ロリっ娘てぃーたいむ
突如として夜の公園で起きたバトル。その決着の瞬間に乱入してきた
淑女らしいご丁寧な挨拶をされても、こちらの警戒なんて解けやせず。
尚更金槌を持つ手に力が入る。抜けていく魔力の感覚が、なおも迫る危機への
元よりレベルはあちらが上。あの光が彼女によるものだとしたら、恐らく魔法みたいな特殊な力を振るうタイプに間違いは無いだろう。
今は下がっているが黒装束も健在。こっちに余力はほとんどなく、格上二人を相手取る力は残されていない。……えっ、これ詰んでね?
「そう身構ることはありませんわ。こちらに戦闘の意志はないのですから」
「……どうだか。油断したところをズドンッ! ってこともあるだろう?」
「ふふっ、それは有り得ませんわ。何故なら……」
彼女は小さく微笑み、そしてこちらに人差し指を向けてくる。
直後、真横を通り抜ける光……いや、それは光というより落雷が突き抜けたかのようだ。
動くことも反応することすらも叶わず。認識に思考が追いつく前に光は失せ、少女は不敵に笑うのみ。
……なるほど。こんな子鼠一匹如き、その気になればいつでも駆除出来るってわけね。
「……うーんお手上げ。どうぞ好きなように弄んでくだせえお嬢様」
「あらどうも。好みよ? 聞き分けの良い殿方は」
両手を上げて降参の意を示せば、彼女は可憐な笑みのまま指を鳴らす。
直後、どこからともなく新たな黒装束が彼女の側へと現れ、ずかずかとこちらへ歩いてくる。
「失礼」
何が、と問う前に黒装束は俺の首へ手刀を当ててくる。
抜ける力。薄れゆく意識。その最中、何故か浮かんできたのはただ一つ。
(首トンってまじでやるやついたのかよ……)
そんな実にくだらない、どうでもいいことだけだった。
次に目が覚めると、そこは知らない場所……この場合は知らない天井がお馴染みというやつか。
脳がぽやぽやしてるから適当だが、ぱっと見綺麗ではない。むしろどっかの団地の一室といった方が正しい、そんな感じの小汚い天井だ。
ゆっくりと体を起こし、軽く体を解す。ちらりと見れば、どうやら寝ていたのは床ではなくベッドらしいのがわかる。
手足の拘束もない。なんか変な物を付けられたというわけでもない。雑に放り捨てられているわけでもなければ、特に負傷も見られない。
何なんだろうなこの状況。……はっ、まさかこれが身代金目的の誘拐ってやつなのかっ!?
「あら、目は覚めまして? 夢心地が良さそうで何よりですわ」
自分でも馬鹿らしいと思える考察をしていると、唐突にかけられる可愛らしい目覚めの言葉。
なるほど、どうやらこの部屋は俺の貸し切りじゃなかったらしい。天井以外もしっかり見回せば良かったぜ。
「……どうもお嬢様。このような豪邸にお招きに預かり大変光栄です」
「ええ。よくってよ」
愛らしい響きの導くがまま正面を向けば、そこにはティーカップ片手に優雅に寛ぐ少女が一人。
愛くるしい猫の着ぐるみパジャマに身を包むのは、如何にもお嬢様な金髪の美少女。
こんなこぢんまりとした部屋ででわざわざハート型のテーブルなんか出しちゃって。可愛らしいけれどミスマッチにも程がないか君ぃ?
「どうぞこちらに。少しお話しましょう?」
「ええっ! よろしくてよ、うふふっ」
せっかくだしそれっぽくノりながら立ち上がり、空いた椅子へと腰を下ろす。
少女は實に慣れた手つきで可愛らしいティーカップに紅茶を注ぎ、こちらへと差し出してくる。
鼻を擽る華やかさ。うーん良い香り、だけど生憎俺はコーヒー派なんだよなぁ。
「どうぞ」
「では。いただきます」
全くないテーブルマナーをどうにか脳内から絞り出し、それっぽい感じでずずずと喉へと流し込む。
……うーん紅茶。美味しい紅茶、超紅茶。
「美味しい。この香りと味はずばりアールグレイ、そうだね?」
「ダージリンですわ」
「……失礼。生憎無知なもので」
ソムリエごっこに残酷な即答。ちくせう、格好付けるならステータス覗けば良かったぜ。
「ふふっ。随分肝の据わった御方。こんな危機的状況だというのに」
「ふふっ。失礼ながら姫、こんな状況だからですよ。死中であれ遊び心を忘れずに、です」
羞恥心を誤魔化すための言葉を紡ぎながら、更に紅茶という色水を飲んでいく。
しかし死中であれ遊び心を忘れずに、か。咄嗟ながら良い言葉、座右の銘に加えちゃおうっと。
「じゃ、とっとと本題に入ろうか。帰りが遅くなると心配してくれる人がいるんでね」
「あら? まさか帰れると思っていて?」
「……どういう意味だ?」
意味深なことを呟いてくるので思わず尋ねてみれば、少女は何かを懐から取り出し机に置いてくる。
