夏終わりの一幕間

白熱! 勇者と獅子のカラオケバトル!

 都内某所。某会社の経営するカラオケボックスにて、俺は熱烈に喉を震わせていた。


『92点! 最早プロ級だね!』

「よっしゃ最高得点! とりま調整はこれで十分だべ!」


 個室の画面に映る点数とコメントに満足しながら、ストローでメロンソーダをちゅーちゅー啜る。

 ぱっと見遊ぶ相手のいない学生が一人寂しくカラオケに来てストレス発散している図だが、別にやることほっぽり出して遊びに来ているわけではない。

 というのも今日は調整、というか試運転に来たのだ。お盆の一騒動で得た新固有、あいつが俺に置いていった趣味全開の置き土産を。


 ちなみになんでカラオケなのかと言われれば、別にそこまでの理由はなかったりする。

 ストレス発散と一人で快適に過ごせる場所。後はこの固有で生まれた可能性のためのお歌の練習などなど……あれ、意外と理由あったりするな。


「きひひっ、きーっひっひっひ! これなら充分いけるねぇ! 後は映りを勉強すれば、がっぽり的な儲けだって夢じゃねえって寸法よ……」


 二時間での仕上がりにほくそ笑みながら、時間が来てしまったので帰りの支度を熟していく。

 ぱっぱらぱっぱと出していた物共を鞄へ放り込みー、ぴっぴろぴーで冷房を消してー、ぽっぽろぽーとデンモクくんを元の場所へぶっさしてー。

 ……うん、おっけいかな? これは立つ鳥跡を濁さず的な完璧さ。ま、コップはそのままだからパーフェクチとまではいかないんだけどね!


「さあて帰ろー。蛙が帰れば腹が空くー……っておっ?」

「あら?」

「……っ」


 帰りになけなしのお金でファミレスでも寄っていこうかなー、と思って部屋を出てみれば。

 そこで目が合ったのは二人の見知った顔。こんな俗世塗れな場所などあまり似合わない獅子原奏しょうがくせい高嶺アリスこうこうせいが、それぞれ両手にコップを持ちながら並んでいた。


高嶺たかねさんにかなでちゃんじゃーん。え、何々? 二人とも俺の前では犬猿感出しておいて、裏では個室でいちゃいちゃする様な仲良しだったのー?」


 端から見れば少々事情がありの姉妹喧嘩。そんな風に見えなくもな……やっぱ見えないかなって場面に、百合に割り込むチャラ男の如き気安さで声を掛けてみる。

 

「あら、あらあらすすむさん♡ こんなところでお会いになれるとは幸運ですわ♡ この方さえいなければ」

「……奇遇ですね上野うえのくん。会えて嬉しいです。こいつさえいなければ」


 こちらへ返される久しぶりのハニーボイスと、この前聞いた品のある水晶声。

 互いに被さるも異なる反応。けれどすぐバチバチと火花を散らし、仲良し感皆無で睨み合ってしまう。

 ……どうやらビジネス不仲じゃないっぽいね。でもそれなら、なんで休日にまで二人でいるん?


「どうやら仲は相変わらずだね。込み入った事情がありそうだし、俺は退散するよ。んじゃ」

「あ、待って!」

「待ってください」


 女の争いにわざわざ身を投げる気はないと、この場を出来る男風に立ち去ろうとしたのだが。

 残念ながら思惑通りにはいかず、二人の美少女に呼び止められてしまう。……やれやれ、モテる男ってのは辛いもんだねぇ。


「どうせならこの人に審査してもらいましょう。機械と貴女のお付きでは公平性に欠けるので」

「心配ご無用。生憎うちの達は正直ですの。あら? それとも自信がなくて?」

「ええ。この後負け犬になる小娘をあやす彼らに申し訳なさを抱く程度には」

 

 大人げない高校生と、それにまったく引けを取らずに眼つけ合う二人の美少女。

 ひえっ……。何この人達、道のど真ん中なのにめっちゃ怖いんだけど……。帰って良い……?


