第10話 あと、一ゲームだけ
銀髪の触れているスマホ……あのライトブルーをしたカバーの色には見覚えがあるぞ。
どう見てもカタちゃんのものじゃないか。
「銀髪、そのスマホどうしたんだよ」
「うん。カタから借りてる」
銀髪はスマホから目を離すことなく返事をしてきた。
借りてる……って、まさかとは思うが、カタちゃん貸したことを忘れていたのか?
いや、それはない……そもそもスマホを人に貸すとか、普通に考えたらあり得ないよな。
「お前、カタちゃんに黙って使っているだろ?」
「……」
銀髪は俺の問いに聞こえないふりをしてスマホを触り続けている。
さては、図星か……。
それにしても、スマホで何をしているんだ?
そっと彼女の背後に回り、スマホの画面を覗き込むと、なにやら怪しいゲームをプレイしている。
画面の上から落ちてくるカルビ肉をどんぶりで受け止めて点数を稼ぐという内容のようだ。
「おい」
銀髪は俺の声に驚いたのか、スマホを手元から落としてしまう。
気がつくとスマホの画面内ではゲームオーバーの文字がキラキラと輝いて表示されていた。
「あっー!
「ばかとか言うなよ」
ちょっと可愛そうなことをしてしまったかな? とはいえ、これを早くカタちゃんに届けにいってあげないとだからなぁ。
「銀髪、カタちゃんが朝からずっと、そのスマホを探していて大変だったんだぞ。届けに行くから今すぐそれを渡すんだ」
「だめー!」
「いや、返せよ……」
「あと少しで最高得点だったのに! 集塵が邪魔したから失敗したんだよ!」
銀髪はスマホをギュッと握りしめていて離そうとはしない。
「話の論点をすり替えるなよ。カタちゃん困ってたぞ? 可哀想だろ」
「うぅ……」
「ほら、スマホから手を離して」
暫くの沈黙のあと、銀色の髪をした少女は上目遣いで口を開いた。
「一回だけ……」
「ん?」
「あと一回だけゲームやらせて! そしたら返すから!」
「……」
あとじゃ駄目なのかよ……とはいえ、銀髪が勝手に借りていたとわかったら二度と触らして貰えないだろう。
今から出ても追いつかないだろうし、一回くらいなら大丈夫かな?
「わかった。一回、約束だぞ」
「おう!」
銀髪は嬉しそうに返事をすると、ニコニコしながらスマホを両手で握りゲームをスタートさせた。
すぐに終わるだろうし、ソファで待つか……。
ピコピコピコと流れてくる音が耳に心地よい……それにしても銀髪は、幼いところあるよなぁ……まったく、世話が……や……け……。
◇
――集塵
――集塵ってば!
ん? 俺を呼ぶ声が……。
「集塵っ! 起きてっ!」
ハッ! 銀髪っ! しまった!
「寝てしまった……」
目が覚めると何やら着信音が鳴り響いて騒がしい。
「集塵っ! 大変だっ! スマホから変な音が鳴り続けて止まらないよ! ゲーム画面も消えちゃった!」
「なるほど……それで俺を起こしたのか……ちょっと貸してみろ」
色白で小さな手からスマホを受け取り画面を確認すると、何処かで聞いたことのある女性の名前が表示されていた。
何度かカタちゃんと買い物に出たときに会った記憶がある。
「集塵っ! どうするっ⁉︎」
「なに無駄に緊迫感だしてんだよ……出てみりゃわかる。何かあったのかもしれないしな」
俺は青く表示された応答の文字を押して、スマホを耳元に当てる。
『あーっ! 出たぁー! ちょっとどういうことですかっ!』
う、うるさい……鼓膜が破れちゃう……。
「カ、カタちゃん?」
『他に誰がいるっていうんですかっ! それより私のスマホどこにあったんですか!』
どうやらカタちゃんが友達のスマホからかけてきたようだ。
とりあえず、今は正直に話すことを避けた方が良さそうだ……身の危険を感じる……勿論、俺ではなく銀髪の方だ。
「えーと、リビングで目にしたよ」
『えー! リビング見当たらなかったですよー!』
嘘はいってない……俺は銀髪が手にしたスマホをリビングで見た……。
『とにかく、すぐにっ、あーっ!』
通話をしているとカタちゃんの声とともに学校のチャイムの音が耳に入ってきた。
なにやら近くにいたであろう友達と騒がしく話している。
――プツ。
「あ……切れた」
画面に表示されている時間は十一時三十分、四限目ってところか……先生が教室に入って慌てて切ったんだろう。
もう昼近いのか……どうやら何時間も眠ってしまったようだ……。
さては銀髪の奴、俺が寝ているのをいいことに一回でゲームをやめなかったな……。
「銀髪っ!」
あれ? いない……。
――逃げた……仕方ない、とりあえず急いでこれを届けないと……。
※次回、第11話は7月9日(日曜)19時6分の公開となります。引き続きカタちゃんと銀髪ちゃんを楽しんでいただけましたら幸いです。
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