第6話 お前終わったなモヤシ女
そいつの拳がピタリと止まったかと思うと、今度は肩を揺らして口元を抑え始めた。
「くく……。聖魔教会にクソの残党共、勇者共に追われ続ける俺の人生に、そんな未来があったならば……見てみてぇよ」
「うるせぇ!! 私は諦めないぞ! 絶対にこの生活を手放すもんかぁ!! 外にだって出ないぞ! 外なんて全部クソだ、クソゲーだぁあ!!」
光を凝縮した拳が、またゆるゆると振り上げられていく。
「で……どうする、こういう場合は?」
「げんこつ……げ、げんこつする気なの!? 暴力反対!!」
「げんこつで済めば良いがよ……これからお前はこんな風に、数多の暴力にさらされてくんだぜ? いままでの様に、こんな狭い所に引きこもってのらりくらりとはいかねぇ……さぁ、どうすんだ?」
「……ぅううあ、お、お前一方的に全部押し付けておいて、なんなんだその態度は! この悪党、大悪党め!」
直ぐ頭上で、災厄みたいにどうしようもなさそうな力の波動を感じる。
いや死ぬでしょ、こんなもの振り下ろされたら……
「そうさ、俺は世界の裏切り者
「……っ」
「だが今は、お前が“白狼”なんだよ」
「この悪魔めぇえ! 絶対にどうにかして、元の体に戻ってやるからなぁあ!! それまでも私は、このライフスタイルを辞めるつもりはねぇぞぉお!!」
「だったら好きに野垂れ死ね」
――頭上の拳が、より一層と輝きを増した、その瞬間――
「キャァああああ(裏声)!!!」
「…………っ!!」
「白狼です!! ご近所の皆さぁあん!!
窓から顔を出して絶叫を始めた私に、そいつは動揺して拳を収めていく。
プッハは! ていうかオロオロしてる! ザマァみやがれ!!
「お、おい……」
「イヤァァア、たすけてくださぁあい!! この暴君に襲われてるんです!! いたいけな私を
私が窓から身を乗り出して、町中に響き渡る声量で叫ぶと、制御不能の波動が出て、遠くの家々で窓ガラスが飛び散るのが見える。
よし、これで直ぐにみんなが助けに来るだろう。この町にはギルドもあるし、強い奴等が沢山居るんだ!!
「白狼です! あの白狼ですよぉおお!! 直ぐに来てくださぁあい!! 萌島の家をめちゃくちゃにしてるんですぅう!! 助けてぇええキャァあああヘンタァァアイ(裏声)!!!」
私は自信満々にそいつに振り返ってやる!
どうだ参っただろう! 直ぐにここに、聖魔教会や強い奴等がなだれ込んで来るぞ!
「お、おい……お前大丈夫か?」
お、ビビってるビビってる! プフーっ!!
「わははーははーッ!! 今更動揺してますよ皆さん!! ビビってます! わっははははー!! あの白狼という男も実際こんなものなんです!! とっ捕まえて聖魔教会へ突き出してやりましょう!!」
大層な悪人面でにんまりしていると……ほらほら、町中から声が上がり始めた。
「萌島さんちだ!」
「なっ……本当だ。顔にある大きな傷跡! 本当にあの白狼があそこに居るぞ!」
嫌味っぽい目で、顎を上げてそいつを見下ろしてやる。
「お前、正気かモヤシ女?」
ヒーーヒャハハハー!!
ああ正気さ、私は正気だよ! 可愛い顔でちゅねー! ビビり過ぎておしっこ漏らしてるんじゃないの!? アヒャヒャ、お前もそろそろ年貢の納め時って訳だ!
「「「白狼だーー!!!」」」
続々と集まり始めた声に、窓の外を見下ろしていく――
「うわぁあこっち見た!」
「恐ろしくデカイ男だ!」
「あまり目を見るな! 眼力だけで殺されるって聞いたぞ!」
「写メろ、写メって週刊誌に売るっしょ!」
「はぇ?」
町中の人が、私の顔を興味深そうに凝視していた。
「お前終わったなぁモヤシ女」
「…………」
滝の様な冷や汗が流れていく。
事を理解して押し黙る私を、町中で鳴るカメラのシャッター音が
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