと認識しない。
「最初の一口目で折れたよね。何かが」
あと油の塊がシンプルキツい。熱い時はあんなに美味な肉汁なのに、冷えた貴女はただの脂質。
「すごい、あんなにお腹空いてたのに食欲なくなっちゃった」
大量の食物がエコバッグの中でこちらを見つめていたる。俺たちは目を逸らす。しばらく食物を見たくも無かった。
今日の日記のネタ決まったよ。これは記憶しなきゃ駄目だ。俺とグランヴィル、そして親愛なる読者たちが、2度と同じ過ちを繰り返さない為に、俺は記すよ。
「すいませんでした……」
本日のライフハック。
・空腹で買い物をしてはいけない。
・シュウマイは温めた方が美味しい。
・冷えたシュウマイは数個で空腹がぶっ飛ぶ。
・シュウマイ3兄弟にはなんのアドも存在しない、
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