第27話 古賀さんが風邪をひいた!?

 古賀さんが妹の千春さんと電話した後、みんなは自室に戻っていった。


サウちゃんのサインが当たるのは、たった2人だけだ。俺・藤原さん・古賀さん・金城さんの4口で応募するのが、今できる精一杯になる。


後は、当選することを祈るだけだな。



 翌日。いつもの時間に起床する俺。着替えや洗顔といった朝の準備を終えたので、古賀さんが作る朝食を頂く用意は完了した。


準備完了して数分後、携帯の受信音が鳴る。暇だし確認するか。

…古賀さんからか。何の用だろう?


『風邪気味だから、今日は行けそうにないわ。ごめんね』


え? 古賀さんが風邪気味? …昨日の呼び出しが影響してそうだな。


あの時の彼女は風呂から上がってすぐ来たので、髪がまだ濡れていたのだ。

婚活とかの疲れも残っていただろうし、引き金になったと思う…。


彼女のお見舞いについては、自分で作る朝食を食べてから考えるか。



 …腹が膨れたので、古賀さんのお見舞いをどうするか決めよう。


俺は各部屋の合鍵を持っている。なので緊急時に全員の部屋に入ることはできるが、タイミングを間違えるとセクハラになるので、最後の手段だな。


携帯で古賀さんに連絡できるけど、着信音で睡眠の邪魔をするかもしれない。

かといって放置すると、病状の悪化を見過ごすかも…。


一体、どうすれば良いんだろう? 悩むことが多いぞ。



 悩みに悩んだ結果、金城さんの意見を求めることにした。

彼女は年上だし、古賀さんと同性だ。力を借りることもあるはず。


そうと決まったら、早速連絡だ。内容は…。


『古賀さんが風邪をひいたようです。話したいことがあるので、管理人室に来てください』


これで良いか。手早く送信する。


…後は彼女がここに来るのを待とう。



 「倉くん、さっきのホントなの~?」

管理人室の扉が開いた音がしてから、金城さんの声が聞こえる。


送信してまだ5分ほどしか経ってないぞ。予想より早く来てくれて助かるな。


俺は急いで玄関に向かう。


「そうなんですよ。俺はどうすれば良いと思います?」


「千恵美さんが何か連絡するまで、放置で良いでしょ?」

平然と答える金城さん。


「それだと、病状の悪化を見過ごしてしまいますよ!」


「悪化したら、自分で救急車呼ぶんじゃない?」


「救急車を呼べないぐらい悪化してたら…?」


「そこまでひどくなるとは思えないけどな~」


彼女の言う通り、心配しすぎかもしれない。だが、俺は管理人だ。最悪のケースを想定しておくべきだろ。


「…どうしても気になるなら、合鍵で千恵美さんの部屋に入ったら? ウチも一緒に行くからさ」


古賀さんに何か言われたり誤解されても、金城さんがフォローしてくれるよな?


「ありがとうございます。お願いしますね」


「良いよ~。いつ行く?」


「今行きましょう!」


「そこは『今でしょ!』って言うところだよ。倉くん」


「金城さん。ふざけてる場合じゃないですって!」

某先生の真似をする余裕があるのか…。


「はいはい。倉くんは真面目だね~」


既に合鍵は持っているので、俺は急いで靴を履き管理人室を出る。



 古賀さんの部屋である101号室前に来た。

合鍵を使う前に、ドアノブを回してみる。


…開いた。俺は金城さんの顔を観た後に部屋に入る。


「古賀さん。倉式ですけど、容態はどうですか?」

上がる前に、玄関先で声をかけてみる。


………反応がない。きっと寝てるんだな。

そう思った矢先、携帯が鳴ったのですぐ確認する。


古賀さんからで『起きてるから来て』と書いてある。

起きたり声を出すのは辛いけど、携帯は操作できる感じか?


「古賀さん、起きてるみたいなので上がりましょう」


「さっきの、千恵美さんからだったんだ?」


「はい」


俺達は靴を脱ぎ、部屋に上がることにした。



 「……倉式君、どうしたの?」

古賀さんは布団に横になっていたが、俺達が来たことで上半身だけ起こす。


声はいつもより小さくて弱々しい。風邪気味なのは本当だな。


「古賀さんの体調が心配で来ちゃいました。勝手に来てすみません」

俺と金城さんは、彼女のそばに腰かける。


「良いのよ。君の顔を見られて、少し気分が楽になったわ」

微笑む古賀さん。


「真理ちゃんも来てくれてありがとね」


「気にしなくて良いって。…後は倉くんに任せて大丈夫だよね?」


「ええ、任せて下さい」


「んじゃ、お大事に~」

金城さんはそう言って立ち上がり、部屋を出て行った。



 今の古賀さんを見る限り、何かあっても俺や救急車を呼べそうだ。

だったら長居は無用だな。ゆっくり休んでもらうのが最善だろう。


「古賀さん。何かあったら遠慮なく呼んで下さい。…お大事に」

俺も立とうとしたんだが…。


「待って」


何故か呼び止められた。


「どうしました?」


「…お願いがあるんだけど」

恥ずかしそうな様子の古賀さん。


「何でしょう?」


「いつもは年長者として頑張ってるけど、今日だけはに甘えたいの。…良いかな?」


隼人君…。古賀さんが初めて俺を名前で呼んだな。


「もちろんですよ、


…すぐ反論してこないし、この呼び方でOKってことだよな?