「で、なにするの? こんなところにいるんだからカラオケ大会? なんでそんなことになったの?」

「ええ。街中でばったり鉢合わせたのですが、口論になり勝負することになりました。おこちゃまに付き合うのは大変ですよ」


 とりま自室の清算をフロントで済ませ、新たにドリンクを補充した俺は彼女らに追いつき、部屋までの道のりを歩きながら事情を聞いてみる。

 理由は分かったけど、出会ったからといって何で口論になっちまうんだろうね。互いにスルーすれば広い街中で居合わせせずに一日が終わるのにさ。


「この方がしつこかったのですわ。ストーキングしているかのように二度も三度も出くわして、あげくこの様に責任を押しつけてくる。この幼気な小学生に対して大人げないと思いませんか?」

「あーどうだろうなー。現場を知らないから何も言えないなー。俺馬鹿だから分かんないなー」


 可愛らしく同意を求めてこないの。そんなキュートな媚び顔でも頷いてあげません。

 女同士の争いで片方に寄ったら酷い目見るってのは、昔起きた由奈姉ゆなねえと母さんの和菓子争いで経験済みなのよ。ゴーイングマイウェイで同じみなこの俺も、あの悲劇の二の舞になるのだけは真っ平御免なんだよね。


「ま、事情は把握したよ。それで歌勝負ってわけね。点数で競うの?」

「ええ。それと私の部下三人、それと臨時ゲストのすすむさんに判別してもらいますの。ちなみに負けたらこの場の会計を全額負担ですわ。もっと重いものを賭けたかったのですが、香雲かくもが全力で止めてくるのでこの程度になりましたが」


 残念ですがと、本当に心の底から惜しそうに呟いてしまうかなでちゃん。

 ナイスよ香雲かくもさん。多分二人とも懐に余裕はあるんだろうけど、それでもカラオケ代より重たい支払いなんてのは学生には酷ってもんだからね。


 そんなこんなで二人の合間で居心地の悪さを感じながらも、俺達は無事に部屋に到着する。

 俺がいた個室とは違い、団体さんが暴れ……楽しめる大きな部屋。その中で香雲かくもさんとなぎくんが盛り上げ用の楽器を持ち、つくちゃんが無表情ながらノリノリで流行りの曲を歌っていた。


「あ、お帰りなさいっす……って、上野くんじゃないっすか~! お久っすね~!」

「う、上野進うえのすすむ……!? 何故貴様がここにいる……!?」


 俺を見て手を振ってくる香雲かくもさんと、顔を赤くして驚くつくちゃん。

 お返しにとにっこり笑顔でこっちからも手を振りながら、とりあえず同性であるなぎくんの隣にでも座ろうとするが、何故かかなでちゃんに空白の席へと誘導されてしまう。


「お隣ですわね♡」

「そ、そうだね」

「……失礼。まだ空いていますね」


 見せびらかすように腕を抱き寄せてくるかなでちゃん。それに対抗してか、すすりともう一方へほとんど隙間なしの距離で座ってくる高嶺たかねさん。

 ……どうしよう。男子高校生の浪漫であるはずの両手に花だっていうのに、これっぽちも楽しくも嬉しくも思えない。それどころか胃が締め付けてくるみたいにきりきりしまくって、汲み直したメロンソーダちゃんも喉を通ってくれないほど危機感あるんだけど……!!


「ひゅーひゅー! 憎いっすね色男~!」

「あははっ、羨ましいですね」

「不埒な。どうせ鼻を伸ばすならせめてお嬢さまだけにしろ駄目男がぁ……!!」


 助けを求めるように視線を送ってみるも、頼みの綱の返答は三者三様。何て他人事なのだと苦言の一つも呈してしまいそうな反応をされてしまう。

 まあわかってましたよ。貴方たちそういう人でしたもんね。けれどつくさんや、君は何か根本から反応がズレてないかい……?


「で、音量だのその辺の調整は終わったんすけど、どっちから始めるんすか~?」

「……では」

「ええ。いきますわよ」


 何一つ説明なんてなかったのに、まるで互いに意思疎通したみたいに立ち上がる二人。

 睨み合う二人。テレビ以外の音を失ったこの場にあるのは、唾を飲んでしまうほどの緊張のみ。

 ……まさかとは思うけど、戦闘おっぱじめたりしないよね? このビルごと街吹っ飛ばしたりしないよね? ね?



