感想 やばい
俺には縁遠い金持ちの家の前で、親戚のお姉さんと出くわしました。
まあ言葉にすると単純だが、実際にそれを受け止められるかは別問題。いくら
ついさっきまで邪魔としか思っていなかったローブと仮面だが、正直今は存在自体に死ぬほど感謝している。もう大好き
「…………?」
うおっと実に冷たい視線。さては心読まれちゃったか? いやー人気者は辛いねぇ。
「
「……なるほど。しかし何故仮面を?」
「少しシャイなんですの。そういうところもミステリアスで素敵ではなくて?」
遊びに来たときは見せたことのない、まさに仕事中な真面目さの
はーすっげぇ淀みない対応。やっぱりお嬢様って社交の場に慣れてるんだなぁ。
「なるほど。しかし野良ですか。この非常事態に少しばかり不用心では?」
「心配ご無用。活動証は発行しましたわ。何かあれば、こちらが全責任を負いますとも」
「そうですか。ならば口は挟みません。よろしくお願いします。……えっと」
うーんどうしよう。せっかくシャイな謎キャラって設定用意してもらったんだし、このまま握り返すだけでもいいんだけど、それじゃちょっと失礼だよなぁ。……あ、せやっ!
『筆談で失礼。我が名は
刹那、脳裏を勢いよく突き抜けた妙案。
なるべく自然な動きで懐からたまたま買っていたおニューのメモ帳を取り出し、さくっと
このユーモア溢れる筆談で場を和ませる声なき仕事人。ダークカイザルシュナイダーっぽくて実に良いっ! どうです? これなら俺って可能性すら潰せる理想択でしょう?
「はっ、はあ……。で、ではこれにて失礼します」
書かれた内容を読み、中々見たことない戸惑いを面をしてくれた後、
うーん巫山戯すぎたか? いくら正体は隠せても、布団の中で悶えたくなる黒歴史ってのはそう簡単に消せないもんだよな。
「な、なんです……い、今の……ふふ。筆談って……ふふふっ」
ちなみに
「芝居だよ。あの人知り合いだし」
「ああ、なるほどっ。そういうことでしたのね……ふふっ。それにしても筆談って……ふふふふっ」
どこぞのツボにでも入ったのか。
可愛らしくて結構だがちょっと止まってほしい。後ろの
「失礼。では行きましょうか。ふふっ」
少し経ち、ようやく笑いの収まった
先頭が
後ろに無言で急かされながら門を抜ければ、そこはまさに別世界。歴史の資料集とか社会科見学でしか見ることのない立派な庭と厳かな家、そして外とは異なる空気がこちらの肝を萎縮させてくる。
これずがずが歩いちゃって大丈夫なのかなぁ。
拉致られたとはいえ一応客の身分。この場に適した正装とかした方が良かったんじゃないかなぁ。
「そういえばあの方と知り合いとおっしゃっていましたが、一体どのようなご関係で?」
「あー、親戚の人かなぁ? 小さい頃から遊んでもらってさ。公務員ってのは聞いてたけど、まさかこんなおもしろ……緊張感のある仕事をしてるとは思わなかったよ」
「なるほど……。でしたら彼女について詳しくはご存じないと。ならば話しておいた方が良さそうですわね」
是非お願いします。正直俺も気になっていたところです。
「
五指。つまり精鋭揃いの戦闘集団の中でトップ5に入るほど強いってことか。
なるほど、確かにそれならレベル75でも頷ける。あのくらいがこの国の、或いは裏においての上位クラスって考えても良さそうだな。
「あの黒猫は? さっきも足下で寛いでいたけど」
「黒猫……? いえ、
……まじ? じゃああれは一体何なんでしょう? 無駄に強い悪霊だったり?
