第4話 心を奪われた後に知る、衝撃の内容

 1Rほどの広さの管理人室に、俺・金城きんじょうさん・藤原さんが待機している。

後は、最年長で花恋荘かれんそうに1番長くいる古賀さんを残すだけだ。


そんな中、玄関先から知らない声が聞こえた。

金城さんの反応から、古賀さんであることが判明。


俺達がいる部屋に足音が近付いているし、やっと会えるな!



 ……古賀さんの姿を一目見た瞬間、俺の心は奪われた。

最年長ところか、最年少を思わせる若々しさをしているからだ。


髪や肌つやが、それを表している。母さんよりキレイだ…。


若々しいとはいえ、服装は派手ではない。落ち着いたトーンで統一しているな。

それでも地味な印象にならないのは、古賀さんが持つオーラのおかげか?


髪の長さは、藤原さんと同じぐらいのミディアムボブかな…?

しかし彼女は、低い位置でポニーテールを結っている。


古賀さんの魅力の虜になった俺。時間があれば、じっくり話したいもんだ。



 古賀さんは両手に持っているエコバッグを置いた後、俺の顔を観る。


倉式くらしき隼人はやと君だよね? あたしが古賀千恵美ちえみよ。よろしくね」

笑顔で自己紹介してくれた。良い人そうだ。


「こちらこそ、よろしくお願いします」

俺も笑顔で応じたつもりだが、どう見られただろうか…?


「千恵美さん。そのエコバッグ何?」

金城さんが、彼女が置いたエコバッグを指差す。


「真理ちゃんからの連絡を観た後、4人分の買い物をしたのよ。倉式君の歓迎会をやろうと思ってね」


「そんな…、申し訳ないです」

長続きするかわからないんだぞ。当然ベストを尽くすが…。


「気にしないで。あたし達が倉式君といられる時間は長くないんだから、出会いを大切にしたいの」


「“いられる時間が長くない”って、どういう事ですか?」

管理人の仕事って、期間限定なのか…?


「…え?」

俺以外の女性3人が声を上げ、俺を観る。


「倉式君…。美雪さんから聴いてないの?」


「時間とか期限のことは何も…」

みんなの反応を観るに、美雪叔母さんが伝え忘れてるな。


「みゆっさん。ちゃんと説明しないとダメじゃん…」

ため息をつく金城さん。


「…いい加減」

藤原さんがつぶやく。


「美雪さんも忙しいみたいだから、忘れちゃったのね。…良いわ、あたしが説明してあげる。その前に、食材を冷蔵庫に入れさせてね」


エコバッグに入っている食材を冷蔵庫にしまった後、ちゃぶ台前に座る古賀さん。

今まで俺の隣にいた金城さんも、空いたスペースに移動する。


ちゃぶ台には4本の脚があるが、全員が各脚と脚の間に座る形になった。



 「まず、この花恋荘がどういうアパートかはわかるかしら?」

古賀さんが俺を観る。


これはわかるぞ。美雪叔母さんから聴いたからな。


「元旦那の男性が原因で別れることになった女性が入るアパート…ですよね」


「その通り」


良かった。正解すると嬉しいものだ。


「だけど…、ここにいられるのはだけなの」


「そうなんですか?」


「ええ。ここにいる間、国から支援金が支給されるんだけど、そのお金で就活したり婚活したり休息して、退去した後の生活基盤を整えるの」


「このアパートに、そんな意味が…」

想定すらしてなかった…。


「もちろん、1年未満で退去しても良いわよ。ペースは人それぞれだから」


「なるほど…」

いつまでも支援金を支給できないから、1年限定なのか。


「あたしは残り7か月、真理ちゃんは9か月、麻美ちゃんは10か月後に退去することになるわ。それまでに、何とかしないといけないの」


「それは大変ですね…」

他にかける言葉が思い付かない。


「別にそーでもないって。お金に一切困らないからね~」

気楽そうに答える金城さん。


支援金って、そんなにもらえるの? 気になってきたんだが…


「ここに来る時の契約で、いつ退去しても支援金を返す必要がないんだよ。だからウチは、ギリギリまでいるつもり~」


「…私も」

ぼそっと言う藤原さん。


「2人とも。いつまでもだらけてると、あっという間に期限が来るわよ!」

金城さんと藤原さんの顔を観て注意する古賀さん。


すっかり、お母さんポジだな…。


「でも支援金が支給されるなら、もっと多くの人が花恋荘に来てもおかしくないのでは?」


いるのは、たったの3人だ。好条件の割に少ない気が…。


「支援を受けたくない人だっているし、守秘義務を負いたくない人もいるし、そっちも様々よ」


「他には…、“女しかいないのが嫌”とか『男を呼べない』というのもありそうだね」

古賀さんの答えに、金城さんが補足する。


何を許せて何を許せないかは、千差万別だな…。



 「みんなの事情を聴く前に買い物しちゃったんだけど、夕食の予定はある?」

古賀さんが俺達3人を観る。


「俺はありませんよ」

一応、母さんに連絡は入れるけど。


「ウチもないね」


「…同じく」


「倉式君の歓迎会で『すき焼き』をやろうと思うんだけど、良いかしら?」


「すき焼き!? 良いね~!」

テンションを上げる金城さん。


「…久しぶりの肉」

藤原さんが少し微笑む。


「俺も好きです!」

兄貴が家を出る前は、家族4人でたまにやったな…。


「良かった。それじゃ5時(17時)に食べるようにしましょうか。良い?」


「5時? 千恵美さん、早いね…」

金城さんは、驚きをあらわにする。


「そう? あたし早寝早起きしてるから、夕食も早くなるのよ」


俺の家は、6時~6時30分の間だな。いつもより早いが、許容範囲内だ。


「…今日のすき焼きって、千恵美さんのおごり?」

真面目トーンで質問する金城さん。


「そうだけど…?」


「だったら、5時でも食べる!」

時間に不満を抱いた彼女だったが、“おごり”と聴いて態度を変えた。


わかりやすい人だ…。まぁ、気持ちはわからなくもないけど。


「ここで作るから、真理ちゃんと麻美ちゃんは部屋に戻って良いわよ」


「…そうする」

藤原さんは立ち上がり、玄関のほうに向かって行く。


「ウチもそうするわ。…千恵美さん、後は任せた!」

金城さんも彼女に続く。


「倉式君はどうする? テレビやパソコンで時間を潰す?」


そうしても良いけど、せっかく千恵美さんと2人きりになるんだ。

いろいろ話すには、どうすれば…?


「…古賀さんが良ければですが、俺にできる範囲で手伝わせてください」

手伝いしながら雑談しよう。


「良いわよ。倉式君には、切るのを任せようかしら」


こうして俺と古賀さんは、並んでキッチンに立つことになる…。

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