第8話 女神の声
「ノワちゃんはさ、今いくつなの?」
「私は18よ。ロコちゃんはいくつ?」
「ワタシは17、そっかー。ノワちゃんのがお姉ちゃんなのかー」
彼女は、足元に転がっていた石ころを勢いよく蹴飛ばした。
「『ノワお姉ちゃん』って呼んでくれてもいいのよ?」
「ええー! ノワちゃんがいいの、ノワちゃんがいいのよ!」
「冗談よ。けど、ロコちゃん……。私、家に帰ってるんだけど、やっぱりロコちゃんは街に戻って教団の人と合流したほうがいいと思うわ?」
「えー! 絶対イヤなんですけど! どうせ神殿に連れてかれて夜までずっと神託聞きとりさせられるんだから!」
ロコちゃんは、びっくりするくらいのわかりやすい不機嫌な表情になった。独り言のようにぶーぶー文句を言っている。
「聖女様ってやっぱり大変なんでしょうね? よかったらどんなことしてるかちょっとだけ教えてくれないかしら?」
私は興味本位で聞いてみた。
聖ソフィア教団はこの国の実権を握る大きな宗教組織だ。
『女神ソフィア様のご神託は人を幸せに導く』
この教えの元、国のほとんどの人は女神ソフィア様を崇拝している。驚かされるのは、女神様は本当に「ご神託」にて私たちの悩みを解決してくれることだ。
首都サンドラの大神殿を代表として、国の様々なところに神殿が建てられている。そこには「お悩み書き」と呼ばれる、女神様に宛てた相談事を書き記す書面が準備されている。それを書いて神官様へと提出すると、なんと後日女神様からの「ご神託」という名の返事がくるのだ。
もちろんすべてに応じてくれるわけではない。2度3度経験がある人もいれば、1度も返事がない人もいるそうだ。ただ、私もたった1度だけその返事を受け取ったことがある。
そして、重要なのはその返事にある通りに行動すると、お悩みはほとんど解決されるのだ。事実、私もそうだった。
その「お悩み書き」をお伝えし、ご神託を聞けるのが聖女様だと言われている。それを神官様が書き記して、私たち民衆に返事として届けてくれているのだ。
伝え聞く話だけなら、聖女様はまるで女神様と会話をしているようだ。そして、今目の前にその「聖女様」がいらっしゃるわけだ。
私は好奇心を抑えられないでいた。
「大変も大変! 人前に出る時は、難しくてわけわかんないこと覚えて話さないといけないし、それ以外はほとんどお悩み言って神託聞いてばっかりだよ!」
ロコちゃんの口調から本当に大変……、というか嫌々やっているのが伝わってくる。彼女は民衆が求める理想的な「聖女様」を演じさせられているのだろう。
「『ご神託』ってどんな感じなの? 頭の中に声が届いたりするとか?」
私は自分なりのイメージを伝えてみた。心の奥でそんなこと訊いていいのか、と問いかける私がいるのに気付いていたが、好奇心がそれに勝っていた。
「違うよ! 普通に声が聞こえて話せるんだ。姿は見えないけど」
私は心の底から驚いた。
女神様の存在を疑っていたわけではない。けれど、そんな現実に声を聞ける存在とは思っていなかったからだ。
「あっ! いっけねー……、今のなし! なし! なんか絶対外で話したらダメって神官長様に言われてたんだった!」
彼女は両手で大きく「×」をつくって私に提示して見せた。
なんか私、ひょっとして知ったてたらマズい話を聞いてしまった気がするのだけど……、気のせいかしら?
とりあえず、今の話は胸の奥にしまっておこう。そう思って彼女のいる方向から前に視線を戻すと、こちらに向かってくる数人の人影が見えた。遠目にもそれが聖ソフィア教団の関係者だとわかる服装をしている。
後ろにいるロコちゃんの方を振り返ると、後ろからも同様の格好をした人影が迫っていた。
「ひぇっ…、挟まれたよ。さすがにもう逃げらんないかな……?」
彼女はまるで頭痛でもするように、こめかみを押さえて首を振っていた。
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