第11話 スマホにロック
俺と銀髪はカタちゃんにスマホを届けるため、
白倉高校は俺が入学する以前には女子校だったらしいけど、少子化の問題からか生徒数が減少し始めたことをきっかけに共学に転換したらしい。
カタちゃんが白倉に入学を決めたのは俺たちの住む自宅マンションから徒歩で三十分の距離で通いやすいからという理由からだ。
まぁ、女子のあいだでは何種類もあるチェック柄のプリーツスカートやリボンを使って自由にコーデが出来るのが人気の学校でもあるようだから、それも理由の一つだったのかもしれないけれど。
高校なんて久しぶりだな……。
卒業してしまうと立ち寄ることなんて、中々あるものでもないし……まさか、こんなことのために足を運ぶことになるとは思ってもいなかった。
それはそうと……。
「なあ、銀髪。カタちゃんのスマホにロックはかかっていなかったのか?」
俺の隣を歩く白い全身タイツ姿の彼女に声をかける。
「ロック?」
「ああ。電源入れたらパスワードを要求されただろ?」
「うん? あったかも」
「かもってなんだよ……」
「あったかな?」
「あったんだろ……」
「うん」
「……」
なんだこの不毛な会話は……だが、そうなるとカタちゃんがロックをかけ忘れたわけじゃないってことだよな……。
それならどうやって解除……って……あ……。
「銀髪……お前もしかしてタイツの力を使ってカタちゃんの心を読んだんじゃないだろうな」
「そ、そんなことしてないよ」
銀髪はその銀色のロングな髪をなびかせながら、とぼけるような口調で言った。
「ほんとかぁ?」
「こ、心は読んでない……たまたま目に入っただけだよ」
いや、そうだとしても勝手に使うのは駄目だろ……。
「まあいい。通話でああは言ったけれど、カタちゃんにきちんと謝るんだぞ」
「おぅ」
まったく……。
◇
住宅街を抜けて真っ直ぐ伸びた線路脇の道を歩いていると、奥の方から見覚えのある姿が目に入った。
「ねぇ、集塵。あれって……」
「カタちゃんだな……」
銀髪が指を差したときには既にそれがカタちゃんだと俺は認識していた。
制服姿でツーテールの髪型をした小柄な少女は間違いなくカタちゃんだ。
今日は赤いリボンに同色のスカートで合わせていたから間違いない。
それにしてもまだ学校が終わるような時間でもないのに、どうしてあんなところにいるんだろう?
銀髪と二人でボーッとしている間に、彼女はこちらに向かって走ってくる。
どうやら俺たちの存在に気がついたようだ。
「集塵さん! 私のスマホは?」
カタちゃんは俺の前までくると、余程心配だったのかすぐさま声をかけてきた。
はぁはぁと息は荒く、肩を上下に揺らしている。
「ちゃんと持ってきたよ。それより学校はどうしたんだ?」
「早退です!」
カタちゃんは悪びれた様子もなく言った。
「おい……まさかとは思うけど、スマホが気になって早退してきたんじゃないだろうな」
「そんなの当たり前じゃないですか! それでも四限の授業までは頑張って耐えたのですよ!」
「いや、そこまで耐えたんなら最後まで頑張れよな……そんな子に育てた覚えはないぞ?」
「育てて貰った記憶もないです。バカなこといってないで早くスマホ渡してください」
なにもそんな人を軽蔑するような目で見なくても……なんという可愛げのなさだ。
とは言えスマホは早く渡してあげよう……可哀想な気もするし。
俺はライトブルーのカバーがついたスマホを手渡すと、目の前で操作をはじめたカタちゃんの表情が一瞬にして固まった。
「え……」
「どうした?」
「これ……どういうことですか……」
カタちゃんはスマホの画面をゆっくりとこちらに向ける。
「「あ……」」
――そこには銀髪が遊んでいたであろうゲーム画面が表示されたままになっていた。
俺と銀髪は、思わず声が重なってしまう……。
※次回、第12話は7月16日(日曜)19時6分の公開となります。引き続きカタちゃんと銀髪ちゃんを楽しんでいただけましたら幸いです。
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