2023/05/14雑草地獄

 ぽつぽつと雨が降っているのを俺とグランヴィルは倉庫の中から眺めていた。俺たちは2人とも安全ゴーグルと特殊なエプロンで防備を固めている。

 このまま雨足が強まるようなら、今日は中止。雨を眺めてカップ蕎麦啜るだけで日曜が終わるだろう。

 だが、もし雨が止むならば。

「キックオフね」

 彼女の瞳にゆらめく炎は、雨天程度で消せはしない。そして俺の心の鋼の刃は、雨天程度で錆はしない。


 倉庫の屋根に響く雨音が弱まるのを聴き、2人は武器……草刈り機を手に取った。


 俺たちは草を刈りにきたのではない!草を絶滅させにきたのだ!

「デストロイグリーン!デストロイグリーン!」

 Ladies&Gentleman,start your engines!

「スターターロープ、引きます!」


 二基のエンジンが、曇天に向かって高らかに唸り声を上げる。ナイロンの刃が高速で回転し、その残像に殺意がこもる。

 俺はイヤホンをつける。この恐るべき兵器の叫びを聴き続ければ呑まれてしまう……それを防ぐためだ。スマホを創作し、兵器の狂気を抑え込むイカしたBGMを流す……"怪談詰め合わせ2時間"。コレで俺は……万全だッ!

 

 死ね雑草どもがああああああああ!!

 草刈りで発生する砂埃を吸わないように心の中で俺たちは叫んだ。勿論マスクも付けている。真の戦士は油断しない。


 ナイロンコードは龍の爪めいて閃き、雑草を引き裂いていく。

 草刈り機が地表を妖精の舞めいて滑るように撫でると、その軌跡には破壊のみが残される。

 草による切れ端や謎の汁の投擲による反撃は、ゴーグルとエプロンによって完璧に塞がれた。


 草に勝ち目は無かった。たった2人の戦士の手により、雑草地獄と呼ばれた小さな地域にしばしの、平和が訪れたのであった。


 2時間後。

 グランヴィルは草刈り機を下ろし、身につけた防具を脱ぎ捨てる。そこにいるのは、先程まで壮絶な戦いを繰り広げていたとは思えない、普通の少女であった。


 俺は草だった物が散らばる戦場を目の前にして、赤のどん兵衛を啜る。束の間の平穏……2週間もすれば奴らはまた現れる。これから気温の上昇と共にその勢力は急速に強大になるだろう。


 草と人類の戦争は終わらない。どちらかが滅びるまで闘争の螺旋は続いていく。


 俺たちの戦いは、これからだ!

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