第59話 残念勇者は捜索を開始する

 朝、目を覚ました。

 俺はソファーで一夜を過ごした。

 ベッドにはフローラが寝ている。


 美女と二人きりという状況に興奮しなかったと言ったら、それは嘘になるだろう。

 だが、割れ神どもをあと五体倒せばあの身体が手に入るのだ、焦っても仕方ない。


 よし、今日から捜索頑張るぞ!

 さっさと童貞を捨てよう!


「ん⋯⋯」


 俺が決意していると、フローラが寝返りをうつに合わせ、掛け布団がはらりとめくれた。

 寝間着などなかったので、俺のTシャツを貸していたのだが──俺は見逃さなかった。

 膨らみの上で主張している僅かな存在を。


「⋯⋯」


 もうカメラはこりごりだ。

 俺はしっかり目に焼き付けてから、トイレに向かう。


 大でも、小でもなく『第三の目的』の為に。


 しばらくトイレで過ごし、第三の目的を果たしてからソファーに戻る。


「なんか⋯⋯童貞捨てるとかどうでも良くなったな。⋯⋯その為に頑張る価値ある?」


「コラ。何悟りを開いてるのよ」


 俺が目的を果たした間に、フローラは目覚めたようだ。


「あ、おはよう。やっぱりあれ無しでいい?」


「まあ強制はできないけど。夜にはまたやる気になるんじゃない?」


「そんな事無いと思うな、俺は完全に悟ってしまったんだ、童貞捨てるなんて事の為に頑張るなんてしなくていいって」


「ふーん、そう?」


「うん」


「あ、美沙が私の分も朝御飯用意してくれるって言ってたし、行きましょう?」


「うん。これで朝から三大欲求コンプリートだな」


「全く、他人が寝てる間に何やってんのよ⋯⋯って言いたい所だけど、自然の摂理だからまあ仕方ないわね」


 おお、理解ある私ちゃんムーヴ。

 助かるわぁ。




────────────────────



 仕事を終えた夕方。

 あれ、おかしいな⋯⋯?

 俺、とっても童貞捨てたいぞ⋯⋯?


 よし、割れ神捜索頑張るぞ!


 早速行動開始だ、渋谷さんへと電話する。


「はい、渋谷です」


「あ、渋谷さん。今から行って良いですか?」


「はい、お待ちしてます」


 というか、今の時間定時過ぎてるよな。

 警察官も大変だね。


 俺は昨日案内された『局』の部屋へと【転移】した。

 局の部屋には、渋谷さん、灘さん、依田さんの三人がいた。


「こんにちはー、あ、お土産あるんですよ」


 俺はアイテムボックスから取り出したケーキを並べた。

 渋谷さんが複雑そうな表情を浮かべる。


「⋯⋯昨日、私が奢った奴ですね」


「ですね! で、昨日頼んでた奴できました?」


「はい、用意してます」


 渋谷さんからUSBメモリを渡される。

 特対が把握している『帰還者』及び『来訪者』がリストアップされているらしい。

 本当はもちろん表に出せない物だが、なんせ世界を滅ぼす『邪神』捜索だからね、特別待遇だ。


「ちょっとPC借りても?」


「どうぞ」


 PCにUSBを挿し、ファイルを開く。

 名簿をざっと数えると、十八人。

 それぞれの氏名、年齢、性別、住所、職業などが記載されている。


「一年に一人二人って事ですが、意外といるもんですね」


「はい、ここ十年のリストなので」


 なるほど。

 事前に試したところ、こういった『名簿』には【個人情報開示】は使用できない。

 あくまでも、本人が作成したアカウントや、本人自体に直接使用しないと効果がないのだ。


 さて、これを個別に訪問するなりしなければならないか。


 この中に割れ神がいるかどうかは不明だ。

 だが、俺が『特対』と繋がっているように、能力者同士の繋がりがあるかも知れない。


 ──と。


「あれ、この四人は同じ高校?」


「はい、あとこの人物は同じ学校の教師です。彼らの帰還は一年前ですね」


「⋯⋯」


 そういえば女神が言っていた。


『クラス転移』


 『割れナーロッパ』でしかできない召喚。

 となると、この中に割れ神が紛れている可能性は高いな。



 よし、コイツ等から洗うか。

 

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