ようやく終わる
「
「…………何を馬鹿な。お前ともあろうものが、まさか部下をやられて気でも触れたか?」
「いいえ
華麗にこっちへバトンパスをしてきた
「……一応、聞こう。
「寛大な判断、誠に感謝申し上げます。それでは、順を追って説明いたしますわ」
「そもそもの話、復活した
「……その根拠は? 実のところ、私は未完での復活という前提すら懐疑的なのだが」
「
……どうやら
行きの車でも言ってたけど、改めて断言されちゃうと傷つくよなぁ。俺、
「
げ、俺にも振りやがったぞあのおっさん!? 油断しすぎてまじでびっくりしたんだけど!?
「はい。負傷者の救護を優先し、逃亡に専念した
「俺もかな。確かに強かったけど、国単位をどうにか出来るってほど埒外じゃなかった。あくまで特殊な上位の
「なるほど。……仮面付き。貴様は?」
急いでメモ帳とペンを取り出して、思った事をそのまま紙に書き出していく。
ちょ、ちょっと待って。今書いてるから! 急かされると文字がぐちゃぐちゃになっちゃうから!
『おふたかたにどうい。あれはばけものだが、かてないどうりはなかった』
「……汚い。せめて読めるように書け」
「では私が。……二方に同意。あれは化け物だが、勝てない道理はなかったとのことです」
慌ただしく書いたそれに苦言を呈され、代わりに
ごめんね
「恐らくですが、あれは未だ自立している呪骸の範疇でしかないのです。この本邸に置かれた最後の一つを自らに取り込まない限り、その真価は発揮されないと思いますわ」
「……ふむ。なるほど、そこは理解した」
おっさんは眉をひそめながら、この上なく深さで悩む素振りを見せてくる。
とりあえず掴みは上々……なのかな? こういうの本当に苦手だから測りかねるんだよなぁ。
「だが、それがどうして封印の話に繋がる? そもそもの話、
「ではお尋ねしますわ、
空気が変わる。否定一色であったそれは、困惑と疑問が染め上げていく。
すげーよ
疑問に疑問で返す。そんなレスバでなければ認められない会話のタブーを躊躇なく犯しながら、たった一言で場の流れを自分の物へと切り替えちまったぜ。
「……無論、外部からの──」
「そこです。そこが異なるのです。その前提こそ、この一件をややこしくした元凶なのですわ」
ぴしゃりと断言する
年端もいかない少女から繰り出された世迷い言は、瞬く間に
「
「……手を握っただと? いやそこではない。盲点とはなんだ?」
「侵入者など存在しなかった。つまり、
「……なに?」
先ほどの比ではなく、おっさんの顔が驚愕で歪んでしまう。
それだけじゃない。おっさんの後ろにいた側付きの美少女も、そして他の側付き達も、俺達三人以外の人間全てが何かしらの動揺を外に出してきた。
「……馬鹿な。有り得ん。
「違います。そうじゃないのです。その前提こそ、今回我々が犯した最大の罪なのです」
「……どういうことだ」
「我々は
「……つまりは
「ええ。如何に難攻不落の
「……筋は通っている。なるほど、単純だが確かに盲点だ。
おっさんは顔に手を当てながら、納得したように絞り出したように低い声を漏らす。
実はこの仮説を考えたのは俺だ。耐久値の減少を思い出したからそれっぽく教えてみたら、
俺からすれば伝説なんてそんなものくらいとか思うだけど、やっぱり伝統を背負う人達はそこら辺を重んじているのだろうか。何たら文明の予言とかの捉え方が現地の人と一般人で違うみたいな、多分そんな感じだよね。
「追加で証言します。
「……最早疑いでは済まされんか。いいだろう。認めよう。
「賞賛ならばこちらの
あ、そんなうっきうきでヨイショを振んないで。俺はステータス見て適当に意見しただけで、戯れ言に九割の肉付けしてくれたのは
「偽りはないのだな。仮面付き……いや
『我に語れるのは言葉のみ。故にあなたの決断へ委ねる他になし』
「……では信じるとしよう。妹が見出し、弟と共に死線を乗り越えた協力者の言葉を」
焦らずにゆっくり書き上げたそれは、今度は彼の手元へジャストミートで届く。
おっさんは最早投げやりにすら思えるほど脱力しながらも、その厳つい顔を少しばかり緩めてくれたので、こちらも安心から胸を撫で下ろす。
あー良かった。ここまで行けば後はごり押しでどうにかなるし、何とか前哨戦は無事乗り切ったなぁ。
「それでどうする? どこに誘き寄せる?」
「
場所については
確かに広かったけどそこまでの大きさではなかった気がするあの一帯だが、なんか拡張結界というのを使えば結界内がとんでもなく広くなるらしい。凄いね、そういうの。
「というより、承認していただけなければ困りますわ。
「ハハハッ! 自慢の妹にしてやられたね。兄さんも」
え、そうなん? 俺も知らなかったんだけど。どっかで聞き流しちゃったかなぁ。
「……申請を国へ通すのは俺なのだが」
「そこは頑張ってくださいまし。
「……はあっ、兄弟揃ってじゃじゃ馬め。体格以外はクレア殿にそっくりだよ。お前達は」
何かを思い出すようにため息を吐くおっさん。この人ため息はいてばっかりだなぁ。かわいそっ。
「最後に一つお願いがありますわ。どうか“
「なっ、何を言っているんだ
「申し訳ございません
はて、何の話をしてるんだろうか。
「……覚悟はあるのか。捨てる覚悟が」
「無論、矜持以外ならいくらでも。
「……良いだろう。それを望むのなら、最早止める言葉もあるまい。好きに持って──」
「──おいおいそれはないだろォ。こんな小娘に
おっさんが少し声を沈ませながら何かを言おうとしたが、突如大きな音と共に遮られてしまう。
雑に襖を開け、声を荒げながら部屋に入ってきたのはおっさんによく似た中年の男。
短めの傷んだ黒髪で、大柄ではあるがおっさんのように恰幅の良いわけではなく、どっちかと言えば裏道でイキっているチンピラをそのまま老けさせたよう。なんかこの前の
誰だろう。せっかく円満に終わりそうだったのに、この人来てからめっちゃ空気悪くなったな。
「
「おいおい。まさか当主がいないまま勝手に進めてたのかよ。長男であるこの俺様をよォ!!」
「……当主ではなかろう。父上はまだ生きておられるのだから」
この場の全員を見下ろしながら嘲りまくるおっさんと、一切動じずに顔をしかめるおっさん。
ははーん大体読めたぞぉ。さてはこれ、見たくもないから詮索しなかったお家のごたごたってやつだな?