「じゃーんけーん、ぽんっ!!」



 ちょっとびびった俺の目の前で勢いよく振るわれたのは、拳を握った二本の手。

 最初の一手を皮切り、掛け声通りに連続して素早く手を切り替えていく二人。……ただのじゃんけんじゃねえか。一応は一安心だけど、律儀にびびってた俺が馬鹿みたいじゃないか。


「ぐっ、負けた……!」

「おーほっほっほっ!! 勝ちましたわー! このわたくしが、わ・た・く・し・が!」


 これ以上の反応は馬鹿らしいのでぼけーっと見守っていると、かなでちゃんが拳を上に掲げて高らかに勝ち誇き、高嶺たかねさんは大げさに膝を突いてしまう。

 あー終わった? これでも俺、もう二時間遊んだ後だから若者のテンションについていけないんよ。早くしてくれない?


「見ましたかすすむさん? わたくしの勇姿見てましたか?」

「あーうん。見てた見てた。チョキで勝ったね凄いねー」

「……勝ち手はグーですわ。まったくもうっ!」


 かなでちゃんはハムスターみたいに頬を膨らませながら、責めるように軽く脇腹を小突いてくる。

 あら可愛い。まるでどこぞのお嬢さまみたい……あっ、歴としたスーパーお嬢さまか。


「ふふっ、所詮小娘ですね。この程度ではしゃぐとは……とんだお子ちゃまですよ」

「その結果一つ如きで跪いた負け犬がよくもまあ。……まあ、確かに勝負はこれからが本番。これから負かす相手に戦う前から勝ちを誇っては大人げないですものね」


 ふてぶてしく再起した高嶺たかねさんに、これ以上ない見下ろし方で煽りを入れるかなでちゃん。

 息もつかせぬ売り言葉に買い言葉の連続。どっちもいちいち煽らなきゃ気が済まないのかな……?


「……ねえつくちゃーん。この二人、なんでこんなに仲悪いの……?」

「二割はお前だ唐変木。だがまあ、結局は致命的に根本が合わないというだけだから気にするな」

「お黙りつく。余計なことは言わないでいいですわ」


 かなでちゃんの叱咤を受け、つくちゃんが借りてきた猫のように黙りこくってしまう。

 どんまいつくちゃん。どっちかと言えば、猫っぽくファイトしてるのはあっちなのにね。

 

「ごほん、それではご静聴くださいまし。貴方に捧ぐ、わたくしの歌声をっ!」


 両手でマイクを握り、自信満々にこちらへウィンクしてくるかなでちゃん。

 流れてくる曲はちょっと前に流行った、深夜を駆けるカップルのやつ。とっても小学生が歌うべきではない、ちょっぴり刺激的な表現の詰まった歌だ。

 けれどもかなでちゃんは、優雅に自分の手足のように歌いこなす。自身の強みである幼さと愛らしさを生かしながらも、深く理解したような抑揚と表現を含ませて奏でていく。

 その様はまさに天使の響き。歌う彼女の背に白い羽でも幻視しそうなほど、一致と矛盾の両立を体現した、子供ながらに大人を孕んだ魔性の誘いだった。


「……ふうっ。まっ、こんなものですわね。如何でした?」

「お、おう。大変お上手でした……?」

「ふふっ。当然ですわ。わたくし、この歌が焦がれるほど好きですもの」


 向い側で賞賛を送りまくっているお三方は置いておいて、どや顔で胸を張ってくるかなでちゃんを褒める。

 

『96点! まさに天使だね!』


 すっご。レベルたっか。俺の今日の最高得点が阿呆らしくなってくるんだが?

