第3話 住民全員集結!

 管理人室で、住民の1人である金城きんじょう真理まりさんに会う。彼女の“若い男”を求める勢いに圧倒されたな…。


その後、金城さんが俺のことを、同じアパートの住民である古賀千恵美こがちえみさんと藤原麻美ふじわらあさみさんに携帯で伝えた。


2人も俺の存在が気になるらしく、外出先から早めに帰ってくるようだ。

全員に会えるのは嬉しいが、緊張感が激増するな…。



 現在、管理人室にいるのは俺と金城さんだけだ。しかも隣同士で座っている。

…こういう時、どういう話題を振れば良いのかサッパリわからない。


「そうだ、くらくん。ウチと連絡先交換してよ」

そう言って、携帯を見せてくる金城さん。


「どうしてですか…?」

必要性を感じないんだけど。


「住民のために頑張るのが管理人でしょ。ウチのヘルプを知らせるためだよ」


そう言われると、断りづらいな…。


「わかりました。ただ、俺は未熟なので大して役に立てないと思いますが…」

俺と金城さんは、歳がほぼ倍離れている。力になれるとは思えない。


「何言ってるの? “力仕事”とかは、倉くんが適任だから役に立つよ」


体育は得意じゃなかったし、筋力も平均以下だと思うけど…。

とはいえ、了承したんだから交換しないとな。


金城さんと連絡先を交換して間もなく、管理人室の扉が開く音がした。



 「見慣れない靴がある」

管理人室の玄関で、独り言が聞こえた。


「今の声は…、麻美か」

金城さんがつぶやく。


103号室に住んでいる、藤原麻美さんが来たようだ。どういう人なんだろう…?

足音が、俺と金城さんがいる部屋に近付いてくる。


そして…、俺は藤原さんと初めて顔を合わす。


黒髪のミディアムボブってところか。コンビニの袋を持っているとなると、コンビニ帰りだな。


…さっきから気になるのは、やけに大きい黒Tシャツを着ていることだ。ダボっとした感じが好みなのは良いが、下に何も穿いてないのか…?


「…ちゃんと穿いてるから」

藤原さんは気だるそうに言って、黒Tシャツのすそをつかんで上げる。


…紺色のショートパンツが見える。心配し過ぎたようだ。


「すみません。俺がジロジロ見ちゃったせいで…」

第一印象は最悪だろうな。


「…別に良い。男の子なら当然のこと」

藤原さんに何とか許してもらったが…。


彼女、無表情というか感情の動きが読みにくい。

それに加え、声の抑揚もあまりないなぁ。金城さんとは大違いだ。


「麻美はこういうタイプだから、気にしなくて良いからね。倉くん」

隣にいる金城さんが補足してくれた。


「そうですか…」

俺が嫌いだから、そうしているかと思ったぞ。


「…君のことは、真理から聴いてる。藤原麻美ふじわらあさみ…。よろしく」


「はい…。こちらこそ…」

藤原さんと2人きりになったら、気まずくなること間違いないなしだな。


藤原さんは、ちゃぶ台に座っている俺に対し向かい合うように腰かける。

よりによって、そこか…。


「…君、歳いくつ?」

俺の顔を少し見つめた後、藤原さんが訊いてくる。


「18です。大学一年になります」


「…ふ~ん」

それだけ? 無関心に見える顔は仕方なくても、答え方は他にもあると思うが…。


この人は金城さんと違い、俺を歓迎してるようには見えない。

美雪叔母さんが適当にでっちあげたとか…?


「…私は、男の子を眺めるのが好きなの。だから、話し相手は期待しないで」


彼女が俺の真正面に座ったのは、そういう理由か…。

今までの会話から察するに、“無口”でもあるようだ。



 「後は、千恵美さんだけか~。遅いな~」

事務室の壁時計を観ながら、金城さんが言う。


「確か…、古賀さんのことですよね。どういう人なんですか?」

他人の意見を鵜呑みにできないが、参考にはなるだろう。


「ウチら3人の中で最年長だよ。しかも一番長くいるから、頼りになるんだ~」


金城さんが35歳らしいので、古賀さんは36歳以上になるのか…。

となると、藤原さんは何歳なんだ?


「麻美。倉くんが歳を訊きたそうな顔してるよ」

茶化すように話す金城さん。


「いえ…、そんなつもりは…」

気になるのは事実だが、訊くのはためらうぞ…。


「…君の歳を訊いておきながら、私は答えてなかったね。…26」


一応答えてくれたか。相変わらず、表情の変化が乏しいけど。


「答えていただき、ありがとうございます」

藤原さんに向かって、軽く頭を下げる。


「…これぐらい何ともない」



 ……そして会話は途切れ、管理人室に静寂が訪れる。

金城さんは気さくな人だから、何とかなりそうだ。


失礼かもしれないが、彼女の普段の話し方が歳の差を意識させにくいからかも。


しかし、藤原さんは困るな。会話のキャッチボールを続ける意思がまったく感じられない。必要最低限しか話さない感じだ。


このままでいいかもしれないが、せっかく管理人になったんだ。

誰が相手でも、ある程度の会話ができるようにならないと。


良い人間関係を築くのに近道はないし、地道に頑張ろう。


そう、心の中で決意表明した時…。


「ごめん、遅くなっちゃった~」

事務室の扉が開き、慌ただしい声が聞こえる。


この声は、美雪叔母さんじゃない。ということは…。


「千恵美さん、やっと来たか~」

安堵する金城さん。


これでいよいよ、花恋荘かれんそうの住民全員と顔を合わせることになる。

最後ぐらい、ビシッと決めておきたいな!

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