第17話 お披露目! Vtuber サウザンド・シャドウ
古賀さんがお願いしてきた朝の買い物に付き合った後、彼女と一緒にあちこち出かけた俺。
その際、俺が観ている〇outuberの話になったので、〈サウザンド・シャドウ〉について触れた。古賀さんが興味を示したので、近い内に見せてあげないと。
花恋荘に戻った後は解散し、管理人室に戻ってきた。
その後、古賀さんが買ってくれた服を引き出しにしまう。
服の量が増えたので、組み合わせのパターンも増加したことになる。
考える手間が増えてしまったが、“ファッションを楽しめる”と思うことにしよう。
夕方に古賀さんが管理人室に来て、冷蔵庫を漁る。夕食作りのためだ。彼女はいくつかの材料を手に取り、キッチンに向かう。
「古賀さん。何か手伝いますよ!」
少しでも力にならないと!
「う~ん、特にないのよね…」
彼女の反応はイマイチだ。
「でしたら、食器洗いは俺がやります」
何かしないと、俺の気が済まない。
「そうね。それはお願いするわ」
「はい! 任せて下さい!」
昨日同様の時間に、
…彼女が料理を運び終えたので、全員ちゃぶ台につく。
おいしそうなメニューがちゃぶ台を支配する中、夕食の時間が始まる。
「今日さ~、倉くんと千恵美さんって一緒に出掛けてた?」
夕食中、金城さんが訊いてくる。
「そうだけど、それがどうかした?」
「千恵美さんの車がない時にここに来たんだけど、鍵がかかっててさ~。もしかしたらと思っただけだよ」
「そっか…」
「金城さん、俺に何か用事でもあったんですか?」
用がなければ、ここに来ることはないはずだ。
「別に。暇つぶしに来ただけ」
「暇つぶし…ですか?」
「うん。話し相手になってもらうつもりだったけど、この間みたいにおもちゃを当ててもらうのも良いかもって、今思った」(10話参照)
「真理ちゃん、あれを倉式君に頼むのはちょっと…」
難色を示す古賀さん。
「倉くんがウチらみたいなおばさんに興味を持つとは思えないけどね。来るべき彼女のために、女の体を知っておいたほうが良いんじゃない? その予行練習だよ」
金城さんはそう言うが、卑下する必要はないと思うけど…。
それを言ったところで、お世辞にしか聞こえないだろう。
全員夕食を食べ終わった。これから食器を流しに持って行くんだが…。
「倉式君。食器洗いが終わったら、ぶいちゅーばーの動画見せて!」
古賀さん、言い慣れないのか片言だな…。
「Vtuber? 倉くん、好きなんだ?」
金城さんが興味を示す。
「一応ですけど。〈サウザンド・シャドウ〉さんの動画はそこそこ見ます」
「〈サウザンド・シャドウ〉? シキも観るんだ、私もだよ…」
普段は感情の動きが少ない藤原さんが、嬉しそうに答える。
「倉くんだけじゃなくて、麻美もか。ウチにはよくわからないけど、名前で損しない? いかにも男の子が好きそうな感じじゃん」
「…その名前、Vtuber成り立ての自己紹介動画で、サウちゃんの彼氏が決めたって言ってた」
話を聴く限り、藤原さんは長い間ファンなんだな。
「彼氏? じゃあ、そんな名前で女がやってるの?」
「…そうだよ。まぁ、設定かもしれないけど」
本人が出ない以上、性をごまかすのは容易だ。それより気になるのは…。
「藤原さん。サウちゃんっていうのは…?」
「? 本人希望の愛称だけど…?」
「そうなんですか。知りませんでした」
「シキ。そのまま呼んだら、私のようなファンに怒られるよ。…気を付けて」
「はい…」
ガチ勢怖いな…。怒らせないように気を付けないと。
〈サウザンド・シャドウ〉の動画を古賀さんに見せるため、手早く食器洗いを済ませる俺。急ぐからといって、手抜きはしないけどな。
…夕食は済んだのに、金城さんと藤原さんは自分の部屋に戻ろうとしない。
「倉くん。ウチも動画見せて!」
「良いですよ」
金城さんも興味を持ったのか。
「…私も観る。シキをよりファンにさせるために」
「そ…そうですか」
同志を見つけたことで、藤原さんの謎のスイッチが入った?
