至高のグルメは屍処理の後で
やつが来る
俺の名前は
けれど実際は平凡なんぞほど遠く。人の
能力に目覚めて浮かれた俺は、ある日隣の席で美少女な
そしたらなんとびっくり。なんと彼女は異世界召喚経験済みの勇者らしく、ちょっとカンニングできる程度の異能など鼻で笑えるほどのでたらめな強さだったのよ。
いやーまじで驚いた。思わず価値観ガラリと変わっちまってさ。そんな完璧無敵な彼女を殺して唯一無二として刻みたくなっちゃったんだ。
だからそのために雑に湧いてるスライム狩ったり殺人しちゃったりしちゃったってわけ。きゃっ☆
さて。そんな激動すぎる一週間を送った俺なわけですが。
栄光の一歩を踏み出したのにもかかわらず、割と危機的状況に陥ってしまったのだ。
「なあ
現在、ここはちょっとおしゃれで自分だけじゃ絶対に入らないであろう喫茶店。
目の前で怒髪天決め込みながら踏ん反り返っているのは、針のように尖った目が怖い黒髪の美女。
彼女の名前は
「すいません部長。ですが心外です! 僕は忙しくて連絡にすら気付いていませんでした。理由はあれど今なお招集に応じず、釈明すらせずさぼりを敢行している彼らと一緒にされるのは我慢なりません!」
「で、本音は?」
「正直気付いても来てなかった思います! だって週末に人の我が儘聞くとか勘弁ですもん!」
てへっ、促されてつい言っちまったぜ。俺ってばお茶目さん☆
「っていうかぁ、そもそも招集も任意じゃないっすか。いくらこの部活が不定期活動とはいえ、せめて前日予告とかしてくれなきゃこっちも予定に組み込め無いっすよぉ」
「嫌よそんなの。欲望なんて突発的且つ衝動的、わざわざ自分で調整してちゃ人生一欠片も面白くないでしょ?」
他の部員がいれば賛同してくれそうな意見を述べてみるが、部長はぴしゃりとシャットダウン。
うーん自分の欲塗れ。勧誘のときは来たいときにだけ来ればいいとか実に耳障りの良いこと言った気がするのになぁ。
ま、その女帝の如く身勝手すぎる振る舞いは正直共感出来まくりで嫌いじゃないけどさ。
「ああちなみに、
「……わん」
わおっ、まじかよあいつら。何て律儀な奴らなんだ、さては優等生か?
っていうかそんな感じなら矛先は
「じゃあどうします、今から唐揚げ作ります? 俺はとっとと帰りたいですけど」
「……いえ。それよりもっと良いお仕置きがあるわ。一度やってみたかったとっておきのね」
部長が考えることわずか三秒弱。
思考なんぞ素振りだけで、絶対あらかじめ決めてたであろう提案をお出しにしてくる。
えー、正直それ呑みたくないなぁ。今はレベル上げっていう充実した生きがいがあるわけだし。……もうなんかめんどいし辞めちゃおっかな。
「なに、簡単よ。一品、自信のある一品で良いの。来週機会を設けてあげるから、その時部員全員に味見してもらうの。オーケー?」
「ノットオーケー。こちとら素人よ部長? 無理強いNGっすよまじで」
「もちろん無償とは言わないわ。言うなればチャレンジ。もし私の舌を唸らせることが出来たのなら、その時はご褒美に私が好きな物を作ってあげる。どう?」
……えー。ちょっと悩む。この部長、言うだけあってマジで料理上手いんだよね。
名称
レベル 7
生命力 50/70
肉体力 大体3
固有 美食製造器 味変上手
備考 料理が上手い。あと意外に初心で弱々な生き物なんですよ?
なんせこんなステだし。なんや美食製造器って、そそられちゃうやろこんなの。
「それとも自信ない? 所詮素人だからって尻尾巻いて逃げ出しちゃう?」
「な、なにをぉ!? で、できらァ! やってやらァ!」
「なら決まり。詳細は後で送るわね。ふふっ、楽しみにしてるわ」
その端正な顔を愉悦に染め、部長は実に優雅に席を立ち去っていく。
何か終始掌の上で転がされてた気がする。やっぱレベルが上がっても頭は馬鹿なままだな俺。
「お待たせしましたー。こちらショートケーキになりますー」
「あ、どうもー」
運ばれてきた苺の乗った贅沢真っ白ケーキを目の保養にしつつフォークを手に取る。
ま、とりあえず面倒事は忘れて目の前の甘味にしましょうか。もう見ただけで絶対コンビニの奴とか比じゃないくらい美味しいってわかるもんね。
「うまうま~」
コーヒーとケーキ。まさに至福のティータイムに舌鼓を打ちながら放課後を楽しむ。
あ、ちなみに伝票は部長が持っていったらしいです。言動の割にそういう気遣いできるから嫌いになれないよね、あの人は。
「ふー食ったぁ。いやーうまうまだったねー」
喫茶店で寛ぎまくった結果、今はもうすっかり茜空な夕方になってしまった。
いやー時間進むのって早いよね。若者らしくスマホ弄ってたらあっという間になんだもん。
おやつ食ってなんだけど、夕食用のお腹は空いてきたしとっとと帰ってしまいたい。今日は黒スライム狩りに洒落込む気分にはならないからね。
そんなわけで湧いてる奴らは基本スルー。どうしても邪魔だった一体だけは瞬殺し、何事もなく家の前まで到着ってわけ。初回はあんなに苦労した黒スライムにもあまり苦戦しなくなったのはなんだか感慨深い何かを感じてしまうよ。
「たでーまー」
俺を待っているであろう夕食の正体を予想しながら扉を開ければ、見慣れない革靴が一足。
父上のにしては小さいな。母君はこんな趣味してないし、となれば一体誰が──。
「おーかえりぃー!! 元気してたかー
「ぐえっ」
つい立ち止まってしまった俺に、溌剌とした声を上げながら何かが抱きついてくる。
……あーなるほど。そういえば母さん、近いうちに来るって言ってたなぁ。
「……重いよ
「残念ながら愛なので罷り通るのです。それより
何とか堪えたものの、引っ付いた蛸のように離れてくれない女。
この思春期にはよろしくない、歳上らしからぬ鬱陶しい絡みよう。久しぶりに会ったとはいえ、流石に忘れたりしないだろう。
この女の名は
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