 

「どうです? 歌う前に負けを認めてもよろしくてよ? 今頭を垂れればわたくしがここの御代も支払ってあげますわよ?」

「……結構です。確かに中々でしたが、その澄ました顔を一瞬で歪めてあげますよ」


 剣みたいにマイクを向けてから、高嶺たかねさんは自分のターンだと立ち上がる。

 セレクトされたのは結構前に流行った会いたさのあまりに悶えるやつ。失恋後に振り切れず、未練がましく好きだよって口ずさんじゃう切なさの籠もった歌だ。

 そんな大人な歌を、まるで実際に経験したみたいなJK女子高生には到底出せぬ深みうぇおお持たせつつ、綺麗な声で言葉を歌へと変えていく。

 それはまるで、深い水底みなそこで悲しく唄う人魚のよう。高嶺たかねさんの歌が上手いのは中学の時に聞いたことがあったのが、これほどまで人の心を握りしめてくるものだとは思わなかった。


『96点! あなたの歌は世界を取れる!』

「……ふう。歌うのは久しぶりでしたが、まあ上出来でしょう」


 同得点を叩きだし、満足気に腰を下ろした高嶺たかねさん。

 かなでちゃんのときとは打って変わって、歌い終わった後に訪れたのは静寂。ただし下手故に起きた沈黙ではなく、批評も言えないくらい黙らされた形の無言だと一目で分かる様だ。


「ふ、ふん……。や、やるではありませんか。ま、まあ? こんな程度じゃまだまだ──」

「あ、私高嶺たかね様派っすね~。お嬢さまには悪いっすけど~」


 それでも部下三人の意見を獲得し、見事勝利を収めるかと思っていたところに垂らされた劇薬。

 丸く収める気はないのですか、香雲かくもさんや。見てみい? 隣のつくちゃんすっごい顔だし、なぎくんはものすごい苦笑いよ?


「……二対二ですか。となれば後は上野うえのくん、貴方次第というわけですね」

「そうですわね。これを機に決めてもらいましょう。他ならぬすすむさんに、わたくし達の優劣とやらを」


 ずいずいと、獲物を見つけた肉食獣のようにこちらへ迫ってくる二人。

 逃げようにも挟まれているのでどうにもならず。そもそもこの二人が本気で追いかけてくるのなら、そらどんなに頑張っても逃げ切れるわけがないわな。

 しかしこれ、本気に選ばなきゃいけない感じぃ? どっちも上手かったで終わらせちゃいけない感じぃ? カラオケくんが同点にしてくれたんだからもうそれでいいじゃんかよぉ。


「さあ上野うえのくん」

「さあすすむさん」


「どっちです?」

「どっちですの?」


 重なる声。右を見ても左を見ても逃げ道はなし。つまり平和に終わる答えは何処にもなく。

 唾を飲んでから、負けを認めて大人しく答えようとして──唐突に脳が覚醒する。

 そうだ。これならいける。これならこの場を勝負なんて張り詰めた緊張感から解放することが出来る。正直まだお披露目したくなかったが、俺の安寧を守るならこれしかない──!



変身メタモルフォーゼッ!!」



 ばっと二人を振り払うように立ち上がり、素早く曲を入れてからマイクを手に取って叫ぶ。

 全身を包む光。繭の中で成長する蛹のように、俺の体は別の形へ作り替えられていく。

 これこそ俺のとっておき。姫宮雫ひめみやしずくが置いていった、お小遣いと承認欲求を満たすための便利能力。


 その名は変身メタモルフォーゼ迷宮ダンジョンにおける親友の趣味趣向の再演。

 つまりはTSF女体化というわけである。あの俺だけが良さを分かっている系の巨乳美少女になる権利を、俺は獲得してしまったというわけなのだ!


「へい皆ー! 第三勢力が満を持しての登場だぜー! この僕が頂きに登っちゃうよー!」


 羽化するかのように光から飛び出し、くるくるとマイクを回して観客達へコールしてみる。

 うん、唖然としているね。高嶺たかねさんでさえ驚きで口を開いちゃってるし、掴みは上々って感じだね。

 

