第4話 レイラが目の前に
「――――――」
もしかして今、ものすごく大変なことが起きているんじゃないかっ!?
レイラの事務所の人がいて、もう一人ハーフっぽい感じの美人お姉さん。
以前個人配信をしていたとされるレイラのなかの人はクォーターだって言われている。
もしこれが事実であったなら、もう一人の女性はレイラってことなのでは……。
もう気持ちが身構えてしまうなんてレベルじゃないよ!
心臓は今まで感じたことがない強さでドクドクドクドクして、身体は硬直してしまったかのようになってしまう。
緊張で顔は凍りついて、瞬きだってできはしない。
そうなっても仕方ないでしょ? レイラが目の前にいるんだからっ!
「……あの」
「っ――――!!」
「名刺は出せませんが……えっと、レイラです」
や、やっぱりレイラで間違いない! 声を聴けばレイラだって間違えようはずがなかった。
今さっきだって聴いていた声なんだから。
途端にさっきのことが頭を過って、恥ずかしさと居た堪れなさも込み上げてくる。
お茶を出そうとしたときに目に入ってきた光景は、みんな僕のノートパソコンを見ていたんだ。
僕が酷いことをしたと思っているレイラ本人に、アーカイブを見ていたっていう現場を見られるなんてツラ過ぎでしょ。
トイレに逃げ込んで泣きたいくらいだ。
「それで前田さん。本日お伺いさせていただいたのは」
弁護士さんが話を切り出してくれて正直助かった。
レイラもいるし、どこに目を向ければいいのかわからなかったから。
「前田さんに送った内容証明はこちらの誤りであったことがわかったからです。
そのため関係者で謝罪をさせていただきたく、こうしてお伺いさせていただきました」
「――――」
頭が真っ白になって、一瞬よく理解できなかった。
「まことに申し訳ありませんでした」
みんなが頭を下げて謝罪してくれているのを見て、やっと頭が理解を始めた。
ただことの発端、この
「あの、どういうことなんですか?」
事務所はレイラに対して書き込まれた、度が過ぎるアカウントなどに対して情報開示請求を行った。
その結果からプロバイダが情報を提供したわけだが、このプロバイダから開示された情報が間違いだったらしい。
実際に開示すべき人物は別人で、プロバイダのミスで僕の情報を出してしまったということだった。
「でも、どうして今になってわかったんですか?」
僕が訊ねると、女性の事務所の人が口を開いた。
「レイラがSNSで前田さんのコメントを見つけて、すぐに間違いがないのか調べてほしいって言ったんです」
「――――」
言葉がなかった。僕のSNSでのコメントを、レイラが見つけるなんて思ってもいなかった。
炎上までして誰も信じていなかったコメントなのに――――。
「弊社のミスで多大なるご迷惑をおかけしたこと、まことに申し訳ありませんでした!」
「先日こちらに示談の意思はないと言っておきながらというのは重々承知の上で、どうにか和解させていただくことはできませんでしょうか?」
少しレイラに対して心苦しい気持ちを持ちながらも、僕は頭をフル回転させる。
このままなにもなしというわけにはいかなかった。
「謝罪の意思も感じましたので、それを受け入れることはやぶさかではありません。
ですが今回の件で実質的な損害が出てしまっているので、そこの部分は賠償していただきたいと考えます」
「ありがとうございます!」
事務所の人が一番に頭を下げてお礼を口にする。正直運営さんに悪いところはなかったと思う。
そういう意味では弁護士さんにしたって同じかもしれない。
でも責任についてはやっぱりあると思うから、言わなければいけないところは言わないと。
「今回の件でバイト先に迷惑をかけてしまっていて、落ち着くまで出勤を控えるように言われています。
ですが見ての通り僕は一人暮らしなので、バイトに行けなくて困っています。
それと両親が弁護士さんに相談していたので、この二点の金額を請求させてもらいます。
プロバイダさん、弁護士さん、運営さんで割合については話し合っていただいていいです。
慰謝料は要らないので、さっき言った二点の損害についてお願いしたいと思います。
これをそちらが飲んでいただけるのであれば、僕は和解に応じようと思います」
世間的に見れば、きっと僕が言っていることは
僕自身慰謝料を釣り上げることもできたんじゃないかって思ったし。
でも僕はしたくなかったんだ。すぐそこにはレイラがいて、レイラ自身に落ち度なんかないとしてもやっぱりツライと思う。
僕は僕のことで嫌な思いをレイラにさせたくなかったんだ。
僕なんかよりグッズをたくさん買って、レイラの活動を支えるために推し活しているファンはたくさんいる。
何十万もレイラのためにお金を使っている人たちとかSNSでも見かけるし。
そういう意味で言えば、僕はあまり熱心なファンではないんだと思う。
でも僕のなかではレイラのファンだから、今回の件で責めるようなことをしたくない。
これは僕のなかでの、レイラへの推し活だった。
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