第31話 再会! 長女と三女

 千恵美さんの妹の千春さんから連絡があり、三女の千影さんが『千恵美姉さんに会いたい』と言ったらしい。それを了承する千恵美さん。


だが、久しぶりの姉妹の再会に不安を抱いた彼女は、俺に同伴を求めてきた。

管理人の立場だから行くけど、役に立つとは思えないぞ…。



 落ち合う場所について悩んでいた千恵美さんだが、近場の喫茶店を選んだ。

話し合いといえば喫茶店だよな。王道と言うか定番だ。


だがこれだけでは不十分だろう。姉妹が再会するのは、約20年ぶりと聴いている。顔を見てもわからない可能性があるのだ。


それを千恵美さんに指摘したところ、彼女は当日に着る服と『男の子同伴』であることを前もって電話で千春さんに伝える。俺のこと触れる必要ある…?


案の定、千春さんは俺をと勘違いした。慌てて否定した千恵美さんだったが、千春さんの態度は意味深だ。


本当に何もないからな、千春さん…。



 そして千影さんと会う当日。お互い早めに準備を済ませたので、時間が空いている。なので呼ぶ手間を省くため、管理人室で時間まで待機することになった。


「…緊張するわ。ふぅ…」

千恵美さんは深呼吸を繰り返している。


「知らない人とか偉い人ならともかく、相手は妹さんなんだからそこまで緊張しなくて良いのでは?」


「それはわかってるんだけど…」

千恵美さんの態度は変わらない。


これ以上、俺がかける言葉はないだろう。後は彼女次第だ。



 ちょうど良い時間になったので、千恵美さんの車に乗り込み喫茶店を目指す。


「緊張はどうです?」

赤信号で停まっている時に訊いてみる。


「さっきよりはマシかしら。困ったら隼人君が助けてくれるからね」


「なるべく力になれるよう頑張ります」

求められる以上、ベストを尽くさないとな!


「頼んだわよ」


…なんて些細な会話をしてる内に、喫茶店の駐車場に到着した。車を降りて周りを見渡してみる。


「千影は電車で来るって千春から聴いてるわ。だからあの子の車はないのよ」


「そうなんですか…」

もう喫茶店にいるかも? と思うと、緊張感が増すな。


「行くわよ、隼人君」


「はい」

俺は千恵美さんに続いて喫茶店に向かう。



 喫茶店に入った後、店員にテーブル席に案内される俺達。俺が奥側・千恵美さんが隣の通路側に座る。彼女が言うには『トイレに行きやすくするため』だそうだ。


俺達が座ってから店員に注文を求められるが「連れが来るので後で」と千恵美さんが言って後回しにした。このやり取りを聴く限り、緊張してる感じはなさそうだ。


「もうそろそろ約束の時間よ。出入口を確認しましょう」


「そうですね」

俺達は座りながら、出入り口を見つめる…。



 ……1人の女性が喫茶店に入ってきた。時間的にあの人だと思うが、断定はできない。…女性は店員の案内を断り、座席を見渡している。


俺達に気付いたのか、こっちに向かってくる。やはりこの人が?


「千恵美姉さんよね? 千春姉さんから聴いた服と同じだわ。それともね」

そう言って、俺を見る女性。


「千影…なのよね?」

千恵美さんは女性を凝視する。


「そうよ。久しぶりね、姉さん」


黒のミディアムロングヘア―に目が行く。サラサラした髪だな…。白のTシャツに薄手の黒の長袖カーディガンを羽織っている。下は…、オリーブ色の7分丈パンツか。


千影さんは千恵美さんに向かう合うように座る。


「君は初めましてね。ワタシが古賀こが千影ちかげよ」


「どうも、倉式くらしき隼人はやとです」

この人が古賀千影さん…。VTuberのサウちゃんの正体でもある。


サウちゃんの話し方よりハキハキしているな。あっちが演技なのか…?



