第46話 決戦! 激闘! 『銃』の勇者との衝突


   *


 先日の闘争で破壊されたままの河川敷を取り囲むように、無数のカメラがモルディの立つ広場に向いている。

 遠くに見える、傾いた聖魔教会の高層ビルを背景に、壊れたベンチにふん反り返り、タバコを吹かしたモルディはニタリと笑った。


「フククク……来たぜぇ白狼ちゃんがよぉぉ。ちゃぁあんと一人で、このモルディの誘いに乗ってノコノコとよぉお」


 右手の銃をガチャリと上げて、照準が私へと合わせられていく。


「全世界が躍起になって探してるSSSランク戦犯がよぉ。俺の暴力によって取り押さえられるんだぜぇえ? 認めるしかねえだろうがよぉ、世界が、この俺の実力をぉお」


 獣の視線でこちらを睨め付けながら、モルディはいつかのハゲ神父を呼び付ける。河川敷の向こうには、ひしめき合った信徒の姿も見えた。


「おい神父ぅう」

「はい、ここに」

「もしもの時は頼むぞぉ? 俺が合図をしたら……」

「え、ええ……」


 会話の内容は聞こえないが、明らかに悪巧みしていそうな二人。会話を終えると、モルディは私に向かって白い歯を見せた。


「んじゃぁあ挨拶がてら……」


 ――言いながら、弾丸の一発が目にも止まらぬ速度で打ち込まれた。


「……ぁあ?」

「……っ……!」


 全身に光をまとい、驚異的な身体能力で銃弾をやり過ごした私は、歩みを止めることもなくモルディへと近づいていった。


「フクク……前までの奴なら、あれくらいの射線は身をよじる程度でかわしていた。あまりにも無駄が多い動き……となるとやはりぃい」

? モルディ様、それは一体……」


 瞳を弓形に歪ませたモルディは、くすくす笑いながら神父に耳打ちしていった。


「この話しは極秘だぁ。マイクに拾われるなよぉ……」

「……っ」

「これは伝説の秘術の話しだ。眉唾ものかと思っていたがぁ、どうも奴の言動と照らし合わせると合致する点が多いぃ」

「伝説の秘術ですと?」

「そうぉ……それはという禁断の秘術の可能性だぁ」

「な――ありえません!」

「フクク俺もそう思っていたよ。だがなぁ、その秘術には魔王が消滅時に残す魔石を媒介ばいかいにする必要があるそうだぜぇ? なんの偶然か、そいつを持ち去っていったのも白狼だぁ……」

「し、しかしそれならば、本当の白狼はまだ何処かに潜んでいるのでは!?」

「お前はバカだなぁ神父ぅ。たとえ魂が入れ代わっていようともぉ、世の中にとっての“白狼”は間違いなくアイツだぁ」

「……それは!」

「こんな上手い話しを逃す手があるかよぉお。弱体化した奴を全世界生中継のカメラの前でぶっ飛ばせばぁ、誰も俺の力を疑わねぇし、世が俺を支持するようになるぅ……となると、聖魔協会はもう俺の物になったみたいなもんだぁあ、フッククク」

 

 いかにも悪党そうな顔で神父と話すモルディ。しかし世の中にとっては、私こそが悪で奴の方が正義なのだろう。

 ――やがて、10メートルほどの距離を空け、正面にモルディを見据える私……

 恐ろしい顔に見下ろされ、途端にぶり返してきた恐怖に襲われるが、震える膝を殴り付けて止まらせた。


「約束通り、来たぞモルディ!」

「これはこれは白狼ちゃん……おい、下がれ神父ぅ」


 ぶつかり合う視線……赤い電球を点灯した無数のカメラ。全世界へとこの場の光景が生中継される――


「さぁ、オンエアーだぁ。世界中にぃお前の情けねぇ姿をお披露目してやるよぉお」

「負けるもんか……お前ら勇者なんかに!」


 ――アイツらも、今頃私を見ているだろうか。

 私はやる。絶対にやるぞ。

 こいつを倒して、私は私の人生を取り返す!

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