第26話 正体判明! サウザンド・スプリング

 サウちゃんが、アンケートに答えた人の中から抽選で2人にサインをプレゼントという企画を開催した。


俺と藤原さんは参加したが、1人1回1端末の制限がある…。

その状態で応募数を増やすには、古賀さんと金城さんの協力が不可欠だ。


…何とか協力してもらったものの、アンケート完了にはニックネームがいる。


古賀さんが決めかねていたので、金城さんが「サウザンド・スマイルにでもすれば?」と提案する。


それをきっかけに、サウザンドの意味を知る古賀さん。他にサウザンドがついて活動的なファンは『サウザンド・スプリング』さんだけのようだ。


その意味は“千春ちはる”になるんだが、その名前どこかで聴いたような…?



 「あっ!」

俺と同じように考え込んでいた古賀さんが声を上げる。


「どうしました?」


「あたしの妹も千春っていうのよ。これって偶然?」


古賀さんの妹…。思い出したぞ!


「千春さんって確か、胸が超大きい人でしたよね!(8話参照)」


「倉くん、そんなこと大声で言っちゃダメじゃん」


「…シキのむっつり」


「すみません…。思い出してスッキリしたので、つい…」


俺の失言を消すかのように、古賀さんがわざとらしく咳払いをする。


「人違いかもしれないけどね。麻美ちゃん、スプリングさんをもっと知ることってできる?」


それを聴いて、藤原さんは携帯を操作する。


「…自己紹介欄には何も書いてない…。コメントで良ければ見せられるけど…?」


「それでも良いわ。見せて」

彼女は藤原さんの横に移動し、携帯を見つめる。



 スプリングさんのコメントを確認するには時間が必要だ。

…1分ほど空けたし、大体把握できただろう。


「古賀さん、どうでした?」


「キノコに関するコメントばっかりよ。『キノコ盛りだくさんね♪』とか『おぞましい色のキノコ…』とか。キノコ愛が凄いわ」


「古賀さんもキノコ好きですよね? 親族の方もそうだとか。(15話参照)」


「ええ。名前だけならともかく、キノコ好きも被るかな~?」


せめてもう1つ被れば、本人と断点できると思うが…。


「古賀さん。他に千春さんと特定できることはあります?」


「う~ん。結婚してて子供がいるのは、珍しいことじゃないし…」


ダメか…。あと少しなんだけどな。


「今から千春に電話して訊いてみるわ!」


「もし間違ってたら、どうするんですか?」


「そんなの『ゴメン』の一言よ。あの子なら許してくれるわ」


…だったら、すぐ電話して訊いても良かったのでは?

今まで考えた時間が無駄に感じる。


「…頼むから、出てちょうだい」

携帯を耳に当てて待つ古賀さん。


俺も千春さんが出るように祈っておこう。



 「…もしもし? お姉ちゃん?」

古賀さんの携帯から女性の声が聞こえた。


彼女は普通に携帯を耳に当ててるのに…。

音漏れのおかげで会話がわかるから、悪いことじゃないが。


「そう、あたしよ。悪いわね急に電話して。今時間ある?」


「夕食は食べ終わったし、千夏ちゃんはお風呂に入ってるから大丈夫よ♪」


「なら良かった。あのさ、ちょっと変な事訊くけど…」


「変な事?」


「あんた『サウザンド・スプリング』というニックネームで『サウザンド・シャドウ』という人の動画にコメントしてる?」


この返答で全てが決まるが…。


「…お姉ちゃん、すご~い♪ 名探偵ね♪」


千春さんのこの答え。間違いないようだ。


「あたしにかかれば、こんなものよ!」


古賀さん1人の力じゃないんだけど…。金城さんと藤原さんの表情的に、似たようなことを考えてるな。


「だったら、サウちゃんの正体が妹の千影ちゃんなのも知ってるわよね?」


「えっ?」

古賀さんの間の抜けた声が、管理人室に響く。


「も…もちろん知ってるわよ」


俺であっても、苦し紛れなのが伝わる。千春さんには絶対わかるだろう。


「さすがお姉ちゃん♪」


千春さん、あえて触れずに持ち上げるのか…。会話だけ聴いてると、どっちが年上かわからない。



 「千春。あんたはどうやってサウちゃんを知ったの? 千影から聴いたとか?」


それは俺も気になる。千春さん、どうなんだ?