「ですが聞いたことがあります。
猫については
博識やなぁ。これからはかなペディアって呼んであげようか、もちろん胸中だけだけど。
しばらく歩いて風流な石畳の道を抜け、屋敷に入って更に歩く。
途中に一度、超絶綺麗なお手洗いで用を足し、それからまた奏ちゃんの後ろを付いていく。
気分は修学旅行で行った京都の寺巡りに近しく。
最初こそすごいだの恐れ多いだの色々思ったが、段々と飽きてきてだだっ広い家だなぁとしか思えなくなってきた頃。
この家の使用人であろう、なんか綺麗な着物の女性と真面目に話すおっさんが目に入った。
「ごきげんよう
「……
「今日は開校記念日ですわ。ですので書類の作成、それと
奏ちゃんがこちらを紹介するよう掌を差し出せば、案の定男は訝しげな視線を向けてくる。
スーツ越しでもわかる恰幅の良い体。どこぞの豪商が商談にでも来ているかのよう。
しかしお兄様……ねぇ。結構年が離れているように見えちゃうけど、叔父様とかパパとかじゃないんだね。
「……ふん。兄妹とはよく似るものだな。昨日も
「あら、
「知らん。そこのと同じように姿を隠していたからな。だが一つわかる。お前の協力者とは違い、
いまいち要領を得ない会話。そもそも部外者の俺には理解しようがないものなのだろう。
しかしとんでもない怪物ねえ。最近驚いてばっかりだし、そろそろ
「私は出るが、くれぐれも余計なことはしないように」
「どちらへ?」
「
知らない誰かへの愚痴を零しながら、この場を去っていく男と使用人らしき女性。
「……あの人は?」
「
へー。
「……興味ありませんのね?」
「まあね。実際興味持たれたくないでしょ?」
「
我ながら雑極まりない対応だと思うのだが、何故か
何なんだろうなこの
ま、こっちはそれでもいいんだけど。所詮は持ちつ持たれつですらない、今回限りの協力関係なわけだし。
「貴方はそれでいいのです。だからこそ、
「は、はあっ……。どうも……?」
「ええ。さ、もうすぐ着きますわ。少々気を引き締めてくださいな」
彼女が指差す方向に、この美しい和式の屋敷に合っていない無機質な鉄の扉が見えてくる。
まるで水を通さぬ船のような、或いは危険物を妨げる研究所の扉のような。
実際の正解なんてどちらでも構わないが、それでも一つだけわかる。わかってしまう。
あの部屋は明らかに何かを閉じ込めている。あの先には退魔十三家なる裏の十人ですら厳重に管理しなくてはならない、とんでもない何かが置かれているということは。
「今から見ていただくのは
「せい、かいれい……?」
「ええ。何卒気を強く持って下さいまし。ここで終わってしまうような方であれば、
扉の前に到着すると、
すると扉は空気が抜けたような音を上げ、直後がちゃんと何かが外れるような音がした。
「
「はっ」
柄にもなく緊張から唾を飲み込んでしまう。漠然とした何かを抑え込もうと、つい手を握り力が入ってしまう。
戦闘前の緊張とはまた違う。今感じているのは言うなれば、怖いと分かっているお化け屋敷へ飛び込むような恐怖だった。
そしてついに扉は開く。最早引き返すことなど許さぬと、まるで手を招くかのように。
「行きましょう」
一番手は
「入れ」
足踏み状態な俺へを急かす、淡々と告げる女の声。
意を決して足を踏み入れる。ちっぽけしかない勇気を絞り出し、ゆっくりながら部屋へと入る。
そこは真っ白な部屋。真ん中に置かれた
だが、決して白ではない。
むしろ真逆。中央に置かれたそれの発する気配のみ、ただそれだけでこの部屋は禍々しい。
見るだけで心は汚れていく。意識するだけ思考を染め上げていく。
あれこそが魔。あれこそが邪。あれこそ、人の怖れる悪そのもの。
──なんだあれは。あんな物が、果たしてこの世に存在していいのだろうか。
「
「これが
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