第13話 数字の意味はやっぱり言えない
「あのパスワードの数字は……ですね、えっと、し……しっししししゅ……」
カタちゃんは俯いたままゴニョゴニョと呟いている。何を言っているのか……上手く聞き取れない。
「え? なに?」
「ですから……しゅ……」
「しゅ?」
「趣味です!」
「は?」
パスワードの番号が趣味ってなんだ? たしか数字の意味についての話だったよな?
「と、とにかく趣味なんでほうっておいて下さいー!」
カタちゃんはそういうと、パタパタとスリッパを鳴らしながら自分の部屋へと入ってしまった。
「結局、意味がわからなかった……」
まあいいけど……。
時間を確認すると十七時を回っている。そろそろ夕飯の支度でもと思ったそのとき、奥の部屋から大きな声が聞こえてきた。
「カタのばかぁー!」
この声は銀髪……カタのばか? なんだなんだ、喧嘩か? しかし……下手に踏み込もうものなら、どうなるか分かったものじゃない。
子供の喧嘩だし、生暖かく見守ることにしたほうが良さそうだ。
――バンッ!
「おわっ!」
いきなり奥のドアが勢いよく開いたかと思うと、中から銀髪が飛び出してきた。
真剣な表情でこちらに向かって走ってくる。
「
銀髪はそう言うと、俺の背後へと隠れるように回り込んだ。
背中から上着の裾を引っ張られる感覚がある。
「わたしが隠れているのは内緒だぞ」
「いや……すぐばれるだろ」
「そこに隠れているのは分かっているんです! 観念してスマホを返して下さい!」
突然、もう一つ聞き慣れた声が部屋に響く。
俺はその声へ視線を向けると、枕を抱えたカタちゃんが目の前に立っていた。
なるほど……どうやら銀髪が、またカタちゃんのスマホを勝手に触ってしまったようだ。
俺は背後に隠れた銀髪を振り解き、説得を試みた。
「銀髪……いいかげんにしろよな。カタちゃんにスマホ返してやれよ」
「だってまだクリアしてないんだもん!」
「クリアっておまえ……まだあのゲームしてたのか」
銀色の髪の少女はコクコクと頷く。
うーん。こっちの説得は難しそうだ……。
「なあ、カタちゃん。少しだけ遊ばせてやるわけにはいかないのかな?」
「集塵さんは銀髪ちゃんの味方をするんですか?」
「味方って……そういうわけじゃない……って、おい……まて……」
「じゃあ、なんなんですか!」
カタちゃんはそう言うと、胸元に抱えた枕を頭上に掲げて投げつけようと構える。
「まて! やめろ!」
「やめませんっ!」
カタちゃんは俺の制止の声には耳をかさず、枕を思い切り投げつけてきた。
「うぉ!」
「あー! なんで受け止めてるんですかー!」
「いや、なんで俺が当てられないといけないんだよ……」
背後から舌打ちが聞こえる。
「おい銀髪……なんで舌打ちしてんだよ」
「なんでもないよ」
「……」
まったく……今夜はカルビ肉の量を減らす罰をあたえるしかなさそうだ。
「ごめんな集塵」
なに、こんなときに俺の心を読んでるんだよ……読むならカタちゃんのほうが良さそうだがな……そのほうが、解決は早そうだ。
「カタは、わたしにパスワードを押されるのが嫌なの?」
「ん?」
瞬間、カタちゃんは驚いたような表情を見せる。
「なななな、何いってるんですかー! ち、ちが、そんなこと、どうでもいいに決まってるじゃないですか!」
カタちゃんは慌てるように言った。
「その数字が集塵に関係してるからなの?」
「え?」
――銀髪の奴、何を言ってる……って、まさか……こいつ本当にカタちゃんの心を読んだのか!
※次回、第14話は7月30日(日曜)19時6分の公開となります。引き続きカタちゃんと銀髪ちゃんを楽しんでいただけましたら幸いです。
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