 「千影。何で急にあたしと千春に会いたがるようになった訳?」

いきなり本題を切り出す千恵美さん。


「それはね…、ワタシがことを思い知ったからよ」


「はぁ? どういう事?」


「ワタシは…、古賀家と縁を切りたかった。だから高校を卒業してすぐ家を出て働き出したの。姉さん達に連絡しなかったのはそのためよ」


「縁を切りたい? 母さんは、あたし達に優しくしてくれたじゃない!」


「そういう問題じゃないのよ。母さんと姉さん達の姿というか考え方が気持ち悪かった。性的な目でキノコを観てるんだからね」


「…そうかもしれないわ。あたしは性欲が強かったから…。千春も多少の差はあれど、同じだと思う」


「でしょうね。ワタシが観る限りじゃ、2人に差は感じられなかったし…」


まさかキノコが理由で縁を切りたいとは…。千恵美さんが作る夕食にキノコが欠けたことはないし、キノコへの愛情は今も変わっていないだろう。



 「それが理由で古賀家を離れたワタシだけど、29の時に考えを変えるきっかけがあったのよ」


「きっかけって何?」

追及する千恵美さん。


「…倉式君はHな話を聴いても、暴走しないわよね?」

千影さんは俺を観た後、謎の心配をしてきた。


「しませんよ」

当たり前のことだ。


「する訳ないでしょ。隼人君は真面目なんだから」


「姉さんの言う事を信じるわ。…29の時に彼氏の三島みしま健司けんじと初Hをしたのよ」


「はつ…えっち…」

千恵美さんは予想外のことを聴いたのか呆然とする。


「そう。『お互い30になる前にろうぜ!』って流れになってったのよ。…何で30かわかる? 倉式君?」


「一応わかりますけど…」

あれって、ただの都市伝説? だよな?


「その話、男の子の間では有名なんだ? …健司もその時に童貞を卒業したのよ。お互い充実した初体験だったわ~」


当時を思い出したのか、うっとりする千影さん。


「つまり、が考えを変えるきっかけになったってこと?」

千恵美さんが確認する。


「そういう事。やっぱりワタシも古賀家の女なのね…。それ以降我慢できなくなることが多くなって、仕事帰りの健司に何度頼んだか…」


「あんた、さっきから話が脱線し過ぎなのよ。わかりにくいったらありゃしない」


千恵美さんに同感だ。初Hの話が強烈過ぎて…。


「要するに…、エロい姉さん達が嫌で避けてたのに、ワタシ自身がエロいんだから避ける必要ないでしょ? だからと思ったの」


なるほど。避ける理由がなくなったのか…。


「今思えば、ワタシは姉さん達と違って遅咲きだったかもね」


代々? 伝わる特徴とかって、遅れて出たりするんだろうか? 俺にはサッパリだ。



 「そんな訳でと思った訳だけど、姉さん達は家を出てるから連絡しようにもできなくてさ…」


「母さんに訊けば良いじゃん。母さんなら知ってるし」

千恵美さんが指摘する。


「それは無理だって。家を出る時『結婚しても古賀姓は継がない!』って言い切ったんだから。今更どんな顔して母さんに会いに行けばいいの?」


古賀姓を継ぐ? なんか訳アリっぽいな。


「実はね、小さい時にあたし達姉妹は両親に言われたのよ。『古賀姓を絶やすな!』って」


困惑してる俺に説明してくれる千恵美さん。


「だから結婚する時は“婿入り”か“婿養子”しか認める気がなかったのよ」

千影さんが補足する。


「千影。昔はああ言ってたけど、今は2人とも気にしてないわよ」


「そうなの?」


「ええ。2人から聴いたし間違いないわ」


時代の流れや変化で考えを変えたんだろうか?


「そうだとしても、今更会うのは…」

それでも千影さんの表情は晴れない。


「だったら、あたしも付いて行こうか? なんなら千春も一緒でさ」


1人では気まずくても、3姉妹揃えば気が楽になるかもな。


「…一応考えとく」


これでご両親との関係が修復されれば良いんだが…。



 「ねぇ、ワタシばかりしゃべらせないでよ。今度は姉さんの近況を教えて」


千影さんの言い分には正当性がある。


「あれ? 千春からいろいろ聴いてない?」


「婚活中なんだってね。聴いたのはそれだけ」


「隼人君のことは?」


「アパートの管理人なんでしょ? それだけ聴いてもよくわからないって」


「何がわからないの?」


「管理人の割に、妙に姉さんと仲良いじゃん。ここに連れてくるなんてさ」


「それは…、あたしが頼んだから…」


「ふ~ん」

意味深な笑みを浮かべる千影さん。


今度は俺達が追及される番か…。千恵美さんが困ったらすぐフォローしないとな!

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