かっこいい登場って憧れるよね
どうも皆さんこんばんは。今日も元気な
早速ですが、俺が今なにをしているか分かる方はいますか? あ、景品は飴ちゃん一粒です。
「何だってんだよ、まったくよォ……!?」
金槌片手に息を弾ませながら、必死に周囲の気配を察知するため集中する。
答えはずばり戦闘中。通り魔に襲われ、こうして本気で体を動かしているというわけですよ。
一体どうしてこうなってしまったのか。それは大まかに言えばこの三行。
散歩中、公園にちょっと大きい黒スライム君がいたので狩る。
きりも良いので少し休憩してから帰ろうと思った矢先、いきなり黒ずくめのやつに襲撃を受ける。
とりま脱出しようとしたところ、何故か公園から出られないのでそのまま戦闘する羽目になる。
ね? 簡単でしょ? ……いやほんっとくそみたいな状況だなこれ。
不意に迫る針やら礫の群れを、時に地面を転がり時に金槌で弾きながら打開策を考える。
投擲物から相手の位置を逆算するのは無駄。最初に思いついたが直行してももぬけの殻だった。
やはり現行犯で捕らえるしかない、けれどそれが叶わない。さてどうしたものかね。
「……なれば検証。レッツ
悩んでいる暇など皆無。思いついたらすぐに決行。
意気揚々と地面──正しくは影に手を突っ込み、体の内に流れる力を巡らせていく。
収納箱でしかなった影。その黒の領域を捏ねて、混ぜて、引っ張り上げる。
それを例えるならば子供の泥遊び。影という砂を魔力という水で固め、自らの望むままに作り替える想像力の具現化そのもの。
これが影操作。魔力の残存と一筋でも自らに繋がっている限り、足下の黒は第五の四肢へと変貌する中々にぶっとんだ新ネタさ。
「影盾ってね。……きひひっ、みぃーっけ」
刹那、噴水のように俺を囲んで吹き上がる影に弾かれた無数の何か。
自らの影を信頼しながら投擲物から意識を外していた俺は、その奥でほんの僅かにぶれた気配の感覚を掴むことに成功する。
「そこだッ。一直線ッてなァ!!」
気分はさながらメジャリーグの大スター。
足を上げて大きく振りかぶり、魔力を込めた金槌を相手目掛けて全力でスローイング。
金槌は勢いよく突き進み、謎の気配がある場所へ瞬く間に辿り着く。
だがその鉛の凶器が届く直前、捉えた気配は唐突にぶれ、金槌は虚しく空を切るのみ。
──ま、逃げるなんてのは想定内。なんせ本命はこっからの小細工だからなァ!!
「逃がすかよォ!!」
掴んだ気配は未だ俺の感覚の中。ならば俺のやることに変わりはない。
金槌に結びつけられた極細サイズな影の糸。切るまで切れない魔力の糸を時計回りに思いっきり振り回し、見事その気配の主に巻き付いてくれた。
「っ!?」
「うーんビンゴッ。
まるで最初からいたかのよう徐々に姿を現し、見えない糸を解こうと藻掻く人型。
だが、俺が動いたのはそれよりも一手早く。
足場の影と糸に魔力を流し込み、より頑丈に補強して強く縛り上げる。
よしっ、何とか完全に捕捉が出来た。これで俺が放さない限り見失いはしないだろう。
さあてどうしようか。ぶっちゃけここまでしか思いついていなかったんだよね。
まるで闇夜に紛れる忍者みたいな黒装束。この前の
下手に近づけば反撃を喰らうこと間違いなし。現に今でさえ海で津人に抗う魚みたいに藻掻いたり、少しでもこちらに痛手を負わせようと何かを投げてきている。
せめて金槌がもう一本あればなァ。あくまで影操作業界の期待の新星でしかない今の俺じゃあ、この操っている糸を維持しながら物を取り出すなんて器用な真似は出来ないんだよね。
「……とりあえずお話しない? ほらっ、互いに誤解があるかもしれ──」
「…………」
「だんまりかよ。さてはシャイボーイだなお前よォ」
適当に間を誤魔化しつつ、少しでも情報を引き出すべくステータスを覗いてみる。
名称
レベル 20
閲覧不可
うーんくそ。このチート最初以降まともに仕事しやがらねえ。そんな短い名前だけじゃ男か女かもわからねえじゃねえか。
しかしこれなら近づかなかったのは正解か。このうざったるい遠距離攻撃とか間違いなく牽制だろうし、のこのこ寄ったら絶対やばいのもらってただろうな。
「ねえどうするのー? このまま永遠に綱引きやるー? ここに警察来たら怪しまれるのはそっちじゃないのー? へいへーい?」
「…………」
埒があかないので適当に煽ってみれば、ちょっとだけ引く力が強くなった気がする。
さては相当ピキってるな? 中身はちゃんと心のある人間だな?
