第8話 あたしも、妹のように大きければ…
管理人室に入って早々、酒に酔った古賀さんの叫び声を聞く俺。
聞かれて恥ずかしがっていた彼女だったが、金城さんの助言により詳細を教えてくれることになった。どんな内容でも、ちゃんと聴かないとな!
「昨日倉式君を送ってから、あたしに会いたがってる男性から連絡が来たの」
「…え?」
まさかの異性関係…? 予想外で言葉が出ない。
「ウチと千恵美さんは『婚活』してるんだよ。だからそういう連絡は来るんだ」
金城さんが補足する。
「その連絡を受けて会いに行ったんだけど、顔を合わせてすぐ、相手の男性のテンションが明らかに下がったのよ。ひどくない?」
俺に同情を求める古賀さん。
「ひどい人ですね。原因は、何だったんですか…?」
「あたしの胸が小さいからよ。ジロジロ見られたから間違いないわ!」
冗談かと思ったが、古賀さんの顔は本気だ。
「よくある証明写真サイズだと、胸はほとんど映らないからね。実際に会わないと、サイズはわからないけどさ…」
付け加える金城さん。それにしたって納得できない話だ。
「男の人が、女の人の胸が好きなのはわかるわ。でも、好きでこの大きさになった訳じゃないんだから、多少は大目に見て欲しいのよね」
それがさっきの『あたしだってね…、好きでこうなったんじゃないんだから!!』に繋がるのか。理由を聴くと納得だ。
もちろん、金城さんがなだめる際に言った『そいつが最低なだけだから、気にし過ぎちゃダメだって』も同感だな。
「倉式君は、彼女とか結婚相手に“胸”を求める?」
古賀さんが質問したことで、金城さんと美雪叔母さんも俺を観る。
「まったく求めない、と言えば嘘になりますが、性格や相性以上に求めることはありませんね」
「へぇ。倉くん、ちゃんと答えてくれるんだ。ウチらのご機嫌を取るために、完全否定すると思ったよ」
金城さんのこの発言、茶化してるのか…?
「何をどれだけ求めるかは、人それぞれですから。俺なりに答えたつもりです」
「そっか…。倉式君は正直で偉いわね」
頭を撫でてくる古賀さん。
「子供扱いしないで下さい」
歳の差的に、子供扱いされても仕方ないけどさ…。
「倉式君の言うことを信じて、あたしの理想の人を探し続けることにするわ!」
古賀さんのテンションが上がっている。
「頑張って下さい!」
俺に出来るのは、“応援”しかないけどな…。
「とはいえ、簡単には見つからないけど…」
せっかく上がった古賀さんのテンションは、また下がるのだった。
「そうだよね~。ウチらの歳になると、求める男性が激減するから…」
ため息をつく金城さん。
「真理ちゃんは良いわよ。あたしより若くて、胸大きいんだから。程々に妥協すれば、すぐ見つかるって」
「その程々が難しいんだって…」
2人が大人の会話をしている。俺には付いていけない…。
「あたしも“千春”みたいに胸が大きければ、今以上に多くの男性とマッチングするかもしれないのに…」
独り言を漏らす古賀さん。俺の予想以上に、胸にコンプレックスがあるのか…。
「千春さんというのは…?」
気になるので訊いてみる。
「あたしの1歳下の妹。超大きいのよ」
超なのか…。気になるな。
「姪の千夏ちゃんも、千春みたいに大きくなるのかな~? もしそうなったら、伯母としての威厳が…」
「その千夏ちゃんは、今いくつなの?」
金城さんが尋ねる。
「高1よ。最近の子は成長が早いから、うかうかしてられないわね」
あくまで俺基準だが、古賀さんの胸って別に小さくないと思うんだが…。
妹の千春さんが大きいみたいなので、必要以上に比べてるのでは?