「ねぇ倉式君。スマホで見せてくれるんだよね?」
不安そうな顔をする古賀さん。
「はい。そのつもりですけど?」
「小さい画面を見続けるのは辛いの…」
俺は気にしたことないけど、彼女に見せるのが目的だからな。
手段を変えないとダメっぽいぞ。
「倉くん。パソコンの画面をテレビかモニターに出せば良いんじゃない? それなら老眼の千恵美さんにも見やすいと思うよ」
「老眼じゃないわよ!!」
その手があったな。すぐ準備するとしよう。
……無事、パソコンの画面をテレビに移すことに成功した。
「ありがと、倉式君。これなら見やすいわ」
「気に入ってもらえて良かったです」
「倉くん、早く早く」
金城さんに急かされる。
「すぐ開きますから、待っててください」
動画を開いて早々、いつもの彼女が右側に現れる。
黒の長髪に右目が赤・左目がネイビーのオッドアイ。
それに加え、服装も黒をベースにしているから名前通りの印象を抱くはず。
【みんな、観てくれてありがとう】
これがサウちゃんのスタイルだ。動画の最初と最後に礼を言う。
「この子が…、〈サウザンド・シャドウ〉さん…? アニメに出てきそうね」
「それがコンセプトだから。ねぇ倉くん?」
「そうですね」
〇outuberとはうまく差別化されてると思う。
「動くこともできるんだ…。凄いな~」
サウちゃんを見つめる古賀さん。
「それ、アニメみたいな絵じゃなくてCGだからできるんだよ」
「へぇ~。真理ちゃん、詳しいわね」
「婚活相手にいたんだよ。Vtuberが好きな人がさ。タイプじゃなかったから、ちょっと雑談しただけなんだけど…」
今話したのは、その人から聴いた内容なのかな?
知識がどこで活かさせるかは、本当にわからないものだ。
その後も、サウちゃんの動画を鑑賞する俺達。彼女のゲームの腕には度々驚かされるが、サウちゃんの実況はゲーム鑑賞を邪魔しない程々のバランスなので、落ち着いて見られる。
たまにいるんだよな。声が大きすぎたり、間を入れずに話す人が。
実況だからといって、無理に話す必要はない。静寂な時間も必要だと思うが、そのあたりは実況者のセンス次第だろう…。
【今日はここまで。最後まで観てくれてありがとう…】
気付けば動画は終わりを迎える。
「最後まで観るつもりなかったのに、つい観ちゃったわ」
満足気な表情に見える古賀さん。
「この人、マジで女かもしれないね」
「金城さん、それどういう意味です?」
「だって、胸が大きくなかったじゃん。男相手なんだから、巨乳にしたほうが釣られる男は多いはずなのにさ。その姿勢が良いわ」
古賀さんが大きく頷く。あの事、まだ気にしてるのか。(8話参照)
「…シキはサウちゃんにコメントしたことある?」
突然藤原さんに訊かれる。
「いえ、ないですよ」
「本当? 〈サウザンド・スプリング〉って名前でコメントしてない…?」
「してませんって。その人がどうかしたんですか?」
「今まで、サウちゃんはコメントに返信したことがなかった…。だけど、ある日突然現れた〈サウザンド・スプリング〉にだけ返信することが、一部のファンの間で話題になってる…」
「そんなの、名前がそっくりだから親近感が湧いたんじゃないの?」
横から金城さんが指摘する。
「…それはあり得ない。だって、他にも〈サウザンド〉が入ってる人がいるから」
「ふ~ん」
「よくわかりませんが、スプリングさんのコメントがサウちゃんの心を掴んだんですかね」
そう考えないと、1人だけに返信する理由がない。
「それも違う気がする…」
「どういう事です?」
「サウちゃんが、スプリングのコメントに初めて返信したのがこれなんだよ…」
そう言って、藤原さんは俺に携帯を見せてくる。
『焼きキノコ、おいしそうですね♪』とある。ゆるい内容だな~。
「サウちゃんは、これに返信したんですか?」
「そう…。返信内容はこれ…」
『そうですかね? わたしは何とも…』と書かれている。
「この内容では、心を掴んだとは言えませんね」
悪い意味ならあるかもしれないが…。
「…うん。だからサウちゃんにとってスプリング、つまり“春”と何かしらの繋がりがあると思うんだけど…」
サウちゃんは春が好きとか? そんな子供じみた理由があるかな?
「そんな訳で、サウちゃんに気に入られたスプリングは、ファンカーストの上位にいるんだ…」
スクールカーストは聞いたことあるが、ファンカーストは初めて聞いたぞ…。
「ウチには付いていけんわ…」
「あたしも…」
俺と藤原さんの会話にツッコむ、金城さんと古賀さん。
突如現れた〈サウザンド・スプリング〉。この人の正体は、果たして誰なんだ…?
謎が謎を呼ぶ中、今回はお開きになった。
スプリングのことは、熱心なファンである藤原さんに任せよう。
そう思いつつ、俺は風呂に入ることにした。
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