「違うわ。玲君に教えてもらったの♪」


「玲君って誰?」


「千夏ちゃんの彼氏の“今村 玲”君よ♪ 」


「千夏ちゃん、彼氏いたんだ?」


「付き合い始めたのは、GWゴールデンウィーク明けなの♪ 2人は同じクラスで、ずっと一緒にいるのよ♪ 観てて羨ましくなっちゃう♪」


「そう…なんだ…」


婚活中の古賀さんからしたら、複雑だろうな。かくいう俺もだが…。


千夏さんが高1なのは以前聴いたが、年下がラブラブなのは何と言うか…。

負けた感じだな。勝手に劣等感を抱く俺が悪いのは、言うまでもない。



 「2人はどういうきっかけで出会ったの?」


どちらも高校生なんだから、校内で何かあったと考えるのが自然だな。


「さっき言った通り、千夏ちゃんと玲君は同じクラスだから前から会っていたの♪ その2人が距離を縮めたきっかけは…、私♪」


「はぁ? 意味わからないんだけど? 教えてよ!」


古賀さんの言う通りだ。高1の男女が付き合うきっかけに、親が関わるなんて…。

予想が外れたな。俺も彼女同様、気になってきた。


「あんな恥ずかしいこと、お姉ちゃんにも話したくないわ♪」


千春さんにとって恥ずかしいことが、今村君と千夏さんの距離を縮めるのか?

……いくら考えても、行動と結果が結びつかない。どうなってるんだ?



 「…あ、千夏ちゃんがお風呂から出てきたわ♪ 私もすぐ入らないと♪」


「千春! 千影は元気でやってるの?」


「その話はまた今度ね♪ バイバイ、お姉ちゃん♪」


「ちょっと千春!? ……切れちゃった」


電話のやり取りを少し聞いただけだが、姉妹の力関係? がわかったような…。


「何はともあれ、正体が千春だとわかってスッキリしたわ~」


それは俺も同意だが、さっき聴いたあの事が気になっている。


「まさか、サウちゃんの正体も判明するなんて驚きですよね」


「本当よ。…って、ちょっと待って」

突然考え込む古賀さん。


「? どうしたんです?」


「千影は有名なVTuberで、千春はコメントにいっぱい返信されて人気者…。あたしだけ何もないじゃない!」


「何もないなんて言い過ぎですよ。古賀さんにも、何かありますって」


「何かってなに? 倉式君?」

彼女は必死な様子で詰め寄る。


「えーと…」

マズイな。詳細を訊かれるなんて予想外だ。


「千恵美さん落ち着いて! 倉くん、困ってるじゃん」

珍しく、金城さんが制止側に回る。


古賀さんはハッとした後…。


「倉式君ゴメンね。取り乱しちゃって…」


「気にしてませんから」

安易な励ましは良くないんだな。教訓にしたほうが良いかも?



 「千恵美さん。今のウチらにできるのは、玉の輿に乗ることだって! 余計なことを考えずに婚活しようよ。ね?」


これが金城さんなりの励まし方か…。


「仮に玉の輿に乗ったとしても、能力で妹たちに負けたことに変わりないわ…」


「そんな事ないって。“玉の輿のハートを射抜いた”ことが能力でしょ? 諦めちゃダメだよ!」


「…そうね。ここにいる間は諦めないようにするわ!」


金城さんの励ましは効果的だったようで、古賀さんは元気を取り戻した。


管理人として、2人の婚活がうまくいくことを祈るか。

時間がある時に、神社に行くのも良いかもしれないな。

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