第6話 もっと素敵なトッピング
カタちゃんはクリームソーダ、銀髪はカルビソーダか……うーん、悩むな。
「
「なんで、俺がそんな怪しいものを飲まなくちゃならないんだ。今、決めるからもう少し待ってくれ」
店員のカクテルは無表情のまま俺の注文を待っている。
まあ、仮面をつけているのだから当たり前なんだけど……もうちょっとまってね、怪しい店員さん。
まずジュース系は却下だとして、紅茶か……普通すぎる……。
やはり喫茶店といえばコーヒーか? しかし種類が多くてどれを選んでいいか正直わからないし、なんか面白味にかけるんだよな。
とはいえカルビ味は絶対に後悔しそうだし、そういう怪しいのは銀髪に任せるとして……。
お? これならいいかも……普段あまり口にしないものだし、コンビニなんかで売ってるものよりは美味しく作られていそうだ。
「待たせて済みませんでした。僕はコーヒーゼリーお願いします」
カクテルは、コーヒーゼリーですね? と注文を確認すると、そのまま奥へと引っ込んでしまった。
てっきり何か言われると思っていたから拍子抜けだ。
「集塵さん飲み物いらないんですか? そのゼリー、上にクリーム山盛りですし喉乾きそうですけど」
カタちゃんはメニューの写真を確認しながらそう言ってきた。
何か言って来るのはこっちだったか……。
なんでわざわざ写真確認してるの? 女の子ってこういうところあるよな……そういえば、この店はメニューを引っ込めないのか……。
「水あるんだから、いらないだろ」
「えぇぇ……なんか出された水だけ飲んでるのってどうなんですか?」
「なんでだよ。コーヒーゼリー頼んでるじゃねーか」
「そういう問題じゃないです」
「どういう問題だよ……」
カタちゃんは不服そうだが、なにが気に食わないのか理解が出来ない。
◇
それにしても、近所にこんなお洒落なお店が出来ていたなんてな……店員はちょっと変わり者っぽいけど、たまに息抜きで通うのも悪くないかもしれない……。
ふと、視線をカウンターの方へ向けるとカクテルが俺たちの注文をトレイに乗せているようだ。
「お待たせ致しました。クリームソーダは少しクソ生意気なお客様に、カルビソーダは、こちらの銀髪のお客様でしたね」
カクテルは俺たちのテーブルの前にたつと、二人の前にそれぞれが注文したものを、順に置いていった。
カタちゃんは店員に対してムスッとした表情を見せている……まあ、少しクソ生意気なのは分かる。
「コーヒーゼリーのお客様、もう少しお待ち下さい。この後、お持ち致しますので」
俺は店員に軽く返事をすると銀髪の頼んだカルビソーダを真っ先に確認した。
なぜなら、その商品のビジュアルに興味があったからだ。
勿論、飲んでみたいからじゃない……怖いもの見たさというやつかな?
こ、これは……ガチじゃねーか……。
「集塵! 見てみて! すっごい美味そうだね! カルビがレモンの上にのってる!」
「お、おう……」
いやいや、本気でカルビ肉乗せるんじゃねーよ……輪切りのレモンが皿のつもりなのか?
「うわぁ……なんかエグい飲み物ですね……ちょっと写真撮らせて下さい!」
カタちゃんはスマホを手に取り銀髪のソーダをパシャパシャと撮り始めた。
「喜んでいただけたようですね。網に見立てたレモンの上に乗せられたカルビ肉を下のソーダの炭酸が焼いているイメージなの」
どちらかというと燒くよりは茹でているように見えるが、中々やばいものを出す店だ。
この店が話題になっているのって変わった店員だけが理由じゃないよな……。
そういやカタちゃんのクリームソーダはどんな感じなんだろ? どれどれ……。
「カタちゃんのは、普段よく見るクリームソーダなんだな?」
「私このグリーンの色が大好きです。そこに乗せたバニラのアイスと赤いさくらんぼも可愛いですよね」
カタちゃんがニコニコしながら、パフェスプーンを手にすると、突然カクテルは彼女の手首を掴んでその動きを静止させた。
「えっ⁉︎ あ、あの……なんですか?」
「ごめんなさい、トッピングを一つ忘れていたわ」
「トッピング? まだ何かつくんですか? ウェハスとかです?」
「いいえ、もっと素敵なものよ……」
カクテルはそう言うと、ポケットから小瓶のようなものを取り出し、それをクリームソーダのバニラアイスの上に傾け、数回振ってみせた。
この匂いと、見た目……。
「ああああああああああっ! なっ! なにしてるんですかー!」
そこには一味唐辛子がかけられたバニラアイスの姿があった。
「なな、なん、ですか……これ……」
カタちゃんは声を震わせながらクリームソーダを見つめて言った。
「綺麗でしょう? さくらんぼ畑よ。収穫された沢山のさくらんぼをイメージしているわ」
さくらんぼ畑はともかく、収穫されたさくらんぼといわれたら見えなくもない……か……かなり引のアングルだけどな。
「騙されたと思って食べてごらんなさい。一口食べた瞬間、虜になること間違いないわよ」
カクテルの一言に覚悟を決めたのか、カタちゃんはパフェスプーンを持ったその手を恐る恐る近づける。
何だかんだで食べるんだな……。
「ウフフフフフ」
仮面の女が不敵に笑う中、俺と銀髪はカタちゃんの動きを見守る。
――見ているこっちもドキドキするぜ……。
※次回、第7話は6月11日(日曜)19時6分の公開となります。引き続きカタちゃんと銀髪ちゃんを楽しんでいただけましたら幸いです。
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