第47話 私はもう、逃げない
「フックククク……可愛いなぁあ白狼ちゃん。強がっててもぉ足元ブルっちまってるのバレバレだぜぇえ!」
「――っ!」
不意打ちまがいに私を追い立ててきたガトリングの連射を、横に転がって避ける。
「大丈夫――見える!」
以前はまるで見え無かったモルディンの攻撃が、今なら確かに目で追える。さらに力の流れを全身に行き渡らせた事で、飛躍的に身体能力も向上している。
責め立ててくるガトリングガンを抜き去り、私は高く跳び上がり、モルディンの頭上に鉄拳を振り下ろした――
「くらええええ!!!」
「――っへぇえ……以前とは比べ物にならねぇなぁあ。流石は白狼の肉体といったところか……だがぁあ」
「――ウェ?!」
大地が陥没するだけの拳が地にめり込むが、モルディは涼しい顔をして宙にひるがえりながら、ジャキリと銃口を向けて来る――
「素人が多少鍛えて来たところでぇ、所詮は映画の真似事なんだよぉお!」
いつの間に銃弾を入れ替えたのか、モルディの銃口から放たれて来たのは、体を痺れさせる電撃弾であった。それを私に直接放つのではなく、大地に向けて着弾させた事によって、雷電が大地を走って私を捕らえた――
「長引かせる必要はねぇえ、これでお終いぃいい」
「――――っく!!」
僅かな一瞬身動きを封じられただけだが、モルディにとってはそれで充分だったらしい。風のように私の眼下に滑り込んだかと思うと、情け容赦の無い銃弾の嵐が、激しい明滅と共に私を蜂の巣にする――
「ガ――ァ――!!!」
「どらどらどらどらぁあああ――ひひひ!!!」
数え切れない位の
――しかし……!
「あ…………?」
「ビックリ……したぁ……!」
――私の体は
痛いには痛いが、以前とは違って力の流れを全身に行き渡らせているからか、弾がこの身を貫通する事はないみたいだ。
火薬のにおいのする硝煙に飲まれながら、私はモルディが一時後退するのを目にする。
「ちっ……前はこれでいけたのによぉお。弾ぁ変えるか」
変形していくモルディの右腕――銃口が太く、巨大に
「派手にやろうぜぇ――白狼ちゃん……!」
「ぁ……――!!」
無慈悲に放たれた右腕の
手元で爆発する発火のきらめきに気付く頃には、巨大な砲弾が私の胸に命中していた。
「ぐぅぁあ――ッッ!!」
「フックククク!! 吹っ飛べぇ――!!」
――――……ん?
「…………は?」
「あ……れ…………?」
「はぁ?? ハァァアア!!??」
巨大な砲弾をこの胸に抱き留める感覚は、ドッチボール玉を受け止める程度に等しかった……
私自身もこの肉体に驚きながら、目を白黒とさせたモルディへと、砲弾を投げ返す――
「どぉおああああ――ッッ!!!?」
「フゥあっ?!!」
軽く片手で投げてみただけなのだが、砲弾はモルディの足元に着弾すると、爆散する勢いのまま、大地をえぐり、飛散したアスファルトが散弾のようになって敵の体を貫いていった。
「このぉ……テ、テメェ!!」
「なに、私の……体……なになになに!?」
血反吐を吐きながらヨレヨレと立ち上がったモルディは、悪鬼のような形相で私を叫び付け始める。
「なんなんだテメェ!! どうなってるぅう、
「え、入れ替わりって……まさか私の体のこと気付いてるの?」
右手の銃の形状を変え、
「ヒィィィ……怖い、やっぱりこの人!」
「……っ? いや違うぅ、こいつはやっぱり白狼じゃねぇ……だがテメェ、どういう理屈で一週間でここまで……」
息を荒ぶりそこまで言ったモルディは、鋭い視線を私の足元に落としたまま、何かに気付いた様にハッと息を飲み込んだ――
「まさかテメェをここまで鍛え上げたのはぁぁ……」
――私はそこで、歯を食いしばって立ち上がった。
目前で牙を剥く男は確かに恐ろしい。その目なんて見ていられない位に怖い。
……だけど私は、
「『銃』の勇者モルディ! 私は、罪のない人たちを巻き込んだお前を、絶対に許さない!」
「こぉのドサンピンがぁあ、そうとわかったらぁ、こちとら全開でいくまでだぁあ!!」
――私の人生を勝ち取る為に、もう逃げない。
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