第9話 気持ち良いから止められないの!

 古賀さんが俺を含む住民を部屋に入れないのは、見られたくない物があるからと言っていた。俺にもそういう物はあるので、共感できる。


そんな中、金城さんが“見られたくない物”の目星がついているようなので、古賀さんの許可を得た彼女は話し始める…。



 「千恵美さんが見せたくない物。それは…」

金城さんの発言に、俺と古賀さんは息を呑む。


でしょ!」


「おもちゃ…?」

どういう事だ? 意味が分からない。


古賀さんは…、ノーコメントだ。すぐに否定しないということは…。


「倉くんは男の子だから、使わないよね? 手でやるんだし」

そう言って、の動きをする金城さん。


「おもちゃって、そういう意味ですか?」

の可能性も考えたんだが…。


「それ以外に何があるの? 異性の倉くんはもちろん、同性のウチと麻美にも隠したいことって言えば、これぐらいしかないと思うよ」


他にもあると思うが、隠したい候補に挙がるのは間違いない。下ネタだしな。


「千恵美さん。そろそろ答えて欲しいな~」

彼女がそう言って黙ったままの古賀さんを観るので、俺も続く。


「あの…、やっぱり言いたくないなら言わなくて良いですよ。俺がいて話しづらいなら、席外しますから」


異性には、特に聴かれたくない話だと思うし。


「…そうじゃないの。1回で当てられてビックリしちゃっただけだから」


ということは、本当におもちゃが理由で部屋に入れたくないのか…。


「ウチだって〇ーターぐらい持ってるから、気にしなくて良いって」

すぐフォローする金城さんだが…。


「…それ以上もあるから」

ぼそっと言う古賀さん。


「それ以上って…。〇マとかディル〇もあったりする…?」

金城さんの問いに、彼女は黙って頷く。


この話…、本当に聴き続けて良いものか? 古賀さんの赤面顔を観続けると、罪悪感というか気まずさを感じてしまう。


「よく暴露してくれたね、千恵美さん」

確かにな。無理して言うことは無かったろうに。


「もちろん秘密にしたかったわよ。でも隠し続けるのも疲れるじゃない? だから全て告白して楽になりたい気持ちもあったの」


「そういう事でしたか…」

だからあえて、金城さんに目星を話す許可を与えたのか。


「これを話したんですもの。この話以上に恥ずかしいことはないから、何でもできそうだわ」


彼女なりに吹っ切れた感じだな。俺には真似できない行動だけど。



 「それにしても…、どうしてわかったんですか? 金城さん?」

いきなり“おもちゃ”に触れるには、根拠がいるはずだ。


「昨日、ウチと麻美がすき焼きの肉をめぐって口論したでしょ?」(6話参照)


「はい」


「その時、ウチが麻美に言った『むっつりスケベ』に千恵美さんが反応した気がしてさ。それと見せたくない物を結び付けたら、答えは出るって」


「あれは、他人事に聴こえなかったからね。図星をつかれたから。何とか顔に出さなかったと思うけど、真理ちゃんにはバレていたか…」


昨日は古賀さん達と会った初日だから、俺がそういう変化に気付くのは無理だな。

藤原さんはどうだったんだろう? あえてスルーしたのか、肉に夢中だったのか…。



 「ねぇ真理ちゃん。どうしたら性欲を抑えられるの? 教えて!」

古賀さんが金城さんに尋ねる。


「どしたの? 急に?」


「真理ちゃんと同じように〇ーターで満足できるようになれば、簡単に隠せるでしょ? あれは小さいし」


俺も男なのでそういうおもちゃの知識はあるが、〇マやディル〇は大きさもだが形が独特だ。隠しにくいのは間違いない。


「退去する時を考えて、今後それらを買う気はないのよ。荷物になるし」


荷物ならまだしも、何かの不運で業者に中を確認されるかもしれない。

そうなったら…、どう言い訳すれば良いんだろうな?


「なるほどね~。でも、どうしようもなくない? 人間の3大欲求の1つだよ? 簡単に我慢できたり満足できたら、苦労しないって」


「やっぱり無理だよね…」

落ち込む古賀さん。


「あたし、高校生あたりから性欲の強さを自覚してるのよ。おもちゃに手を出したのは大学生からだけど、指でるのは当たり前だったし…」


高校生あたり…。そのワード、さっき聴いたような…?


「ってことは、姪の千夏ちゃんもそうなるかもね」

金城さんがつぶやく。


…思い出した。古賀さんが胸の大きさで愚痴ってた時だ。

千夏さんは『高1』だと、古賀さんから聴いた。時期が一致してるな。


「あたしが特別強いか、“先祖返り”してるのを祈るしかないわね。千夏ちゃんは、Hに無縁な真面目な高校生になってほしいわ…」


果たして、古賀さんの願いは通じているのか。

こればっかりは、ってやつだな。



 「ねぇねぇ、倉くん。本物のおもちゃ観たことある?」

イタズラっぽく笑う金城さんが俺に訊く。


「いえ、ないです」

そんな機会ないぞ…。


「せっかくだし、千恵美さんのを見せてもらったら?」


「ちょっと真理ちゃん!? 何言ってるの?」

慌てる古賀さん。


「そう遠くない内に、倉くんが彼女に使うかもしれないじゃん? これも勉強のうちだよ。まぁ、無理強いはしないけどね」


「興味は…、あります」

できることなら実物を観てみたい。これは、おもちゃに限った話ではない。


「…わかったわよ。すぐ持ってくるから」

そう言って立ち上がった古賀さんは、管理人室を出て行った。


「文句1つ言わないなんて驚きだよ。ねぇ、倉くん?」


「はい。さっき言ったのは本当みたいですね」


『おもちゃの存在がバレたから、何でもできそう』と古賀さんは言ったのだ。

これが“有言実行”なんだろうな。俺も見習わないと。


そして、管理人室の扉が再び開く音がする。


「お待たせ」

…古賀さんの声だ。一体、どういうおもちゃを持ってきたんだろう?

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