第5話 話題の喫茶店

 俺はカタちゃんと銀髪の二人を連れて自宅マンションの近くにオープンした喫茶店へと、今まさに入店しようとしている。


 なんでもカタちゃんの学校で話題になっている店らしく、ちょっと変わったウェイトレスがいるようだ。


「それにしても店名がホワイト仮面って……どんなセンスだよ。喫茶店、だよな?」


 外観はよく見る二階建ての一軒家でダンボールの切れ端に店名が無駄に上手に書かれ、ドアの下に置かれている。


 風が吹いたらすぐに無くなりそうだな……。


「集塵、早く入ろうよ!」


 銀髪はこちらを見つめて弾んだ声で言ってきた。


「カタちゃん、ここ本当に喫茶店なのかぁ?」


「集塵さんは、うたぐり深いですねぇ、大丈夫です! ここで間違いないです」


 カタちゃんはスマホの画面と睨めっこをしながら言葉を返してきた。

 さっきまで店の外観を撮影していたから、誰かに写真でも送って確認していたのかもしれない。


「うーん。じゃあ、入るぞ……」


 覚悟を決めて入口のドアを開けると、また文字の書かれた段ボールが床に置かれている。


「えーと、なになに……靴を脱いで奥の赤いドアへとお進み下さい、か」


 何かのアトラクションかよ。

 まあ、案内は必要か……どう見ても普通の玄関と廊下だもんな。

 これが無ければ、ここで引き返してしまう人だっているかもしれない。


 もっとも、あのダンボールの看板で引き返してしまう人もいるだろうけど。


 俺は床に並べられたスリッパを履き、奥へと進む。


 銀髪とカタちゃんも同じようにスリッパに履き替えたようだ。


 カタちゃんは青いスリッパで銀髪は白か……そういやカタちゃんは青が好きだったよな。


 中学生のときは髪の毛をライトブルーに染めていたっけ? よくあの髪色が許されたものだ。


 赤色のドアを開けると、カランカランというドアベルが鳴る。


「へぇ、これは中々」


「うわぁー、お洒落ですねー! 集塵さん! 当たりです! このお店、絶対に当たりですよー!」


 カタちゃん滅茶苦茶テンション上がってるなぁ、のり気ではなかったけれど来て良かったかもな。


 室内は喫茶店というよりは、洒落た自宅の内観という感じだが、白を基調とした壁や家具の清潔感が心地よく感じる。

 まだ、お客は俺たちだけのようだ。


「集塵! お腹すいたー!」


 内観なんてどうでもいい奴が一人いるな……。


「まあ、何か軽食くらいはあるだろう」


 さっきから奥のカウンターテーブルを背に女性らしき人物が立っているけど、俺たちの存在に気がついていないのだろうか? ドアベルの意味ねーな……。


「いらっしゃいませ。空いているお好きな席にお座り下さい」


 俺たちがボーっと立っていると店員らしきその人物は振り向きもせず、席に着くことを促してきた。


 なんだよ、気がついていたのか……感じ悪いなぁ……まあ、手が離せない作業でもしていたのかもだけど。


「集塵! どこでもいいらしいよ! わたしは端っこの小さいテーブルのところに座るから集塵はどっか別のとこ座れ!」


 いや……三人で来たんだから一緒の席に座ろうぜ銀髪……。


「何を言ってるんですか、窓際の席の方が良いに決まってます! ほら、四人席ありますし、あそこにしましょう!」


 カタちゃんはそう言うと部屋の隅にある一人用の席にしがみつく銀髪を無視して窓際の席へと移動した。


「銀髪、あっちだってよ」


「むー……」



 窓から見える景色は道路を挟んで家が並んで見えるだけだが、それでも解放感があって少し良い気分だ。


 表からだとなんの変哲もない一軒家にしか見えなかったけれど、中に入ってみると大きめの窓といい、しっかり喫茶店してるなぁ……。


 カタちゃんと銀髪は俺の正面に仲良く並んで座ると、早速テーブルに置かれたメニューを手に取る。


 ――スタタタタタタッ!


 二人の様子を眺めていると、素早い軽快な足音とともに何者かが迫ってきた。


「のど渇いてないかっ!」


 そいつは俺たちのテーブルの前に突如現れると、声を上げて、ドン! ドン! ドン! と勢いよく人数分の水の入ったグラスを置いていった。


 後ろに束ねた黒髪からして、さっきカウンターで背を向けていた店員に間違いない。


 長袖の白いブラウスに膝丈の黒いパンツを履いていて、ベスト風のエプロンの胸元にはカクテルと書かれた名札がついている。

 いかにもウェイトレスといった感じの格好だ……が、白いキツネの仮面を被っているのが理解に苦しむ。


 怪しい……。


「おおぅ! 集塵、こいつ変なお面つけてるなっ!」


「シーッ!」


 俺は人差し指を口元にやり、銀髪に黙ってろという合図を送った。


「銀髪のお嬢さん、これはお面ではなく仮面なのよ? 適当なこと言わないで頂戴ね」


 カクテルの名札がついた女性はキツネの仮面を指差して言った。


「そうなのですねー? どう違うのですか?」


 カタちゃんが興味ありげに会話に割って入った。


「お客さま、簡単に人を頼るんじゃないわよ。少しは調べなさい。その手に持ったスマホを使ったら?」


「え? 嫌ですよ。そこまで興味があるわけじゃないですし」


「ま、まあいいわ……ご注文は?」


「クリームソーダをお願いします!」


 カタちゃんは笑みを見せながら仮面の女に注文をお願いした。


 ――さて……俺はどうするかな……。



※次回、第6話は6月3日(日曜)19時32分の公開となります。引き続きカタちゃんと銀髪ちゃんを楽しんでいただけましたら幸いです。

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