第21話 美味しいカルビ
銀髪がいないって……外に出た様子はなかったよな?
外へ出るにはリビングを通らないと駄目だし、流石に横を通れば気がつくだろう。まさか部屋の窓からじゃないだろうな……。
俺は確認のためソファから立ち上がり、ドアが開いたままの部屋へ近づく――と、中から銀髪が出てきた。
「銀髪!」
「え⁉︎ 銀髪ちゃんっ!」
俺が銀髪の名を呼ぶと、五十嵐さんも驚きの声をあげた。
「なんだよ五十嵐さん。銀髪いるじゃないか」
「ほ、本当ね……え? あれー?」
「お! 女! 遊びに来たのか?」
銀髪は、なぜか彼女のことを名前で呼ばない。
「う、うん。ねぇ、銀髪ちゃん。部屋の中にいたのよね?」
「おう、いたぞ。ちょうど部屋を出ようとしたらドアが開いたから、裏側に隠れた」
「そ、そうだったのね……驚かせちゃったかな? ごめんなさい」
銀髪のやつ、そんなに素早く動けるのかよ。それにしても、一歩間違えたらドアにぶつかっていたじゃねーか……あぶねーなぁ……。
「ハァ……とりあえず俺は五十嵐さんの夕ごはんを用意してくるから、三人で適当に遊んでいてくれ」
「あっ、あたしも手伝おうか?」
「え? いいよ。折角、風呂に入ってスッキリしたのに、カルビの脂にまみれたいのか? 髪の毛濡れたままだし乾かしておけよ」
「アハハ……そっか、うん、ならそうさせてもらおうかな」
気のせいか、残念そうな表情をしたような……いや、考えすぎだな。
さて、なんとかもう一食分のカルビは作れそうだし、ちゃちゃっと料理してしまおう。
◇
「おまたせ。材料の関係で少し少なめだけど、そこは我慢してくれよな」
「わわわっ! カルビ丼すっごく久しぶり!」
ソファに腰を掛けてくつろいでいた五十嵐さんの前にカルビ丼を差し出すと、彼女は嬉しそうにそれを受け取り、早速、口に入れた。
「うぅぅぅぅん! 懐かひぃ、ふごく美味ひい!」
「食いながら話すなよ……」
フランスではカルビ丼を食べることなんて恐らくなかっただろうから、少し大袈裟とも感じる彼女のはしゃぎようはお世辞なんかじゃなく本心なのだろう。
うちの二人組は食べ慣れてしまって、こんなに喜んではくれないから、なんだか少し嬉しいな。
「
「いやいや、銀髪は食べただろ……それにもう材料がねーよ」
とはいえ、カルビは銀髪のエネルギーのもとだしなぁ……カルビを必要とする特殊タイツってなんなんだ。
「ごちそうさまー! 美味しかったー!」
五十嵐さんは用意したカルビ丼をすべて平らげるとソファにバタンと横になった。
「おいおい、銀髪じゃないんだから食べてすぐ横になるなよ」
「だって雨の中、たくさん歩いて疲れちゃったんだもの」
「まあ、それはわかるけど……」
「そういえば、集塵くんとカタは公園でなにを話していたの?」
「「ふぇ……」」
「なに二人して変な声、出しているのよ」
なにを話して……って……別にやましいことはしていないが、なんだろ……気まずいなぁ。
「あ、嵐ちゃんには関係ないことです。そんなに気になるんですか?」
俺が返事に困っているとカタちゃんが口を開いた。
「気になるかって……薄暗い公園で真剣な顔して話していたら気になるわよ。告白でもしてた?」
「⁉︎」
――五十嵐さんの言葉にカタちゃんは時が止まったかのように固まってしまった……。
※次回、第22話は10月1日(日曜)19時6分の公開となります。引き続きカタちゃんと銀髪ちゃんを楽しんでいただけましたら幸いです。
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