第5話 追走

作者 武緒さつき♀


武尾さぬき先生の白と黒の聖女第5話

https://kakuyomu.jp/works/16817330655920324577/episodes/16817330655960122138


第5話 追走


 なにやら露店の並びで騒ぎが起こっていた。


 ワタシは白いスヌードを頭巾のように頭から巻いて人込みの中からこっそりと様子を覗いてみた。


『あっちゃー……、あれ絶対ワタシを追って来たやつらじゃんね?』



「お店の人ごめんなさいっ! けど、私はドリゼラなんです!」



 大の男をぶん投げたように見えた女の子は、そう叫んで走り去っていった。その後ろを宮廷の親衛隊2人が……、やや遅れて投げ飛ばされた1人も追っていった。


『なーんかよくわかんないけど、姉さん、ひょっとしてワタシと間違われてる系?』


 ワタシは少し前に買ったばかりの粒あんの御座候を口に押し込んで、彼らの後をこっそりと付けていった。


 以前に脱走した際、買っておいた麻の服とズボンに身を包んだ姿、どこからどう見ても庶民のワタシ。――というか、「顔だけイケメン王子」にみそめられなかったら、本当にただの庶民のはずだったんですけどね。



 適度に距離を保ちつつ彼らの背中を追っていくと、街の路地裏へと入っていった。


 角をいくつか曲がったところで立ち止まる。どうやら逃げていた姉のドリゼラは行き止まりに来てしまったようだ。

 物陰から様子を覗いて見ると、親衛隊の男が1人彼女に歩み寄っていく。


『ああ……、親衛隊の皆さん、なんかごめん。お願いだからドリゼラ姉さん手荒なことはしないであげてね』


 心の中でそんなことを願っていたら、すぐ近くで大きなものが落ちてきた音がした。


 ――はっ? こいつ、私の護衛でよく見かける男よね?


 なんでこんなところで寝てんの? ――っていうか、いつの間にここに?



「何度も言わせないでっ! 私の名前は『ドリゼラ』よ!」



 行き止まりの方から大きな声が聞こえてきた。


 ドリゼラ姉さん、こっからじゃ親衛隊が邪魔で様子がよく見えないじゃないのよ?』


 次の瞬間、ワタシは目を見開いた。きっと傍から見たらすっごいまぬけ面をしていたと思う。


 ドリゼラ姉さんは急に視界から消えたかと思うと隣りの民家の屋根の上に立っていた。


『ちょっ…!? なにドリゼラ姉さん、化け物じゃん! いつの間にあんなスキルを得たの?超おもしろいんだけど!』


 私をさんざんいじめた「ドリゼラ姉さん」の様子はワタシの復讐心に火を点けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る