置かれたのは一台のスマホ。それも見慣れたデザインの……まさか。
「中々可愛らしい方ね、貴女のお母様。
「……何かしたのか?」
「ええ。それにしても意外だわ。貴方、殺しに躊躇いはないのに情はあるのね」
勢い任せに立ち上がり、咄嗟に影から金槌を出そうとして、それよりも早く彼女の人差し指がこちらを指してくる。
抵抗は無駄。逃げ場がなくなっただけで依然状況は変わらず、未だ己は死の間際。それを否応なく理解し、その上でなお思考を回していく。
どうすればこのガキを殺せるか。どうすれば黒装束から逃れ、無事にこの場から逃げられるか。そしてどうすれば母を救えるか。
あまりにも無理難題。そもそも初手から手詰まりなこの状況を覆すための
「……情熱的で好い
「そりゃどうも。俺も好きだぜ君のこと。つい殺したくなっちゃうくらいには」
「あら嬉しい。けれど今はお止めなさい。もしも
せめてもの嫌みも呆気なく流された俺は、大きく息を吐いて一旦落ち着いて席へと座り直す。
少女はそんな俺を満足気に眺めつつ、実に様になっている所作で紅茶に口を付けた。
「まず一つ、あらかじめ断言しておきます。今行われているのは
「……じゃあ母さんに何したんだよ?」
「貴方のスマホで電話しましたわ。道端で助けてくださったご子息様を夜遅くに帰すのは申し訳ないので、本日は
まるで悪戯が成功したかのように、お腹を揺らして笑いを堪える少女。
つまり取り越し苦労? 俺の独り相撲だったってわけ? こ、このメスガキがよぉ……。
「くすっ、お可愛い方。やっぱり好みですわ、貴方」
「勘弁してくれ……。こっちは真面目にびびってたんだからよ……」
安心したからか、張っていた力が抜け、椅子の背もたれにしなだれかかってしまう。
あーまじでびびった。いくら俺でも無関係な母親巻き込んで死なせちまったら人間失格だからな。
殺人歴のある俺が最低限度の仁義を語るのも馬鹿らしいが、それでも譲れない一線ってのはある。
「さて。いい加減真面目に話すとしましょうか。お泊まり会なので長くおしゃべりしていたいところですが、そろそろ
「……へーへー」
「では改めて名乗らせて頂きます。
ぺたんこな胸に手を当て、堂々とこちらへ自己紹介してくる
一応偽名じゃないのは確認済み。しかしだからこそ謎が深まるばかり。たった一言程度なのに、いきなり情報量が多すぎて困っちゃう。
ししはらけ? このちのしゅご? たいまじゅうさんけ? なにそれ魔法の呪文? それか中学二年生の書いたノートの中身的なあれなの?
「疑問はひとまず置いておきましょう。まずは貴方の名前が聞きたいですわ」
「佐藤ひろしです。歳は十八です。なんでも熟すバイト戦士です」
「やり直し。嘘つきは嫌いでしてよ」
ばれてーら。まあ身分証なぞなくともスマホパクられてたんだしそらバレるか。
「……
「はい結構。よくできましたね♡」
挨拶をしただけで、まるで保育士が園児を褒めるときみたいな撫で声で褒められる。
なんだろう、馬鹿にされているのに胸の内がむずむずしてくる。……これが、バブみッ!?
「で、退魔十三家って何? 守護ってなんなの?」
「その名の通り、魔を退け人々を守る家系。獅子原はこの辺りがその担当領域というだけの話ですわ」
「……魔って? お化けとか妖怪とか?」
「ええ。加えて穢れや汚染……人々が知らずの内に漏らす負を祓うのが我ら退魔士の役割。ここまでは大丈夫ですか?」
穢れって多分黒スライムだろうし、お化けは昔見たことあるからまあわかる。そういうのがいるってことは妖怪みたいな他の
「……なるほど。で、どうして俺が襲われたか聞いてもいい? 大体予想は出来るけどさ」
「それについては今一度謝罪を。本来であれば生け捕りで
……え、手違いなの。てっきり一般人には見えない黒スライムを狩っている怪しいやつがいるから攻撃したのかと……ま、まあ? そ、そんなの当然ぅ!? よ、予想通りだけどねっ!
「後ほど
「いいよ別に。君の乱入がなきゃ、俺もあの人を
これ以上の謝罪はいらないと掌で着席を促せば、
あー良かった。俺もこんな短期間で二人目の殺人なんてしたくなかったし、もし殺してたら何か大きな家の連中と敵対することになっていただろうしね。
「けど危なくない? 俺だったから辛うじて凌げたけど、巻き込まれた一般人だったら即死だぜ?」
「言い訳がましいのですが、こちらにも少し余裕がないのです。だからこそ、こうして貴方と話しているのですわ」
……ん? 流れ変わったぞ? 何か厄介事の予感がびんびんしてきたぞ?
「
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