第9話 聖女の威厳
「捜しましたよ、パーラ様?」
私たちのところへ最初に近寄って来たのは、若い長身の神官様だった。さすがに2人並んでいると区別がつくのか、それとも教団の人を前にした挙動でわかるのか、真っ直ぐロコちゃんの元へと歩み寄って来た。
さすがに観念したのか、彼女は特に抵抗もせず無言で神官の男性に連れられていく。
「あっ…あの、あまり叱らないであげて下さい。彼女、ちょっと息抜きがしたかっただけだと思うんです」
そう言った私の手を突然誰かが掴んだ。それは後ろから来ていた教団の人だった。
「サフィール様、この者も一緒に連れていきましょう。場合によっては聖女様誘拐の罪を問わねばなりません」
――ちょっと……、なにそれ? 今、「誘拐」って言った?
「ふっ…ふざけないでよ! 誘拐ですって!? 私はロ…、パーラ様と偶然会ってお話していただけよ!」
一瞬、バザールで会った連中みたいにこの男もぶん投げてやろうかと思った。けど、差し向けられたそれを見て私は固まってしまった。
目の前には、陽の光を反射させて美しく輝く鏡のような刃があった。武器屋でしか見たことない本物の剣が今、私に突きつけられている。
いつの間にか、私は前から来た教団の人たちと後ろの人たちに囲まれていた。正面の男は剣を抜いて突きつけ、残りの男たちもいつでもそれを抜けるような構えをとっている。
少し前にちょっと暴れちゃったのがマズかったのかな?
けど、人違いであんな乱暴に連れていこうとされたら誰だって抵抗するでしょう!?
たしかに、普通の人よりちょっとだけ力は強いかもしれないけど……。
「この女はバザールで親衛隊を負傷させております! それに聖女様を連れ去ろうとするとは……、聖女様と顔こそよく似ておりますがとんでもない悪女です!」
「言いがかりよ! ふざけるのも大概にしなさい!」
私は大きな声を出したが、腰は引けていた。さすがに剣を向けられても逆らう勇気はもっていなかった。
少し離れたところで若い神官とロコちゃんがこちらを見つめている。
両手の手首をそれぞれ別の男の手に握られ、さらにもう1人の男に背中を押され、私はまるで罪人のように連行されようとしていた。
――その時。
「控えなさいっ! 無礼者が!」
その声は間違いなくロコちゃん……いいえ、聖女パーラ様の声だった。
「その者は私の友人です、無礼な真似は許さん! 今すぐその手を離さぬか!」
教団の男たちは、歩くのを止めてその場で固まっていた。お互いに顔を見合わせてどうしたらいいかと表情で問い合っているようだ。
すると、ロコちゃんを連れていった神官の男が私の元へとやってきて、教団の男たちの手から私を解き放ってくれた。
「大変失礼を致しました。この者たちに、代わり神官サフィールが心よりお詫び申し上げます」
サフィールと名乗った若い男性は、私の前で深々と頭を下げた。
「あっ…あの、私は別に謝ってほしいんじゃなくて――」
「お一人で外へ出られたパーラ様を守ってくれていたのですね。心から感謝致します」
えっ…と、罪人から打って変わって感謝されてしまったんですけど?
「ここにいる者たちはまだ未熟者ゆえ、どうか私の顔に免じてお許しください」
「そんなのいいんです! ただ、その…パーラ様を叱らないであげてくだされば」
「お優しいご友人にパーラ様は恵まれたようですね」
彼はそう言うと、改めて私に一礼をしてパーラ様の元へと戻っていった。それに続いて、私を取り囲んでいた男たちも離れていく。
離れたところにいるパーラ様に目をやると、笑顔で私にウインクをしていた。その表情は紛れもなくロコちゃんの顔だった。
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