会議は踊り
慌ただしく人の行き交う廊下を歩きながら、周囲を見回してつい感慨に耽ってしまう。
考えてみれば、たった数日ぽっちでよくもまあここまで状況が動いたものだよ。人生ゲームや週刊誌連載の漫画でさえ、ここまでテンポ良く進むことはそうないだろうな。
「さて。一応確認です。わかっていますわね?」
「わかってるわかってる。素性を晒したくなければ俺と
「……すーくんに姉弟じゃない言われた。ぐすんっ」
「ええ結構。貴方は静かに立っていてくださいな」
変なところでダメージを受ける
これから向かう先は
まあそん特別待遇でも、流石に俺に吠える権利はないらしく、会議中は大人しく直立してろのこと。くぅーん。
「大丈夫。すーくんの提案も一考の余地はある。必ずお姉ちゃん達が通すから」
「会議は基本多数決。
仮面越しでもしょげているようにでも見えたのか、二人が励ましの言葉をくれる。
うーん優しい。両手に花だね。どっちもそういう目で見る気は無い二人なのが悲しいところだけどさ。
そうこう話している間に会議室に到着したらしく、
隣を見れば
「ここからは口を開かないように。……失礼します」
仮面を深く被り直していると、
……こういうのも護衛の仕事だよな。なんか早速お手を煩わせてしまったしまったけどいいのかな。
そんなちょっとした後悔を孕みながら、部屋へと入る
広い和室。どっかの権力者が饅頭の下に小判を隠した箱でも送り合っていそうな部屋。もしも閉めきっていなければ、きっとこの家の豪華な庭が拝めたことだろう。
そしてその中央。俺が懐じゃどう頑張っても買えなさそうな美しい卓を囲んでいる二人。
どちらも見たことある。片方は最初に本邸に訪れた際にいた、力士のように恰幅が良い体格を着物で覆い、厚く重みのあるため息を吐く壮年の男。そしてもう一人は学校でも見たことがあり、つい昨日も一緒に戦った
「お待たせいたしましたわ。
「いやいや。例によって
「そうですか。……あの人も変わりませんわね」
「まったくだよ。あ、
状況があれだし、とりあえず頷くだけにしておく。先輩も元気そうで何よりだよ。
「遅くなりましたわ。申し訳ございません、
「見舞いであれば仕方あるまい。事態は一刻を争うが許容範囲だ。……そして先日振りです。この度は私の弟、そして部下を助けて頂いたこと感謝申し上げます。
「礼は受け取りますが、
一歩前に出た
うー怖っ。その無機質なトーン、小さい頃に出会って間もない頃の
「さて。
「……いいの?
「構わん。あれは最初から数になど入れていないからな」
ふかふかそうな座布団へ座る
うーん座りたいぜ。しゃがみよりはましだけど、これでも一応退院直後の身なんだぜ?
「今回の議題は確認までもない。先日再臨した
せんよーこー? 何それ? 知らねえ単語だぁ。
「悪いんだけどさ。
「どうせ情報の再共有はするつもりだが、お望みならばそちらから話すとしよう。……ふん、お前も身内の話し合いで質問できんほどバカではなかったか」
なんでだろう。この表面は棘まみれだけど実は褒めてるみたいなノリに聞こえるのは。
けどありがてぇ。こっちも中身まで蚊帳の外で案山子になるのだけは勘弁だったからな。
「
「妖怪ねぇ……。連中の規模は?」
「数にしておおよそ千。その内百は大妖クラスだと観測され、脅威度は完全復活ではない
告げられた規模の大きさに、思わず仮面の内の顔を歪めてしまう。
千体とか馬鹿じゃねえの? 規模がおかしいだろ。あれより脅威になるってもう終わりじゃねえか。
「彼らの目的は? 徒党を組んで国家転覆を働こうというのであれば、当然ですが相応の理由があるのでしょう?」
「無論。
……
「京都って言うと
「それについては私から。本日午前一時十三分、京都にて突発的に行われた防衛戦にて朝霧は壊滅。また同日十時二十七分に名古屋にて
「……第四位、確か
「返す言葉もありません。この上なく間の悪いことに、現在一位から三位は海外にて任務中。
「……ふん。ならば現在、我が国の最高戦力は貴方というわけか。若い内から苦労しているな、巫女殿」
沈黙が走る。
この国の実力者がこぞっていない間に起きた大事件。対処出来る残りの大駒は十三家ってやつと
「こちらが計算した結果、東京への到着時間は約二十時と予測された。そちらは?」
「概ね同じかと。彼らの気分次第ですが、どれだけ遅くとも日が変わるまでに決着がつくでしょう」
「……ふむ。
駄目じゃん。もう一番諦めちゃいけないおっさんが憂いのため息を零しちゃってるじゃん。
頑張れ頑張れ負けないで! 頼むから諦めないで! ここを切り抜けないとみんな死んじゃうんだから!
「ならさ。
だが現実は非情。俺なんぞが心の内でする応援なぞまったくもって無意味でしかなく。
そんな手詰まりかと思われた状況の中、おもむろに手を上げたのは
「……一応、理由を聞いておこう。お前がどうしようもないほど馬鹿だとしても、打開策を提示できるほどの戦力など有していないのは理解していると思ったが?」
「うん。確かに俺の部下にはそんな強さを持った奴はいないよ。そうとも、部下にはね?」
自分の手札じゃどうにもならない。そう言ったにもかかわらず、
「俺が今回手を貸してもらっている協力者がそれはもう強くてさ? 多分片方は確実に沈めてくれると思うんだよね? ほら、この前
「……あれか。確かに底が知れなかったが、それだけで一件を任せられるはずもない」
「そこは俺の言葉とここ一週間の報告を信じてって頼むしかないな。一週間足らずで三体の
……ふむ。どうにも俺には凄さを掴みにくい戦果だが、どうやら専門家からすると目から鱗が出てしまうくらいとんでもないものなのだろう。
「っていうか、どのみちそれしかなくない?
「……一つ聞かせろ。
「僕の協力者さ。そこは断言いたしましょう。
「……はーあっ」
先ほどとは比較にならない大きな大きなため息。少しの間、この場に沈黙と緊張が走り回る。
「
「構いません。最悪、私が
「……ならば任せよう。ただし俺も同行する。それ以上の譲歩はない、いいな?」
「おっけい! なーに心配いらないさ。こっちは多分大丈夫だし、
自信に溢れた
それにしても、きっちり自分の意見を通しつつ妹へ繋げてくれるとは。やっぱりチャラいけど凄い人だな、先輩は。
しかし千体の怪異を容易く葬れる凄い奴かぁ。……えっ、まさか本当に
ふとあの超絶無敵の美少女が脳裏を過ぎったが、まあ今は置いておくことにする。
最近は疲れていてあんまり話せていなかったな。はあっ、とっととこの件を片付けて清々しい週明けを迎えたいものだよ。
「では次に
「はい、
ひどく懐かしく感じる学校生活を思い出していると、ついに
ようやく巡ってきた俺らのターン。柄にもなく、少し手に力が入ってしまう。
さあ二人とも。頼んだよ。
残念ながら俺が助けられることは何もないけれど、どうにか案を通して最終決戦へと洒落込んでくださいな?
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