「うるさいよ
「誰に物言ってんだ
うへー品がなーい。こうまで
嫌だなー。チンピラ嫌いだなー。当たんないでほしいなー。……あ、そうだぁ。
そもそも身内だからって子供に怒鳴るとか恥ずかしくないんかなー? まあそんなにも空気読めない悪ーいおっさんだから、こうして後ろで舌を出す悪い子に素性を覗かれちゃうんだぜ?
名称
レベル 20
生命力 120/150
肉体力 大体65
備考 凡々ぽんぽん。所詮は親の七光り。
「……よっわ」
え、やだ……。覗けちゃった? もしかしてあの人の数値、低すぎ……?
「大体
「……子供みたいな駄々をこねないでくださいな。仮にも
「口答えしてんじゃねよォ!! 仕置きが必要だなァ!? アァ!?」
野蛮極まりない言動で拳を振り上げ、
……はあっ。真面目に邪魔だし退場してもらおうっと。足引っ張られても困るしな。
「なっ──!?」
影を適当な長さの棒の形にし、
おいおい反応すら出来ねえのかよ。驚き顔も別にかわいくねえし滾んねえなぁ。
「な、なんだてめェッ!? この俺に刃を向けやがったなァ!?」
「……失礼。臨時ながら護衛を仰せつかった身なれば、お嬢さまを不埒な輩から守るの当然のこと」
「あァ!? この俺が
「生憎無知な部外者故。これ以上は語るに及ばず」
おーピキってるピキってる。わろすわろすー。……いやこれくそつまんなねえわ。
「上等だ。ぶっ殺して──」
「そこまでだ。身内大半とは言えここは会議の場。発言は記録されていると心得よ」
「……ちっ」
「加えて命じる。
「は、はあっ!?」
いえーいざまぁ。真面目な方のおっさんナイスゥ! 後
「巫山戯たこと言ってんじゃ──」
「戯け。巫山戯ているのは貴様だ。再三の失態、女遊びにしけ込み責務を放棄した上で尚その傲慢。どうせ此度の一件ですら、
「はっ、はあっ!?」
「最早貴様には愛想が尽きた。疾く
……おっかなぁ。単身赴任しているうちの父親とは覇気が段違いだわ。今回は敵じゃなくて本当に良かったわぁ。
「くそっ!! 後悔するなよっ。
「……阿呆が」
何かに当たることも出来ず、去り際まで露骨な三下ムーブで部屋から出ていくチンピラ。
最後に来て最初に帰るとか、あの人来た意味あったのかな?
「いいのかい
「構わん。どうせ今は非常時だ。……それに、どうせ奴が復讐する日など訪れまいよ」
「
「……そうだな。最早語る意味などあるまい。……愚か者めが」
後ろに付いていた女性から窘められたおっさんは、数秒目を閉じた後、先ほどまでの冷静な姿へと戻る。
ま、いろいろ思うところはあるんだろう。兄弟なら一言じゃ言い表せないほど複雑な思いを抱えていたりするんだろう。例え片方がどうしようもない愚図だったとしても、だ。
「すまない
「どうぞ気になさらず。さしたる問題ではございませんので」
「……同じく。解決したなら結構だ」
頭を下げたおっさんに気にしていないと言葉を返す。
……つい流れで声出しちゃったけど、まあもう面倒いからいいや。それよりビジネスマナーとか知らないけど、こういう場合ってこれでいいんだよね多分。
「では改めて方針をまとめる。
「はい」
「ええ」
「……ではこれより任務に当たれ。
締めの言葉が終わると同時に、全員一切の淀みなく立ち上がる。足とか痺れないのかな?
「お待たせいたしました。さあ行きますわよ。決着の舞台へ。お付き合い願えるかしら?」
「もちろん。夜明けを迎えるまでは貴方の協力者。地の果てまでお供いたしますよ、お嬢さま」
「……ふふっ、頼もしいですわ。やはり貴方は、自ら話す方が魅力的ですわ」
差し出された
さあ長くなったがやっと本番だ。泣いても笑ってもいいように、精々全力を費やすとしますかね。
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