第12話 パスワードは誕生日

 カタちゃんの手に握られたスマホの画面には銀髪が遊んでいたゲーム画面が表示されている。


 恐らく銀髪はゲームを遊んだ後に、アプリを終了しなかったのだろう。

 その為に画面がそのまま残る形になってしまったんだな……。


 カタちゃんは少し動揺しているようだ。

 気のせいか手が少し震えている。


「な、なんでアプリが動いているんです! 大体、これを遊ぶのには……って……ちょっと! スマホのロックどうやって解除したんですかっ!」


 いや、そこは最初に気がつくところだぞカタちゃん……。

 

「どうって……0505押したら解除されるでしょ? カタ忘れちゃったの?」


「え……わわわっ、銀髪ちゃん! なにパスワード言っちゃってるんですかー! あと、なんで知ってるのー!」


「カタは、いつもわたしの横で触ってるから嫌でも目に入ってきて覚えちゃうよ」


「まあ、0505なんて単純すぎるもんな……」 


「わわわっ、集塵しゅじんさんは聞いちゃダメです! 忘れて下さい! もーっ! やだー! ちょ、ちょっと、私は急いでるので学校いってきます!」


 彼女は耳まで真っ赤にしながら背を向けると、ツーテールの髪を揺らしながら来た道を引き返すように走っていってしまった。


「たしか、カタちゃん早退したって言ってたよな……」


「集塵……」


「ん?」


「カタに謝るの忘れてた」


「ああ……帰ってきたら謝れよな」


「うん」


 それにしても0505って、随分と単純なパスワードにしたな……いや、まてよ……どこか記憶にあると思ったら俺のスマホのパスワードと同じじゃないか。

 たしか、覚えるのが面倒だから誕生日にしたんだよな。

 カタちゃんはなんでこの数字にしたんだろう?


 ――ぐぅ〜。


 俺の真横から突如、お腹の鳴る音が耳に入ってきた。

 まあ、隣には銀髪しかいないわけだが……。


 朝食もとらずにゲームをやっていたし、流石にお腹が空いてきたんだろう。


「わたしじゃないよ?」


「まだ何も言ってないだろ?」


「ム! 言ってないけど考えてたでしょ?」


「あ……お前、そうやって俺の心を読むのやめろよな」


「わたしじゃないから」


「別に恥ずかしいことでもないだろ? 俺も朝食まだだし戻って食べようぜ」


「わたしじゃないからね!」


「はいはい……」


 そんなに拘ることかよ……。


「集塵!」


「あー、はいはい……何も聞こえなかったよ」


「よくできました」


 銀髪は満足したような笑みを見せると俺の前を走っていった。


 ◇


 棚の上にあるデジタル時計は十六時三十分を表示している。


 部屋に戻ってきた俺たちは用意していた朝食を昼食がわりにして食べた。


 満腹になった銀髪はリビングのソファでテレビを観ていたが、気がつくといつのまにか眠ってしまっていたので、俺はイラストの仕事を進めることにした。      


 特典ポスターの締切が間近だから、一気に進めてしまいたいところだ。


 普段は銀髪が邪魔をしてくるからなかなか進まないけれど、今日は作業が捗りそうだな。

 

 カタちゃんはあれから戻って来なかったところをみると本当に学校へ戻ったのだろう。


 早退と言ってたけど、理由はどう説明したのだろうか……内容が気になる。


 ――ガチャ


 作業を進めていると玄関の方からドアの開く音がした。

 

「カタちゃんかな?」


 ドアの閉まる音がすると、暫くしてパタパタと聴き慣れたスリッパの足音を立てながらカタちゃんがリビングに入ってきた。


「おかえり」


「……」


 ツーテールの彼女は挨拶を無視して俺の横を通り過ぎていく。


 なんだぁ? もしかしてスマホのこと、まだ根に持ってるのか?


 難しい歳頃でもあるだろうし、放っておいた方がいいかな……。


 タブレットに視線を戻して作業を再開しようとしたとき俺を呼ぶ声がした。


 顔をあげて見ると、さっき横を通り過ぎていったカタちゃんがこちらを向いて立っている。

 てっきり部屋に入っていったのかと思っていたのに、何かあったのかな?


「どうしたの?」


「そ、その……集塵さん……」


 カタちゃんは何処か恥ずかしそうにしながら口を開いた。


「スマホのことですけど……届けてくれてありがとうございます……」


「へ? うん、気にしないでいいよ」


 彼女の様子を見る限りまだ何かいいたそうだ。


「どうしたの?」


「その、ですね……私のパ、パスワード……」


 ああ……何か気に触ることを言ってしまったかな? 単純とか言ってしまったものな。


「パスワードがどうかしたの? もしかして単純とか言ってしまったのが気になってる? そうだとしたら謝るよ」


「違うんです! そうじゃなくて……その、あのパスワード、変、ですか? か、変えた方がいいかな……」


「え? いや、変ではないし俺が判断するのもおかしな話だろ……好きにしたらいいんじゃない?」


 まあ、なんであの番号なのかは気にはなったけど……。


「あの……」


「うん?」


「その……何とも思いませんでした?」


「何が?」


「ですから、パスワードの番号……」


「ああ……気になったというか俺の誕生日と同じだなって……なんであの数字なの?」


 ん?


 気がつくとカタちゃんの顔はみるみるうちに赤くなり彼女は黙って俯いてしまった。


「カタ……ちゃん?」


 なんだ……この気まずい空気は……。


 ――目の前の彼女は顔をあげ、俺の目をじっと見つめるとゆっくりとその口を開いた……。



※次回、第13話は7月23日(日曜)19時6分の公開となります。引き続きカタちゃんと銀髪ちゃんを楽しんでいただけましたら幸いです。

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