 とりまこの場の空気を変えられたことに安堵しながら、くるくるとマイクを回してから歌い始める。

 選曲したのは去年爆売れした映画の主題歌。新世代があーだこーだって感じの曲だ。


「~~~~」


 気分はファンに応える劇中のトップアイドル。テンションはライブのクライマックス。

 音は外さず殺さずに。気ままに自由に、何者の阻めぬ天衣無縫の歌姫を身に宿して熱唱する。


 今日発見したのだが、どうやら俺は男の時より女の時のようが歌ったりするのが上手いらしい。

 理由は知らない。けれどキーとか音域の違いとか、そういう些細な次元の話じゃないのは何となく分かっている。

 ……ま、多分だけどメンタルの問題だろう。普通の男が普通に歌うより、声も容姿も普通以上の女の子になって歌う方が断然楽しいからね。仕方ないね。


「ふー終わったー! お疲れー! どうだったー?」


 鬱憤を晴らすように全力で歌い切り、すっきり爽やかな気分で周囲の感想を求めてみる。

 いやー上手いって言われたらまいっちゃうなー。めちゃんこすことか言われたら媚び系配信者として業界へ突撃待ったなしだなー。……ちらっ?


「なんというか、普通ですね。私は好きですよ」

「普通にお上手ですわよ♡ そして女の子になれるのですね、びっくりですわ♡」

「楽しそうで良いね。僕は評価したいな」

「ちょっとあざとすぎるっすね~。五十点!」

「……これが、この可愛さで中身が上野うえのだとっ?」


 五者異なる反応。待ち望んでいた賞賛は一つもなく、お付き三人衆については歌の感想すらなし。

 うーんやっぱりぃ? 気分は盛り上がるけど、技術はちょっと増す程度なのよねぇ。とほほぉ。


『89点。まあ普通に上手だね!』


 採点機能も辛辣だぁ。時に普通という言葉は最も傷つく言葉になるのをご存じないのかね?


「ちっくしょー! こうなりゃやけだー! 夜八時までフルタイムだからなー! そこの飼い犬三人組トリオも歌えよなー!」


 やけくそ混じりになぎくんへマイクを向ければ、仕方がないと苦笑いしながら受け取ってくれる。

 ほら歌え歌えー! 勝負なんて面倒事はエンジョイ勢の雑な乱高下で吹き飛ばされちまえば良いんだー!


「お待たせしましたー。当店自慢のハニートーストですー」

「あ、お姉さーん? 皆がいじめてくるー! だからビール一丁ー!」

「未成年にはお出し出来ませーん。失礼しまーす」


 大人の余裕で俺の愚痴を流しながら、さっとハニトーを置いて帰る店員さん。

 ひえーこの場の誰よりもクールなおっとなー。……ちなみにこれ頼んだの、反応的に香雲かくもさんとつくちゃんだなぁ?


「……で、結局どっちが良かったのですか?」

「そうですわすすむさん。はっきりさせないのはめっ、ですわよ?」


 場の空気も弛緩し、届けられたおやつを皆で囲んで解決だと思った瞬間に蒸し返される問い。

 酷いや高嶺たかねさん。これじゃあ新ネタ出してそこそこな歌を披露しただけの間抜けじゃないか。何のための苦労だったと思ってるんだよ。


「……あっ、ちょっとお花摘み行ってくる! 変身メタモルフォーゼッ!」


 再度男に戻りながら影へと潜り、扉に貼り付けた影を経由して外に脱出に成功する。

 

「ふうっ。まったく、挟まれるってのも考えものだぜ」


 廊下から一際騒がしい部屋の扉を眺めながら、ついやれやれと首を横に振ってしまう。

 わざとか無意識か、どっちにしろ高嶺たかねさんには困ったものだよ。

 だってかなでちゃんには悪いけど、俺の贔屓は君なんだからさ。よっぽどの差がない限り、どっちに軍配が上がるかなんて分かりきったことだってのにね。


「次の誤魔化し方考えたいし、さっさとトイレ行ってこよーっと。……あっ、男だったら雉撃ちだっけ?」


 どうでも良いことを考えながら、大して焦ることなくのんびりペースで歩き始める。

 結局なんだかんだで盛り上がった集団カラオケ。ちなみに賭けは全員参加となり、香雲かくもさんの負けで平和に終わったのでした。ちゃんちゃん。

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