第2章 再び運命の出会いを果たす
第30話 ついにあの人が接触を図る…
千恵美さんの酒癖が悪いことが判明したので、今後酔うまで酒を飲まないように約束させた。
ちょっと酷かもしれないが、これも彼女のためだ。頑張って我慢して欲しい。
その出来事から3日後。金城さん宛てにサウちゃんから荷物が届く。夕食時に全員集まったので、金城さんが藤原さんにその荷物を渡す。
ワクワクした様子の彼女が開封すると…、サインが入っていた。VTuberなのに手書きのサインなのか…。
「…これがサウちゃんのサイン。大切にしよ」
藤原さんは微笑みながら、サインを見つめる。
「……麻美ちゃん。ダンボールに貼られてる伝票もらって良いよね?」
千恵美さんの意識は、伝票に向けられている…。
「…いいよ」
「ありがと」
剥がした彼女は、ある部分を見つめる。
「“
そうか、伝票には住所と電話番号が書いてある。それらを知りたかったんだな。
「千恵美さん、連絡してみたらどうです?」
「あの子とは20年近く会ってないのよ。何を話せばいいかわからないわ…。それに、本当にあたしが知ってる千影とは限らないし…」
あくまで千春さんから聴いた情報になる。彼女の勘違いという線は捨てきれない。
「でも一応気になるから、伝票だけもらうのよ」
「そうですか」
これ以上は、俺がとやかく言う事じゃない。
サインの件から数日後。千恵美さんが作ってくれた朝食を一緒に食べていると、聞いたことがない着信音が鳴る…。
「あたしのみたい」
千恵美さんは携帯を取り出してから立ち上がり、部屋の隅に移動する。
狭い部屋の隅に行っても、彼女の声は聴こえるんだけど…。
「もしもし千春? どうかした?」
電話の主は、千恵美さんの妹の千春さんか…。
「ごめんねお姉ちゃん、こんな朝早くに。いてもたってもいられなくて…」
千恵美さんの携帯が古いのか、相変わらず音漏れがひどい。会話が丸聞こえだ。
「別に良いわよ。…何かあった?」
「実は、千影ちゃんがお姉ちゃんに会いたがってるの♪」
「え? あの子が? 高卒で働き出してから、1回も連絡してこなかったのに?」
「それは…、心境の変化じゃない? あの頃とは違うってことよ♪」
部外者の俺が言う事じゃないが、良い傾向だと思う。家族が疎遠になるのは寂しいよな…。
「あたしに会いたいってなった経緯を教えて」
千恵美さんが電話先の千春さんに尋ねる。
サウちゃんのサインは、サウザンド・スプリングもとい千春さんにも当選している。つまり、彼女も千影さんの住所と電話番号を知っているのだ。
「サインが入っていた荷物に手紙が入っていたのよ♪ そこに連絡先が書いてあったから、ネットだけじゃなくて現実でも千影ちゃんと繋がることができたの♪」
「手紙? そんなのなかったはずだけど?」
俺も観ていないぞ…。当選相手が千春さんと確信してたから同封したんだろう。
「え? お姉ちゃんが私と一緒に当選した“マリマリ”さんなの?」
戸惑う千春さん。
千恵美さんが“マリマリ”さんと同じアパートに住んでて交流があるなんて、千春さんにわかるはずないよな…。
「違うわ。同じアパートに住んでる人なのよ。中身も一緒に確認したの」
「そうなんだ♪ …それでね、連絡先を交換してそう遠くない内に、千影ちゃんが“私に会いたい”って言ってくれたのよ♪ 嬉しくて飛び跳ねちゃった~♪」
「…それで、実際に千影に会った訳?」
「会ったわよ♪ 昔は大人しかったけど、今は全然違ったわ♪ 私は今の千影ちゃんの方が好きね♪」
「そっか…。あの子、元気にやってるんだ…」
安堵した様子の千恵美さん。
「ええ♪ 会った時に言われたの。『千恵美姉さんは元気にやってる?』ってね♪」
訊くだけで、直接会う気はないのか…?
「だから私が『お姉ちゃんのことが気になるなら、直接会えば良いじゃない♪』と伝えたのよ♪ そうしたら『そうする』って言ってくれたわ♪」
なるほど。これで千影さんが千恵美さんに会いたい経緯はわかった。
流れは理解できたものの、肝心の理由は不明のままだ。
真意は、千影さんのみが知る。
「千春。千影に『あたしも会いたい』って伝えて」
「は~い♪」
「場所については考えておくから」
花恋荘には守秘義務があり、業者以外の人がここに来るのを禁止している。
なので、別のところで落ち合う必要があるのだ。
「わかったわ♪」
「それじゃ、後でね」
「うん♪」
千春さんの返事後、千恵美さんは携帯の電源を切った。
「良かったですね。千影さんに会う事が出来て」
姉妹の感動? の再会になるからだ。
「あたしもそう思って“会いたい”って言っちゃったけど、いざ会った時に何を話せばいいか…。悩むわね~」
考え込む千恵美さん。
「そんな難しく考える必要ないのでは?」
近況を話すとか、いろいろあると思う。
「…ねぇ隼人君。あたしと一緒に千影に会ってくれない?」
「えぇ!? 部外者の俺がいるのはちょっと…」
どう考えても邪魔だよな。
「管理人は住民のヘルプに応じてくれるんでしょ? お願い、あたしを助けて!」
千恵美さんは手を合わせて頼んできた。
「…良いですよ。役に立てるとは思えませんが」
「そばにいてくれるだけでも心強いから、細かいことは気にしなくて良いわよ」
こうして、俺は千恵美さんと共に千影さんに会う事になった。急に姉に会いたがるなど、千影さんの行動には気になる点が多い。
今回の件は、あくまでサポートだ。千恵美さんが言葉に詰まったら、俺が頑張ってフォローするとしよう…。
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