第15話 どんどんキノコを買うわよ!

 …太陽の光が部屋を明るくしているのが、目を閉じていてもわかるな。

俺はベッドから起き上がり、伸びをする。


花恋荘初日の夜は、グッスリ寝ることができた。

いろんな事があったし、俺の想像以上に疲れていたのだろう。


今日1日、頑張るとするか!



 ……何やら、キッチンで焼く音が聞こえ始めた。昨日古賀さんにカギを渡したし、朝食を作ってくれてるのかな? 早速部屋を出て、キッチンに向かおう。


「おはようございます! 古賀さん」


「おはよう、倉式君。昨日はよく寝れたかしら?」


「はい、おかげさまで!」


「そう、良かったわね」

俺のほうを観ていた古賀さんだったが、フライパンに視線が移動する。


「あの…、何を作ってくれるんですか?」

そばに卵があるけど、それだけではメニューがわからない。


「今はスクランブルエッグを作るために、油をフライパンになじませてるところよ」


重要な工程なのは、料理をあまりしない俺だってわかることだ。


「出来たら、焼いた食パンの上に乗せるつもりなんだけど良いかしら?」


「もちろんです。おいしそうですね!」


普段家でトーストを食べる時は、ジャムやマーガリンを塗るパターンしかなかったので新鮮だ。卵は何にでも合う万能食材だよな。


「ありがとう。後はサラダを用意するわ。野菜はちゃんと食べないとね」


「はい、そうですね」


俺は洗面台で顔を洗ってから、部屋で待機することにした。

何もしない奴が横にいても、迷惑なだけだろうし…。



 料理が済んだ古賀さんが、さっき言った2点と紅茶を持ってきてくれた。

トーストの上にある卵には、ケチャップがかかっている。


「簡単なものでごめんね」

運び終え、腰を下ろした古賀さんが言う。


「とんでもない! 用意してくれただけで嬉しいです」


「倉式君はちゃんとお礼が言えて素直ね。あたしも作り甲斐があるわ」

お礼を言うなんて、当たり前のことなのに…。


「飲み物、紅茶で良かったかしら? コーヒーと悩んだんだけど…」


「どっちも大丈夫ですよ」

細かいところまで気を遣ってくれるんだな…。


「そう? じゃあ、飽きないように交互にしましょうか」


「はい、お願いしますね」



 …おいしく朝食を完食した俺。とても満足だ。


「お口に合ったかしら? 倉式君」


「はい! ごちそうさまでした!」

恩返しとして、俺に出来ることは何でもやらないと。


「古賀さん。買い物はいつ頃行きますか?」

昨日約束したことだ。


「そうね~。あたしも出かける準備したいし、1時間後で良いかしら?」


「わかりました。俺も準備しときます」



 そして1時間後、朝食後に古賀さんから受け取った管理人室のカギで施錠する。

呼ばれる前に外で待ってたほうが良いよな。


…101号室の扉が開き、古賀さんが出てきた。


「ごめんね、待たせちゃった?」


「そんなことないですよ。今来たところです」


「完璧な受け答えね。倉式君、モテるでしょ?」

微笑む古賀さん。


「いえいえ。モテるどころか、女性と話す機会がほぼなくて…」


「そうなんだ。機会があれば、すぐモテると思うわよ~」


そんな事はないと思うが…、ここは素直に受け取ろう。


それから古賀さんに付いて行き、2度目の乗車を迎える。

乗る場所はあの時と変わらず助手席だ。



 「あたしが今日一番買いたいのは、キノコなのよ!」

車を発進後、信号で停車中に話す古賀さん。


「キノコ…ですか?」

キノコたっぷりの焼きそばを作ってもらったから、納得できる話だ。(11話参照)


「そう。キノコは家族全員好きだから、欠かせない存在なの」


「ほぼ…?」


「ええ。三女の千影ちかげは好まないのよ。不思議な話よね~」


「千春さんのことは前聴きましたが、千影さんのことは初めて聴きました」


「千影はあたしより3歳下で、すごく大人しい子よ。高校卒業後就職してからは、1回も会ってないけど」


「え? 1回もですか?」


「うん。母さんと言い争ってるのを、昔聴いたことがあるわ。あたし達家族と馬が合わないのかな~。残念だけど、仕方ないかもね」


千影さんに何か事情があるかもしれないが、首を突っ込むことじゃないな…。



 その後、車はスーパーの駐車場に到着する。


「おひとり様〇個限りは後。最初はキノコよ。これは絶対忘れちゃいけないの!」


「そ…そうですか」

彼女のキノコにかける思いは、俺の想像を超えているな…。


古賀さんは自身の言葉通り、スーパーに入ってすぐキノコを買い始める。

俺は初めて入るスーパーなので、はぐれないように古賀さんに付いて行く。


キノコの後に、個数限定商品を買い始めるのだった…。



 「買った食材を冷蔵庫に入れたいから、一旦家に帰りましょ」

車に戻ってから、エンジンをかけた古賀さんが言う。


「そうですね」

一旦…? 他に行きたいところがあるのかな?


「その後はどうする? 倉式君が行きたいところがあったら、連れて行くけど?」


「行きたいところですか…?」


「うん。今日は予定ないし、このまま出かけるのも良いじゃない? 夕食は真理ちゃんと麻美ちゃんの分も作らないといけないから、夜遅くは無理だけど…」


特に行きたいところはないけど、戻ってもやりたいことはない。

古賀さんと2人でのんびり出かけるのもアリだな。


花恋荘に戻る間に、行きたいところを決めておくか!

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