根拠はないが、千春さんの胸の大きさは“先祖返り”だと思っている。
そう考えないと、姉妹で明らかなサイズ差は生まれないだろ…。
「…話が脱線したけど、これで全部よ。ね? 大した話じゃなかったでしょ?」
古賀さんが俺に尋ねてくる。
「そんな事ないですよ。妹さんがいることがわかりましたし、意外な一面を知ることができました」
彼女が酒に酔ってなければ、知ることはなかっただろう。『酒=酔っ払い』の印象が強すぎて、良いイメージを持ってなかった。
酒とうまく付き合えば、話を膨らませるきっかけになるんだな…。
「倉式君の前ではちゃんとしようと思ったんだけど、たった1日しか持たなかったわね…。これからは素で過ごすわ」
苦笑いする古賀さん。
「そうして下さい。俺も着飾らない古賀さんと話したいですから」
これで、ようやくスタートラインに立った感じだな。
「あの~、はやちゃん。良いところ悪いんだけど…」
美雪叔母さんが、遠慮がちに声をかける。
「何ですか?」
「これ以上ここでのんびりできないから、姉さんに言われたことをすぐやりたいんだけど良いかな?」
連絡先の交換と、給料についての話だな。
「良いですよ。…忙しい中、すみません」
美雪叔母さんは勤務時間内だ。俺達3人とは事情が違う。
「いいのいいの。はやちゃんが、千恵美さんと真理さんとうまくやれそうなのがわかったから。頼んだ時は不安だったけど、何とかなりそうだね」
「はい! 何とか頑張ります!」
その後、携帯を出した俺は美雪叔母さんと連絡先の交換をする。
給料については、ちゃんと出るらしい。振込先口座を書く書類を渡されたので記入する。念のため、キャッシュカードの撮影もされた。
「次言わないといけないのは…、管理人業についてだね」
「具体的に…、何をやれば良いんですか?」
「そうだね…。『アパート周りの清掃・宅配便とかの受け取り・住民のヘルプに応じた行動』の3点かな。お金に関することは、私がやるから心配いらないよ」
「他はわかりましたが、“ヘルプに応じた行動”がよくわかりません…」
「例えば…、『電球を変える』とか『看病』とか『荷物持ち』あたりになるかも」
まるで便利屋だ…。俺に出来ることはたかが知れてるが、果たして役に立つのか…? 気になることは多いが、まずは行動するべきだよな。
「わかりました。できることから、少しずつやってみます!」
「そうしてみて。はやちゃんが慣れてきたら、他にもいろいろ任せたいと思うから。そうすれば、きっと給料は上がるよ」
美雪叔母さんは、俺のために業務内容を少なくしてくれたんだろう。
それは言い換えると“頼りない”と言っているのと同じだ。
時間はかかるかもしれないが、頼られる男になってみせる!
「…じゃあ、説明はここまでね。後はよろしく、はやちゃん」
「はい」
俺の返事を聴いてから、美雪叔母さんは管理人室を出る。
「倉式君、すごく言いにくいんだけど…」
「何ですか? 古賀さん?」
「あたしが仮に病気になっても、看病はしないで欲しいの。つまり、部屋に入ってきてほしくないんだ…」
知り合って間もないし、古賀さんの言いたいことはわかる。
しかし、面と向かって言われるとショックだな…。
「そんな悲しそうな顔しないで。“君が嫌い”って訳じゃなくて、見られたくない物が部屋にあるの。真理ちゃんと麻美ちゃんだって、入れたことないんだから」
俺より親交があって、同じ女性である2人すら入れたことがないのか。
それなら、嘘はついてないと思うが…。
「…ウチさ。千恵美さんが見られたくない物の目星がついてるんだけど、ここで話して良い?」
俺をチラ見してから言い出す金城さん。
「金城さん…。わかるんですか?」
「多分だけどね。倉くんだけならともかく、ウチと麻美にまで秘密にしたいことって、そう多くないと思うよ」
「…真理ちゃん、言ってみても良いわよ」
古賀さんが許可を出した。
果たして、彼女の見られたくない物って何なんだ…?
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