2023/05/01 €玉県蓮Ω市車内/利根川

 温めが足りない感じのカツサンド食いながら思ったんだけどな、多分今日は日記に書くようなことなんも起きずに平々凡々に終わりそうです。


 天気は曇りがちの晴れ。

 風は強いが程よく涼しく、一生この気候ならいいのにDAYである。これであとはなんかイベントでも起きてくれれば最高なのだがそんな気配はない。

 え?ゴールデンウィーク?知らん。


 早速このシリーズ破綻したので頼れるヒロインに助けを求めようのコーナー。後部座席でコムタンクッパを箸で食ってるグランヴィルさんヘルプお願いします。


「夜出かけてなんかすんぞ」


 えぇ……夜ぅ?


「昼間から夕方にかけては暇ないなら、じゃあ夜でしょ。坂東太郎のツラでも拝みにいきましょう」


 妄想の産物と夜の河川敷デートかぁ。このシリーズホラータグつけてねえよ。


 突然、助手席に大柄な男が滲み出てきた。俺の自室にあるはずのボロジャージを齧ってる。

 ……あっ!彼は坂東太郎さんその人だ!

 

「ドーモ、坂東太郎です」

「ドーモ、グランヴィルです」

 ドーモ、ダメ人間です。


「坂東太郎こと利根川からの忠告聴いておくれ。夜に車で来ても駐車場空いてないぞ。あとググればわかるけど、坂東太郎ってのは利根川の通称だ。なんとなく流れで理解できるように書いたつもりだけど物語は対象の年齢より3つくらい下げて書けって志多見砂丘のおじさんが」


 イラっとしたらしいグランヴィルが坂東太郎を車から引きずりだし、セブ×イレブ×の駐車場で華麗にキャメルクラッチをキメるのを眺め、俺は妄想を放置して車を走らせた。

 1人きりだと、春の風が少し肌寒い。




 さて、結局ノーイベントだったので無理にでもイベント起こすべくやってきました22時の利根川。

 色々なあれこれを終わらせた後で疲れている俺とは違って元気なグランヴィルは川にかかる橋の歩道に向かって駆け出した。


「河川敷はあまりにも暗黒だし、あの橋の歩道から川見ようよ」

 車内でそう言った彼女は一見つまらなそうだったが、単にポーカーフェイスなだけだったようだ。

 そういえば勝手に彼女のモデルにした女性の顔はチラッと見ただけなので、そのせいでグランヴィルの表情の変化も想像しづらいというのはあるのだろう。いやクソみたいな話だ。


 先を行く彼女をスマホで撮ったりしながら俺はついていった。撮られていると気付いた彼女はポーズをとったり近づいてきたりと、表情は乏しいが機嫌は良さそうだった。俺の気分がいいせいだろう。橋の中央部で立ち止まり、暫く利根川を眺めた。


 明るく照らされた橋の上とは違い、夜の利根川は暗闇と影のモノクロだった。

 広がる景色はひたすらに黒。

 濃淡の違う幾つもの黒がたまたま川の形をしている、そんな風に感じた。


 ……夜の川ってこんなに怖いもんなのか。何かが、人なんかよりも大きくて力のある"ナニか"の影が足元を這いずってるようにしか見えない。

「なんだろうね」隣で彼女が呟く。

「ここ、落ちたら絶対に死ぬんだろうって、なんかすごい思った」


 まさか、こんな日記のネタの小話集めで、自然の怖さというヤツに触れるとは。

 いやいや全く。

 書いてみるもんだ日記。


 帰り際、どこからともなく昼間のアイツの声がした。多分、川の底から。坂東太郎は俺に語りかけてきた。


<次は昼間に、家族とか友達とかと来いよ。綺麗なもん見せてやるからよ。一人で何やってんだよお前さんよ>


 おかげで思ったよりいい1日だったよ。


 


 

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る