第7話 指切り

作者 武緒さつき♀


武尾さぬき先生の白と黒の聖女第7話

https://kakuyomu.jp/works/16817330655920324577/episodes/16817330655983860502


第7話 指切り


「ねぇねぇ! お姉様、最近の様子全部教えてよ!」


 妹シンデレラ様は帰り道をずっとくっついて来た。私が思い浮かべていたお高く止まった妹、シンデレラ様とは、イメージがずいぶんとかけ離れているが、この子はどうやら間違いなくあの灰かぶりの妹、シーラ王妃様のようだ。



――時間は少しだけ遡る。


「お久しぶりです!お姉様!」


 まるで鏡を見つめているようないつもの感じ、ただ目の前にいるのは双子の足の小さな妹だ。そして、王子にみそめられて王妃となった憎い妹だ。


「あの……、シンデレラ王妃様…ですよね?」


 彼女がいることで私は確信した。きっと妹シーラ王妃様が宮殿からいなくなって、宮殿の人たちが捜しているんだわ。それで、よく似た私をシンデレラと勘違いしてしまった……。


「まぁ、なんてーか……一応、『王妃』のシーラでーす」

 軽いノリで話してくる。

 いじめてた時はわからなかったけど、この子こんなノリだったんだ。


 この話し方……、彼女も私と一緒でよく似た別人かと思うくらい品が無い。宮殿でお見掛けしたシーラ様の上品で気品高い姿とは似ても似つかない。


 だけど、双子の姉妹がこの近辺だけで実は3つ子4つ子だったなんてことあり得ないと思う。やっぱり、本物のシーラ様なのよね。


「大丈夫なんですか、こんなところにいて!? 宮殿の方々が捜しているようでしたよ!?」


「知ってるわよ、だって脱走して来たんだもの」


 彼女は特に悪びれる様子もなくそう言った。


「だっ…脱走って……、マズいんじゃないですか!?」


「どうだろ? 今回で3回目だからさすがに怒られちゃうかも?」


 3回目……、常習犯じゃないですか、シーラ王妃様。


「でねでね! バザールの辺りまで逃げてきたら騒ぎが起こってて、そこで姉さんを見かけたわけよ!」


 どの辺から見られてたんだろう?


 手を振り払おうとして投げ飛ばしたところ?


 拳でぶっ飛ばしたところ?


 屋根の上まで跳んで逃げたところ?



「ねぇねぇ! 姉さんの近況全部教えてよ、屋根に飛ぶとかいうスキルいつ手に入れたの?」


 えぇ……。


 なんかこの子すごくマイペースで、私の話あんまり聞いてない気がする。一緒にいて大丈夫なのかな?


「私は……、もともと脚力はあるのよ。」


「いじめられてた時は怖くて呼べなかったけど、これからはドリゼラ姉さんて呼んでいい!?」


 出会って数分でいきなり何なの?何を企んでいるの?


「ああ……、はい。かまいませんけど」


「やっりー! じゃあさ、ドリゼラ姉さんももワタシをシーラと呼んでよ!?」


 シーラ様は、帰り道を行く私の周りをくるくるとまわりながら絶え間なく話しかけてきた。一応、先ほどの白い頭巾を改めて被って……というより、巻いて顔を隠してはいる。私も念のため、前髪を左目の方に垂らしていた。


「そんな……王妃様を呼び捨てなんて、ちょっと」


「遠慮しないで! 双子の姉妹でしょ、偶然会えるなんてきっとワタシたちなんかの運命に導かれたのよ! それにドリゼラ姉さんは、でっかい男を投げるし飛ばすし、屋根の上まで跳んじゃうし! 超かっこいいよね!?」


 ぜっ……全部見られてる!? なんで間に入ってくれないのよ!?


 とりあえず、考えよう。うっかり呼び捨てにしたら不敬罪で殺されるとか、逆になにか言わないときっとそれはそれで殺されるわ。なんとかして、宮殿の人に連れて帰ってもらわないと……。



「シーラ様」


 シーラ様は、両手の人差し指を自分の顔に向け、少し傾げてオウム返しをした。仕草がちょっと可愛い。


「シーラ様は『シーラ様』でお願いします。あまりにも恐れ多いので!?」


「『シーラ様」かぁ……、なんかなあ、『シーラちゃん』と呼んで!決定!命令!それでいっかな。」


 ちょっと不満なのか……「シンデレラ」よりはいいと思ったんだけど。


「じゃあさ! じゃあさ! ドリゼラ姉さん呼んでみてよ!?」


「えっ…と、し…シーラちゃん」


「もっかい! もーっかい!」


 人差し指を私の前に突き出して懇願してくる。なんだか、この子いろいろと可愛らしく思えてきた。


「うん。シーラちゃん!」


「いぇい! ドリゼラ姉さん!今日からワタシたち仲良し姉妹だかんね!?」


 今度は左手の小指を突き出してきた。


 表情豊かで声も大きい、仕草も大袈裟で忙しない。いじめていた時には気が付かなかった、そのイメージとは全然違ったけど、きっと本物の妹、シンデレラ様。


「わかったわ。今から仲良し姉妹よ、シーラちゃん?」


 私たちは左手の小指を絡めて、お互いに微笑み合った。

 裏で蠢く灰色の怪物は静かに成長していた。

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