しかし言動とは裏腹にやばいのはこっちだな。ちょっと手が痺れてきたし、このままじゃ体ごとあっちに持ってかれそうだぜ。
圧倒的不利な膠着状態に陥ってから、果たしてどれくらい経っただろうか。
さっきは適当に言ってみたが、俺が出られなかったのだからどうせ警察なんか入ってこれるわけがない。そんな不思議組織じゃないだろう、あの公務員共は。
というわけで救援は絶望的。そもそも俺に味方などいないし、
ならばもう負傷覚悟で飛び込むしかないか。勝算の低いガチンコの戦闘に持ち込むしかないのか。
とっとと決断しなければ。あんまし長丁場出来る程、俺の体も相手も待っちゃくれないぜ。
一度目を閉じ、覚悟を決めてから再度開く。
勝負は一瞬。仕留めきれずに再び闇に紛れれば多分二度目はなく、ジリ貧の末の敗北は確定事項だろう。
足の固定を解き、その分の魔力を体へ張り巡らせる。
試してみたら出来た魔力による身体強化。細かい制御はまだ無理なので危険なのだが、それでもないよりは遙かにマシなはずだ。
地面を強く踏みしめながら、少しでも相手に隙が生じるタイミングを窺い続ける。
狙いは俺を引こうと足掻く瞬間ではなく。ほんの一瞬、やつが力を緩める投擲の瞬間。
まだ、まだ、まだッ。……そこだッ!!
「ッ!?」
糸から手を放し、全力で地を踏み抜いて己を弾く。
急に放されたことで姿勢を崩した黒装束。その隙こそ俺が確実に勝利するための絶好の好機。
狙うは頭か顔面、もしくは首。他は全て不確実。
一撃入れて転がした後に金槌を拾い、二撃目で確実にとどめを刺す。相手が格上な以上、生き残るためには
思いっきり振り抜いた拳は、黒装束の顔面へ吸い込まれるように直撃する。
強化も相まって、黒装束は決行勢いよく吹っ飛んでいく。
手に残る生々しい鈍い感覚に不快感を覚えながら、それでもお構いなしに側に落ちている金槌を拾い、再度顔面目掛けて思いっきり振り上げる。
「そこまでよ。双方共に矛を収めなさいな」
刹那、俺と黒装束の間を引き裂くように迸る光の柱。
まるで雷でも落ちてきたかのように轟いたそれの衝撃が体を貫き、数瞬の合間硬直させてくる。
振り上げた手と共に止まってしまった金槌。すぐに感覚を取り戻したが、その間に黒装束は四足動物のように後ろへ飛び退いてしまう。
まずい。しくった。逃げられた。また消える、どうする、考えろ、何か次の手を──。
「……はっ?」
急いで次を考えようと脳を回そうとしたが、それよりも早く目の前の光景に思考を奪われてしまう。
ついさっきまで戦闘をしていたはずの黒装束。体勢を立て直し、再度姿を消して殺しに来るはずの敵が、何故かその場に膝を突いていたのだ。
「いい
再度周囲に響く、闇夜の公園には似つかわしくない愛らしい声。
決して大きくないのに耳を掴んで離さない、資質と自信に満ちた鈴のような音。少なくとも、クラスにいるごく普通の女子には出せない力を持った声だ。
だからその音に目が釣られてしまったのは必然。目の目の相手から目を逸らすなど、どんな
その声の主は公園の遊具、滑り台の上の屋根に優雅に座っていた。
少女だった。声の印象と変わりない、或いはそれよりも大人びた雰囲気を醸し出す女だった。
なるほど。つまりそこの黒野郎は駒に過ぎず、真なるボスのお出ましってわけかよ。
「よっと」
少女は流れるように立ち上がり、高さを物ともせずに華麗に地面へと飛び降りる。
身長は低く、恐らく140㎝前後。服装はその背に似合う、可愛らしくも大人の魅力も持たせようとしたとかそんな感じの服。名称は知らん。
うーん可愛いね。夜の公園とかまったく似合わないな、後ろに黒装束がいなければだが。
「主様……! 申し訳ありませんッ! ですがッ──!!」
「言い訳は無用。今宵は潔く退きなさい。
「……御意」
「結構。……さて、お待たせ致しましたわね」
女は不満がありそうな黒装束をたった一言で黒装束を宥め、ようやくこちらに声を向けてくる。
「まずは心からの謝罪を。
「……そうだね」
「そして改めて自己紹介を。
名称
レベル 40
閲覧不可
こちらへ頭を下げてきた少女を前に、どうしようもない厄介事の気配に嫌気が差す。
だからレベルくんさぁ。もう少し現実に希望を持たせてくれていいじゃんかよぉ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます