第11話 初の管理人としての仕事
花恋荘の管理人になると決めた俺は、朝自宅を出て管理人室に向かう。
着いたところ、古賀さんと金城さんが酒を飲んで愚痴っているシーンに遭遇。
主に金城さんに振り回されたが、2人は部屋に戻っていった。
俺は翻弄された疲れを取るために、昼寝をする…。
……何やら、香ばしい匂いがする。どういう事だ?
よくわからない状況に混乱しつつ、俺はゆっくり体を起こす。
時間は…、11時50分か。そろそろ昼だし、匂いも相まって腹が減ってきたぞ。
…? 古賀さんがキッチンに立って、何かを炒めている?
フライパンを動かす行動といえば、炒め物だよな。
「倉式君。ごめんね、起こしちゃった?」
俺のほうを観る古賀さんは、笑顔で訊いてくる。
さっきの眠そうな顔とは全然違う。彼女も昼寝したようだ。
「そんな事ないですよ。それより、どうしたんです?」
ここに来る用事はないはず…。
「お昼、何食べるか決めてた?」
「いえ、まったく…」
近場のコンビニで適当に済ませるつもりだったが…。
「そうなると思って“焼きそば”を作ってるだけど、食べる?」
「良いんですか…?」
古賀さんのお世話になり続けてるような…。
「もちろん♪」
「ありがとうございます。お言葉に甘えます」
この恩は、少しずつ返していこう。
俺は洗面台で顔を洗った後、ちゃぶ台前に座ってスタンバイする。
…古賀さんが俺と自身の分を持ってきた。
ずいぶんキノコ盛りだくさんの焼きそばだ。
おいしそうなのは間違いないが、かなり独特のような気がする。
古賀さん、キノコ好きなのかな…?
「あたし、キノコ系好きなのよ!」
俺がちゃぶ台に置かれた焼きそばを見つめたことで、彼女が答える。
「もしかして…、倉式君はキノコ系嫌い?」
テンションが下がっているのが伝わってくる…。
「そんな事ないですよ。ただ、こんなに食べることはないですね…」
“ちょっと”ではなく、メインの具材になっているからな。
「そうなんだ。うちではよく食べてたけど」
キノコ系が好きなのは、古賀家の人達全員のようだ。
2人で「いただきます」を言った後、早速食べてみる。
…うまいな。ソースの濃さが絶妙で、薄すぎず濃厚過ぎないので食べやすい。
「弁当の話は、昨日したじゃない?」
向かい合って座る古賀さんが言う。
「はい」
料理ができない俺にとって朗報だ。
「弁当はあたしがいない時だけにして、基本はここで一緒に食べる感じにしたいんだけど良い?」
「そこまで迷惑はかけられませんよ!」
弁当も合わせると、ほぼ毎食用意してもらうことになる。
「1人分も2人分もそんなに変わらないわよ。それに、昨日のすき焼きを倉式君はおいしそうに食べてくれたじゃない? だから作り甲斐があるの」
「ですが…」
いくらなんでも甘えすぎだろ。気軽にお願いして良いことじゃない。
「一緒にご飯を食べれば、話す時間ができるでしょ? あたし、もっと倉式君と話したいの。これは、あたしのためでもあるんだから!」
…古賀さんの決意は固そうだ。目がそう言ってる気がする。
「…わかりました、お願いします。その代わり、俺にできることは何でもやりますから!」
この程度で、恩返しできるとは思えないけど。
「そうね。その時になったら、遠慮なくお願いするわ」
昼食後…。食器洗いを古賀さんと一緒に行うことにした。彼女が求めなくても、積極的に手伝う方針にしよう。
「あたし、これからまた会ってくるわね」
マッチングした男性のことだろう。古賀さんは“婚活”してるからな。
「わかりました。頑張って下さい!」
言い終わってから思ったが、婚活に頑張れは正しい応援なのか…?
「ありがと」
古賀さんは笑顔で答えてくれたし、細かいことは良いか。
そして…、古賀さんがマッチングした男性に会うため車に乗り込む。
アパートの前に広いスペースがあるので、車はそこに停まっている。
この花恋荘は、人目に付きにくい場所にあるからな。
スペースに関することで、苦労することはなさそうだ。
「夕方には戻れると思うから、夕食も一緒に食べましょうね!」
俺と話すために、窓を少し開ける古賀さん。
「はい、ぜひ!」
彼女は返事を聴いた後、再び窓を閉めて車を発進させた。
…花恋荘の敷地内には、車がもう1台ある。この車は、金城さんのか藤原さんのどちらだろう? 車以前に、俺は免許を持っていないけど…。
この夏休み中に取得して良いかもしれないが、それは後で考えるか。さて、これからどうしよう?雑草抜きとか、ゴミ拾いでもしようかな。そう思った時…。
「シキ、今日はどうしたの…?」
後ろから声をかけられたので、慌てて振り向く。
「…藤原さんでしたか。びっくりさせないで下さい」
昨日同様、ダボダボTシャツを着ている。彼女の好みのようだ。
「? 普通に近付いて、声をかけたんだけど?」
藤原さんは首をかしげる。
俺が車に気を取られたせいかもしれないな…。
そういえば、藤原さんには管理人のことを言ってなかったな。今伝えよう。
「藤原さん。俺、正式に管理人になることにしました!」
「…そうなんだ。管理人って何をやるの?」
やっぱり、この人はクールだな。喜んでいるのかどうか…。
「『アパートの周りの清掃』・『宅配便とかの受け取り』・『住民のヘルプに応じた行動』の3点をやるように、美雪さんに言われてます」
「ふ~ん…」
話が終わってしまった。俺の言い方が悪い?
「…じゃあこれからは、シキにどんどん荷物を受け取ってもらおうかな。受け取るために起きてるの、ダルいし」
藤原さんは、就活していると言っていたな。婚活同様、疲れることが多いはずだ。
「俺にも出れないタイミングはあると思いますが、任せて下さい!」
「うん、頼んだ…」
「ねぇ、シキ。今暇?」
俺の都合を訊くということは…。
「アパート周りの雑草抜きとか、ゴミ拾いをするつもりですが…」
「そっか…。どうしようかな?」
返事を聴いた藤原さんは悩みだす。
「何か困りごとでしたら、そちらを優先しますよ!」
ゴミ拾いはともかく、雑草は1日程度じゃ大して変わらないからな。
「…ホント? それじゃ、カーテン変えるの手伝って」
「カーテンですか…?」
「うん。最初から付いてるのが気に入らなくて新しいのを買ったんだけど、付け外しが面倒だから放置してたの。だから…」
「そういう事ですか。喜んで手伝います!」
よく考えると、それって藤原さんの部屋の話だよな…?
「…俺、部屋に入って良いですか?」
歳の差があるとはいえ“男”だし…。
「…当たり前じゃん。そうでなかったら、頼まないよ」
うっかりではなく、ちゃんとわかってるなら良いや。
「これから藤原さんの部屋に行きますけど、良いですか?」
「…良いよ。キレイな部屋じゃないけどね」
「全然気にしませんよ。俺の部屋だって、キレイとは言い難いし…」
あの管理人室で古賀さんと食事する以上、散らかすのは厳禁にしないと。
こうして俺は、カーテンの付け外しを手伝うため、藤原さんの部屋に向かう。
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