第28話 初めて観る百合プレイ?
千恵美さんを看病したことがきっかけで俺達の距離は縮まり、互いを名前で呼ぶようになった。管理人と住民の関係は、良くしておきたいよな。
翌日。元気になった千恵美さんが作ってくれた朝食を頂いた後、藤原さんの部屋に行く。サウちゃんが企画した『サインプレゼント』の結果動画を共に観るためだ。
普段はこんな朝早く配信しないが、いつもと内容が違うからと推測する。
その影響で、動画の時間も短めだ。手早く確認したい人を考えているな。
【みんな、サインの応募ありがとう…。アンケートはちゃんと目を通したよ…】
俺が書いたことが、いつか反映されると良いけど…。
【厳正なる抽選の結果…】
さぁ、どうなる? 俺と藤原さんは変わらずノートパソコンの画面を見つめる。
【『サウザンド・スプリング』さんと『マリマリ』さんの2人に決定…】
『サウザンド・スプリング』というのは、千恵美さんの妹の千春さんのことだ。
個性的な名前だし、本人がそう言ったから間違いない。(26話参照)
もう1人の『マリマリ』って、金城さんのことで良いんだよな?
「ねぇシキ。この『マリマリ』って…」
藤原さんも疑問に思っていたか。
「金城さんのことだと思いますが…」
人違いの可能性も否定できない。
【該当者の2人には、送付先を尋ねるメールを送ったよ…】
そうか。そのメールの有無で判断できるな。早めに金城さんに教えないと、迷惑メールとして削除されるかも…。
俺は『サウちゃんのサインが、金城さんに当選したようです。送付先を尋ねるメールが届いてると思いますが、削除しないで下さい』と連絡する。
まだ朝早いし彼女は寝てるだろうが、メールを削除しなければ問題ない。
送付先の記入とかは、俺がやるとしよう。
【今回はお知らせだから、もう終わるね…。観てくれてありがとう…】
こうして動画は終わる。まさか当選した2人共、俺が知ってる人とは…。
世の中広いのか狭いのか、よくわからないな。
サウちゃんの動画を観終わったので、俺は藤原さんと別れて管理人室に戻ってきた。その後、昼からのバイトに向けて準備する。
荒井さんにそう連絡したら、その時間帯を指示されたのだ。俺は新人なので綾瀬さんとワンツーマンで行動しないといけない。彼女のシフトと合う必要がある。
…そういえば、挨拶の発声練習ができなかったな。管理人室で練習すると、隣の千恵美さんに聴こえるのでは? と思って止めたのだ。
外でやったら、それもそれで迷惑だし…。練習する機会がないので、店内で数をこなすしかないか。
バイト2日目は、初日と同じように綾瀬さんの隣か後ろに付いて観察したり真似をする。このバイトはサブなので、たまにしかシフトに入らない。
そのせいで、一部忘れていることがあるな…。使わない記憶は忘れるものだが、このままだと一人前になるのが遅れてしまう。どうしたものか…。
夕方にバイトが終わったので帰宅すると、千恵美さんがキッチンで調理中だった。昨日は2人きりだったが、今日は4人での夕食になりそうだ。
「おかえり隼人君。バイトお疲れ様」
「疲れるようなことは特にしてませんが…。俺は新人なので、観ることが多いです」
「それだって大変な事じゃない。覚えちゃえば楽だと思うけど…」
こんな俺を労ってくれるのは嬉しいな。
「もう少しで、夕食できるからね」
「わかりました」
千恵美さんの夕食が完成し、メニューがちゃぶ台に並ぶ。その途中で金城さんと藤原さんが管理人室に来て、該当場所に腰かける。
「金城さん。そのビン、何なんですか?」
彼女が来た時、一リットルぐらいの酒瓶を持っていたのだ。
「これ? 今日の婚活相手からもらったウイスキー。試しに飲んだけど、強いわ~」
酒の知識ゼロの俺ですら、ウイスキーが強い酒なのは知っているぞ…。
「真理ちゃん。良かったら、あたしにも飲ませて」
キッチンでの用が済み、ちゃぶ台の方に来た千恵美さんが言う。
「もちろん。一人じゃ飲み切れないし」
酒の付き合いができるのは、大人ならではだな。
今日の夕食は、酒を交える形になりそうだ。
