第2話 最初の住民との出会い

 叔母の美雪さんに誘われ、『花恋荘かれんそう』というアパートの管理人をすることになった俺。そのアパートは人目に付きにくく、隠れ家に見える。


美雪叔母さんが言うには『旦那さんが原因で離婚することになった女性限定のアパートで、その女性を元旦那から守るため』にあるらしい。


本来なら、男の俺が女性だけのアパートの管理人になるのはおかしなことだ。


しかし、現在住んでいる女性3人が“若い男”を望んだらしく、その条件に俺はクリアしているので、美雪叔母さんは声をかけたらしい。


未熟な俺が成長するには、経験を積むのが第一。美雪叔母さんもサポートしてくれるみたいなので、管理人を受けることにしたのだ。



 管理人室にて、美雪叔母さんとの話が一段落した時…。


「みゆっさん。若い男はいつ来るの~?」

入り口の扉の開く音が聞こえ、女性の声が響く。


「この声は…、真理さんだわ」

美雪叔母さんがつぶやく。


「真理さん?」


金城真理きんじょうまりさん。『102号室』に住んでる人よ」


…早くも、住民3人の内の1人に会えるのか。緊張してくるな。


が開いてるなら、みゆっさんいるんだよね~?」

ここというのは、管理人室のことだろう。


「はいはい、今行きま~す!」

大きい声を出した美雪叔母さんは、出入り口のほうに向かう。


俺は…、このまま待機するのがベストだな。どうせ顔を合わせるんだし。



 美雪叔母さんが出入り口に向かってすぐ、2つの異なる足音が近付いてくる。

そして…、俺はついに金城さんと顔を合わせる。


歳はいくつぐらいなんだろう…? 雰囲気的に、30代だろうか。ロングの金髪が印象的だ。名前通り、『金』が彼女の象徴みたいだ。


「本当に若い男がいる…。君、名前は!?」

俺の顔を観てすぐ、金城さんは座っている俺の隣に来た。


倉式隼人くらしきはやとです…」

予想外の食い付きに戸惑う。女性と話した経験は皆無なんだぞ。


「くらしきはやと…。『くらっしー』で良い?」

いきなりあだ名で呼ぶのかよ!?


「それはちょっと…」

あの梨のご当地キャラを彷彿とさせる。


「そっか…。じゃあ『くらくん』ならどう?」


「それなら…、まぁ…」

くらっしーに比べたら、ほとんどのあだ名がマシになるな。


「ウチは金城真理。35歳。倉くんって、何歳なの?」

自分から歳を言うとは…。女性にしては珍しい。


「18です。大学1年になります」


「18!? どおりで若い訳だわ~」


その後、突然金城さんに手を握られた。どういうつもりだ…?


「若い男に触れて、気力というかエネルギーをもらわないと…」


「真理さん。度が過ぎると、セクハラになりますよ。気を付けて下さい」

そばにいる美雪叔母さんが警告する。


「そんなの、わかってるよ~。手を握るぐらい良いじゃん。ねぇ? 倉くん?」


「…そうですね。手ぐらいなら」


「さっきから気になってるけど、倉くん固いよ~。もっとリラックスしないと」

なるべく気を付けてるつもりだが、表情に出ていたか。


「…すみません。女性と話すのに慣れてなくて」


「そんな状態で、よくここに来てくれたね。なのかな?」


「…おっしゃる通りです。なるべく多くの経験を積みたくて」

緊張せずに、金城さんと話せるようになりたいもんだ。


「その向上心、良いね~。若い子は、こうでなくっちゃ!」

嬉しそうに答えるな。向上心と若いって、関係あるのか…?


「真理さん。はやちゃんは、正式に“管理人”になってくれることになったの。なるべく私がサポートするつもりだけど、真理さんも彼を気にかけてあげて下さい」


「わかってるよ。若い男には優しくするからさ」

今の俺は、その言葉を信じる他ない。



 「みゆっさん。千恵美と麻美の2人に、倉くんのこと話したの?」

おそらく、会っていない住民2人のことだな。


「話してないわ。いつ言おうか悩んでるけど」


「今からウチが2人に連絡して、予定訊いとくわ~」

そう言って、携帯を操作する金城さん。


「美雪さん。千恵美さんと麻美さんというのは…?」

2人の情報が知りたいので、美雪叔母さんに確認する。


古賀千恵美こがちえみさんと藤原麻美ふじわらあさみさんのことよ。千恵美さんは『101号室』、麻美さんは『103号室』に住んでるの」


これで、住民3人のフルネームと住んでる場所が判明したな。


「あれ? 全員1階に住んでるんですか?」

“10~号室”となれば、そう思うのが当然だ。


「そうよ。2階は、1階が埋まってから入ることになってるの。今の状態でこれから新たな人が入ってくれば、その人から2階を使うことになるわね」


1階は4室あるが、その内の1室がこの管理人室だ。残りの3部屋は、古賀さん・金城さん・藤原さんが使っているので、おかしい点はない。



 「倉くんが気になるから、千恵美と麻美も早めに帰ってくるってさ」

2人から連絡が来たのか、金城さんが俺と美雪さんに教える。


「良かったわね、はやちゃん。早めに3人と顔合わせできて」


「ええ…」

それだけ、緊張が増すんだがな。


「はやちゃん。私は別件があるんだけど、離れて大丈夫かな…?」

心配そうな顔をする美雪叔母さん。


「大丈夫だと思いますよ」

今優先すべきなのは、3人を知ることだろう。話はそれからだ。


「はやちゃんの顔を観て、安心したわ。…それじゃあね」

そう言って、美雪叔母さんは出入口に向かう。


「ここに5人は狭いから、みゆっさんが帰ってちょうど良いかも」

独り言を言う金城さん。


確かにその通りだな。広さ的に、1Rぐらいだし…。4人も相当厳しいと思うがな。



 美雪叔母さんが帰ったことで、俺は金城さんと2人きりだ。

そしてもうすぐ、古賀さんと藤原さんがここに来ることになっている。


緊張は続くが、何とか頑張っていこう! 俺ならできると信じて。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る