第4話 脱走

 作 武緒さつき♀

ここらあたりから二次盗作全開です。


武尾さぬき先生の白と黒の聖女第4話

https://kakuyomu.jp/works/16817330655920324577/episodes/16817330655954263678


第4話 脱走


「またシーラ様が逃げ出したぞ!」


 国の首都「ハミシバ」その中心にある巨大な宮殿の中では騒ぎが起こっていた。


 大臣衣をまとった重鎮たちが右往左往している。

 国の象徴ともいえる王妃シーラが姿を消したのだ。


 ――といっても、彼女が姿を消したのはこれが初めてではない。すでに過去2度にわたって宮殿から脱走していた。当然、彼女の侍女たちも警戒はしていたのはずなのだが……。


「もうこれで3度目だぞ! どうして誰も気付かなかったんだ!?」


 中年の大臣が怒号を上げて、周囲を見渡す。


「申し訳ございません。おそらく変装して外へ出られたのではないかと……」


 ばつが悪そうに大臣の前に歩み出た侍女は、その両手に王妃シーラが身にまとっている純白の衣装を抱えていた。


「これを……どこで?」


「王族用のお手洗いでございます」


 報告を受けた大臣は頭を抱えるような仕草をした。王族しか立ち入れない場所で警備が薄くなるのは理解していたようだ。

そのため貴族の子女たる侍女を増やしたばかりだったのだ。


「コンサドーレよ、王妃様の行き先に心当たりはないか?」


 若き王立図書館司書コンサドーレは、少しの間考え込むように腕を組んで見せた。しかし、すぐにそれを解いてこう言った。


「また街のバザールに行かれたのではないでしょうか? 前回もあそこで歩きながらジパングという東方の国から来た露店で、あんこたっぷり御座候、を食べておられましたので、王妃はあれに目がないのです。」


 コンサドーレに尋ねた大臣は、これでもかというほどの大きなため息をついた。


「まったく王妃様ともあろう方がなんと品の無い……。民衆が気付く前に必ず見つけて連れ戻すのだ! よいな、コンサドーレよ!?」


「承知致しました。護衛の者を何名か借りていきます」


 コンサドーレは大きく一礼をして、その場を後にした。


『まったく、なんと世話の焼ける王妃様だろうか……。お世話係の身にもなってもらいたいものだ』



◆◆◆



 私はシンデレラの双子の姉ドリゼラ、足がデカくて王妃になり損なった可哀想な女の子よ、せっかくかかとを切り落としたというのに。

今日、街のバザールに買い物に来ていた。ご近所さんからは「なりそこね王妃」と可愛くない言われ方をしているけど、お出掛けするときはきちんとおしゃれもするんです。


 首元がVの字に開いた水色のギャザーセーターに純白のスカート、靴は少し暑いと思ったけど底の厚いブーツを履いて出かけた。たまには女らしくしないと、本当に殿方が寄って来ない気がするから。


 服装をきちんとする時は、前髪も横に流して顔がはっきり見えるようにしている。


 これならどこから見てもちょっといい感じの女子じゃないかしら?


 間違っても「デカ足姉」とか「なりそこね王妃」とか言われることはないはず……。



 綺麗な衣装は気持ちを軽くさせる。私は軽く飛び跳ねるように歩きながらバザールの屋台を見てまわった。

 昨日降った雨のせいか、地面には水溜りができている。だけど、それが陽の光を反射して、まるで街路を彩る照明のようでもあった。


「そこのキレイなお嬢さん! 貴女に似合いそうなアクセサリー置いてるよ!」


 アクセサリーの露店の売り子に声をかけられた。普段「なりそこね王妃」とか言われているせいなのか「キレイなお嬢さん」とか言われるとちょっとなびいてしまう。


 私は特別高価には見えないネックレスを眺めていた。すぐ横に誰かが立った気配がしたけど、きっと別のお客さんだと思って気に留めなかった。だけど、突然、左手首を掴まれたのでハッとした。


「探しましたよ、シーラ様?」


 私にしか聞こえないであろう、とても小さな声でそう言われた。隣りには全く見知らぬ男が立っている。同じ服装の男があと2人後ろにいた。


 一瞬だけ気が動転したけど、この男が発した「シーラ様」の言葉で私は状況を理解した。


 本当にこんなことってあるんだ……。


「あの……、ちょっと似てるかもしれないけど妹ではありません。私は双子の姉のドリゼラと言います」


 私は、隣りの男の第一声に負けず劣らずの小声でそう話しかけた。


「お戯れはほどほどに願います、シーラ様」


 手首を掴んだ男が、その手を強く引いた。私は反射的にそれを振り払おうと左手に力を込めてしまった。


「違います! 私はドリゼラですって!」


 次の瞬間、アクセサリーの露店の屋台と一緒に手を掴んでいた男は吹っ飛んでいた。……ついでにお店の売り子も。


 残った男2人は血相を変えて私を見てくる。吹っ飛んだ男もすぐに起き上がってきた。


『ああ、なんかもう絶対これ面倒なやつじゃない!?』


「お店の人ごめんなさいっ! けど、私はドリゼラなんです!」


 大きな声でそう言ってから、私はスカートの裾を両手で持ってその場から駆け出した。


 なんで妹シンデレラ様と間違われてるのよ!? 王妃様がこんなところでお買い物してるわけないでしょうが!?

 新手のキャッチ?


 私は頭の中でそう叫びながら、全力で走っていた。

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