 「甘えたいのはわかりましたが、何をすれば良いですか?」

病人だから、ある程度の想像はできるが…。


「実はちょっとお腹がすいてて…」


「それでしたら、雑炊を作りますね」

消化に良い物を作らないとな。


レシピは調べれば何とかなるだろう。


「…ありがとう。冷蔵庫の食材を好きに使って良いから」


「了解です」


「あと、洗濯物をお願いしたいの。昨日は髪を乾かしてすぐ寝ちゃったから…」


「俺がやって良いんですか?」

その中には、当然下着が含まれるわけで…。


「もちろん。隼人君のことは信頼してるから」


千恵美さん…。俺をそんな風に思ってくれるなんて嬉しいな。


「わかりました。やりますね」


「ブラは小さい洗濯ネットに入れてね。後はまとめてネットに入れてちょうだい。

洗剤と柔軟剤は1種類しかないから、迷う事はないはずよ」


「はい。今すぐ取り掛かります」



 俺は先に洗濯をこなしてから、雑炊づくりを始める。あくまで個人的だが、洗濯を優先したほうが良いと思ったからだ。


洗ってる間に他のことをした方が、無駄がなくて良いだろ?


今まで雑炊を作ったことはなかったが、レシピサイトがわかりやすいおかげで難なく作れた。雑炊が簡単な料理というのもあるだろうけど…。


「お待たせしました」

俺は千恵美さんのそばに、雑炊が乗ったトレイを置く。


「…ありがとう。良い匂いね」


「うまく作れたと思いますが…」


「大丈夫よ。自信を持って」


病人の千恵美さんに励まされるとは…。本来は俺が元気付けないといけないのに。


「隼人君。雑炊、熱そうよね」


「そりゃまぁ…。さっきまで煮てましたから」


「ふーふーしてから食べさせて」


「わかりました」

まさか、こんなことをやるなんてな。


ここに来た時は想像すらしてなかったが、少しでも千恵美さんの役に立てるなら本望だ。



 雑炊を千恵美さんに食べさせて洗濯物を室内干しした後、彼女はウトウトしていたので退出することにした。


今の千恵美さんがすべきなのは寝ることだ。邪魔をしてはいけないな。


昼食前に敷地内の雑草抜きやゴミ拾いをこなし、食後に掃除機をかけない部屋の片付けをしていたら、あっという間に3時になった。


小腹がすいたな…。何か適当にお菓子でも食べるか。



 お菓子を食べながら、千恵美さんのことを考える。 あれから連絡してこないけど、大丈夫かな?


体調を訊いたほうが良いだろうか? いや、止めたほうが良いよな。今も寝ているかもしれないし。俺が邪魔をするのは、もっての外だ。


でも気になる…。俺はどうすれば良い? そんな風に悶絶してると、携帯の着信音が鳴る。千恵美さんからか? すぐ確認する。


『隼人君。来れるなら今すぐ、あたしの部屋に来て!』とある。


何かトラブルか? 俺は管理人室を飛び出した。



 「千恵美さん、何かあったんですか!?」

ノックせずに勢いよく玄関の扉を開けてしまったことを、途中で気付く。


「きゃ!? …びっくりさせないでよ」

彼女はキッチンで何かを切っていた。


玄関のほんの少し先に、キッチンがあるのだ。それは花恋荘共通の造りになる。


「今すぐ来て欲しいと書いてありましたが…」


「今日の夕食のことよ。直接顔を見て話したいから、あんな風に書いちゃった」

微笑む千恵美さん。


「それも気になることですが、体調は大丈夫なんですか?」

観た感じ、さっきよりは顔色が良い。


「さすがに本調子じゃないけどね。けど、あたしと君の分を作る余裕はあるわよ」


あれ? 2人分なのか? 金城さんと藤原さんの分はどうする気なんだろう?


「朝、言ったわよね? 『今日は隼人君に甘えたい』って」


「はい」


「だから夕食は、2人きりで食べましょ。…ね?」


「喜んで。2人で食べるのも良いですね」

関係がさらに深まる感じで。


「でしょ? 前から2人きりでゆっくり話したかったのよ。…それじゃ、いつもの時間にあたしの部屋に来て」


「わかりました」


「次に扉を開ける時は、静かにお願いね」


「はい、気を付けます…」


2人きりで食べる夕食の約束をした後、俺は千恵美さんの部屋を後にする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る