第48話 雲を割る勇者の拳


 チラリと周囲を見渡したモルディは、苦々しい顔で眉間にシワを寄せた。大方、全世界に生中継している無数のカメラに、自分の醜態しゅうたいがさらされた事をうとましく思っているのだろう。


「クソ素人がぁ、本当の戦場も知らねぇカスがぁぁ、俺が本当の死線を貴様に見せてやるぅうア!!」


 メキメキと変形していった右腕の銃口から、強烈な火炎放射が放たれてきた――!


「うわあっ!! アッチ、アヂヂヂッ!!」

「消し炭にしてやるよぉ――!!」


 流石の白狼の体も、灼熱しゃくねつの炎には抗いようが無い。全身を燃え上がらせていく火炎から飛び出した私は、ゲホゲホとむせ返りながらモルディへと振り返る――


「マァァアダダァァアア――!!!!」

「ゥ……ッ!!」


 さらにと変形した右腕の銃――それが3つの銃口を作り出すと、三発のホーミングミサイルが解き放たれた――


「そんなの、もう個人の所有する武力じゃねぇだろうがあ――ッ!」

「逃げるな白狼ぉおお!! まぁぁた受け止めて見せろよぉ、ナァァアニ逃げ惑っていやがるぅうう!!」

「無茶言うんじゃねぇよ!!」


 驚異的な身体能力にものを言わせ、右へ左へ走り、飛び上がりながら追跡から逃れる――

 執拗しつように追尾してくるミサイルに触れれば、即座に爆発が起きてこの身がバラバラになるだろう。それくらい私にもわかる。わかるけど……


「ぎゃぁぁあ!! どうしよぉおお!!」


 どうにも打開策が思い付かず、泣きべそをかきながら私は天高く飛び上がった。


「フックククク、バァァカがぁあ!!」


 苦し紛れに空に飛び上がってはみたが、すぐにそれが愚策であったと気付いた。


「ふぅえ?! ううええ動けないよぉおお!」


 雲を割る程高くへ飛び立つも、ミサイルは勢いを殺さずに私へと迫って来る。そしてなにより、空中では身動きが出来ない。

 炎を上げて、眼下より迫り上がって来る三本のミサイル――!


「ヤバいヤバいヤバいヤバい、流石にこれに当たったらヤバい!!」


 逃げ場を失った私だが、その時ふと閃いた。


「…………っ!」


 ――町中のガラスを叩き割った、あのを。


 そうと思い至ったら、もう迷っている暇もない。肺いっぱいに空気を吸い込み、腹をパンパンにすると、懇親こんしんの勢いで絶叫する――!


「――ガァァァァアアァァアアアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!」


 大気が震える衝撃波が打ち出されると、ミサイルが進路を狂わせて衝突し合い、中空にて大爆発を起こした――!


「お前この野郎……今の大爆発が町で起こってたら、一体どうするつもりだったんだ――!」

「しぶとい野郎だぁあ、白狼ぉお――――!!」

 

 頭上の爆風より大地に着地した私を、モルディは憎々しく睨み付けながら銃口を向ける。


「燃えろ燃えろぉお裏切り者ぉお!!」


 再び火炎が私を包み込んで、視界を埋め尽くす。

 体を焼き焦がす豪炎が、肉を焼いて全てを炭に変えていく――


「フッククククはぁ! これで燃えカスだぁあ!!」

「……まだ……――だぁッ!!」

「ヌア――――ッ!?」


 ――炎をかき分け、前へ、前へと突き進む!

 風を引き裂き、熱波を押し退け、火炎を突き抜けた私の頭が、モルディの目前へと肉薄にくはくした――!


「ハァっう――――!!!??」


 瞳を剥き出し、情けのない声を上げた勇者を目と鼻の先に――


「ワタシに痛いコトヲッスルナァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「ゲェエエエヴァァァァァァァァァア――――ッッッ??!!!」


 光かがやいた拳の一撃が、モルディの腹を突き上げる――!!


「――ぼおおおおぁ……ガ……ァ?!!」


 体をくの字に曲げたモルディの背面より、衝撃波が伝って空の雲までかき分けていった――

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