第8話 王妃の務め

作者 武緒さつき♀


武尾さぬき先生の白と黒の聖女第8話女神の声

https://kakuyomu.jp/works/16817330655920324577/episodes/16817330655986434049


 第8話 王妃の務め


「継母さんのトレメイン夫人とアナスタシア姉さんは元気なの?」


「相変わらずよ、二人ともパッとしないし、シーラちゃんがいなくなってから私がいじめられる役、双子だからかな。」


「そっかー。トレメイン夫人、アナスタシア姉さんの性格は多分一生変わらないねー。」


 彼女は、足元に転がっていた石ころを勢いよく蹴飛ばした。


「『ドリゼラお姉ちゃん』って呼んでくれてもいいのよ?」


「ええー! ドリゼラ姉さん、で勘弁しといて、ドリゼラ姉さん、がいいのよ!」


「冗談よ。けど、シーラちゃん……。私、家に帰ってるんだけど、やっぱりシーラちゃんは街に戻って宮殿の人と合流したほうがいいと思うわ?」


「えー! 絶対イヤなんですけど! どうせ王立図書館に連れてかれて夜までずっと国書の写本させられるんだから!」


 シーラちゃんは、びっくりするくらいのわかりやすい不機嫌な表情になった。独り言のようにぶーぶー文句を言っている。


「王妃様ってやっぱり大変なんでしょうね? よかったらどんなことしてるかちょっとだけ教えてくれないかしら?」


 私は興味本位で聞いてみた。





 フランス王国はかつてのフランク王国が分裂してできた国。

 チャーミング王子こと現ルイ10世はおぼっちゃま国王だった。


 『国書の写本は人を幸せに導く』


 この教えの元、国の実力者は王妃の書き写した写本を崇拝している。驚かされるのは、王妃様の写本は本当に私たちの悩みを解決してくれることだ。


 首都ハミシバの宮殿を中心として、国の様々なところに地方領主の館が設置されている。そこには「天書図書館」と呼ばれる、王妃様が写された写本が準備されている。様々な悩みやお困りごとのある貴族はそれを読むことで大抵の問題は解決してしまう。


 もちろんすべての天の声が書かれているわけではない。2度3度問題解決経験がある人もいれば、結局解決しなかった人もいるそうだ。ただ、私もたった1度だけその天書を読んだことがある。

 そして、重要なのはその天書に書いてある通りに行動すると、お悩みはほとんど解決されるのだ。事実、私もそうだった。


 その「天書」を読み、ご神託を頂けるのが王妃様の写された写本、天書だと言われている。それを領主や貴族がさらに書き写して、私たち民衆に教えとして届けてくれているのだ。


 伝え聞く話だけなら、王妃様はまるで古代の神々と会話をしているようだ。そして、今目の前にその「王妃様」がいらっしゃるわけだ。


 私は好奇心を抑えられないでいた。

「大変も大変! 人前に出る時は、難しくてわけわかんないこと覚えて話さないといけないし、それ以外はほとんど王立図書館に篭って写本写本ばっかりだよ!」


 シーラちゃんの口調から本当に大変……、というか嫌々やっているのが伝わってくる。彼女は民衆が求める理想的な「王妃様」を演じさせられているのだろう。


「『写本』ってどんな感じなの? ありがたい言葉がならんでたりするとか?」


 私は自分なりのイメージを伝えてみた。心の奥でそんなこと訊いていいのか、と問いかける私がいるのに気付いていたが、好奇心がそれに勝っていた。


「違うよ! 普通に書き写すだけ、見張られながらね。」


 私は心の底から驚いた。


 王妃様の存在意義を疑っていたわけではないけれど、そんな現実的な作業?だとは思っていなかったからだ。


「あっ! いっけねー……、今のなし! なし! なんか絶対外で話したらダメって大臣に言われてたんだった!」


 彼女は両手で大きく「×」をつくって私に提示して見せた。


 なんか私、ひょっとして知ったてたらマズい話を聞いてしまった気がするのだけど……、気のせいかしら?


 とりあえず、今の話は胸の奥にしまっておこう。そう思って彼女のいる方向から前に視線を戻すと、こちらに向かってくる数人の人影が見えた。遠目にもそれが宮殿の関係者だとわかる服装をしている。

 後ろにいるシーラちゃんの方を振り返ると、後ろからも同様の格好をした人影が迫っていた。


「ひぇっ…、挟まれたよ。さすがにもう逃げらんないかな……?」


 彼女はまるで頭痛でもするように、こめかみを押さえて首を振っていた。

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