「金城さん。俺が朝連絡したやつ、観てくれました?」
忘れちゃいけないので、夕食前に確認する。
「見たよ。まさかウチが当選するなんてね~。ビックリだよ」
「送付先の記入とかは、俺がやっときます」
「んじゃ頼んだ」
金城さんは俺に携帯を渡す。
住所・氏名・電話番号といったことか。ここは金城さんに受け取ってもらおう。
それから藤原さんに渡せば良い。欲しいのは彼女なんだから。
後は…、守秘義務についての記載がある。これは全員に知らせないと。
「サインは宅配便で届くみたいですが、その際サウちゃんの氏名と住所も記載されるようです。それらを“外部に絶対漏らすな”と書いてありますね…」
「守秘義務ってやつでしょ? そんなの、わかってるよ」
金城さんの答えに、千恵美さんと藤原さんも頷く。
この3人には心配無用か。花恋荘にも守秘義務はあるからな。
俺の話で夕食が先延ばしされたが、終わったので全員食べ始める。
「今日の男はさ~、結構いい感じなんだ~」
夕食中、ひどく酔った感じの金城さんが言う。
「良かったじゃない。あたしは全然よ…」
千恵美さんも同様に見える。
互いに2杯ぐらい飲んだだろうか。そのぐらいで目がうつろになったり、呂律が不安定になったりするのか…?
未成年の俺にはピンとこないが、酒に酔うとどういう気分になるんだろう?
気になるし、藤原さんに訊いてみるか。
「藤原さんは酒飲みます?」
「全然…。両親も親戚もみんな下戸…」
「そうですか」
それなら、俺と同じだな。
「今日の男をキープするには~、若い体のエネルギーが必要だ~」
金城さんはそう言って、夕食が済んで間もない藤原さんの後ろに回り込む。
「何なの? 真理…?」
「ウチも、こんなおっぱい欲しい~!」
金城さんは藤原さんのTシャツ越しに胸を揉み始める。
「ちょっと…」
彼女は振りほどこうとするが…。
「麻美。サウちゃんのサインがもらえるのは、ウチのおかげでしょ~?」
「それは…そうだけど…」
サウちゃんのサインのことを言われたら、強く言えないよな…。
「ちょっとだけだから~。そっちの気はないし~」
「…わかった」
金城さんが暴走しないよう、しっかり見守るか。
「よ~し、麻美の許可をもらったから~…」
金城さんは藤原さんのTシャツの中に手を入れる。
「え…? 直接…?」
彼女は驚きをあらわにする。
「あんた、そのぶかぶかTシャツの中はいつもノーブラじゃん。そんなに違わないよね~」
「……」
藤原さんは何も言わず、金城さんに直接揉まれている。
さっきOKした以上、断りにくいんだろう。
「あんたって部屋にいることが多いけど、就活してんの~?」
話ながらでも、揉むのを止めない金城さん。
「…サウちゃんのようなVTuber目指してるから、する気ない…」
それは俺も聴いたな。(20話参照)
「ふ~ん。麻美は顔もスタイルも良いんだから、外に出たほうが良いと思うけどな~」
「…人間関係はめんどいし苦手…」
「めんどいのはともかく、苦手なのはウチも一緒だよ~」
え? とてもそうには見えないが…。
「というか、得意な人なんて滅多にいないって~」
いつもおしゃべりな金城さんだが、もしかしてその行動は勇気を出した結果だったりする? 酔った彼女の言葉を、どこまで信じて良いものか…。
「…あっ♡」
突然藤原さんがいつもと違う声を一瞬上げる。
いい加減、揉むのを止めさせたほうが良いかも…?
「あんたの胸の先端、反応してるね~。気持ち良くなってるのかな~?」
「……」
彼女は答えようとしない。
サウちゃんのサインがきっかけだとしても、揉み始めてそこそこの時間になる。どうすれば良いのか悩むので、千恵美さんに訊くとしよう。
「千恵美さん!」
…彼女はうつろな目で、2人の成り行きをぼんやり見ている。
ダメだ、頼りにならない。俺がしっかりしないと!
そうと決まれば、急いで止めよう。俺は金城さんに声をかける…。
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