第47話 残念勇者は出会えない
警視庁において、警視総監直属として『部』ではなく、独立した『局』を冠する組織が『特殊犯罪対策局』、通称『特対』だ。
構成員は局長の
構成員の少なさは、入局において必須の技能を取得するのが困難な為だ。
異界において人知を超えた能力──『スキル』を取得したものだけが、入局を許される。
彼らの仕事は、基本暇だ。
なぜなら、彼らが対応すべき『特殊犯罪』の発生件数は極端に少ない。
特殊犯罪とはつまり『スキル』や『異世界アイテム』所持者による、一般の法律や警察官では対応できない案件だ。
彼らの仕事のほとんどは『帰還者』と呼ばれる、異世界からスキルやアイテムを持ち帰った疑いのある人物の特定と調査、犯罪の取り締まりや、場合によっては局へのスカウトである⋯⋯のだが。
「どーせガセじゃないですかね?」
東村忠之についての資料を眺めながら、依田は灘に聞いた。
依田の質問に、灘は呆れたような視線を向ける。
「アンタの時もそう思ってたわよ」
「まーそうかも知れないですけど」
他世界の高次存在または現地人による日本人
何人が召喚され、そのうち何名が死亡しているのか、召喚者の依頼を達成ないしは帰還方法を自力で発見し戻って来ているのか、現地に留まる事を選ぶ者がどの程度いるのか、何のデータも無いのだ。
なので、局の仕事はどうしても場当たり的にならざるを得ない。
「まあ、梁島さんは優秀な警官だし、武道の心得もある方だ。確認する価値はある。灘くん、依田くんを連れて確認に行ってくれ」
二人からは少し離れたデスクで、局長の渋谷が話を総括し、指示を飛ばす。
「えー? 俺一人でも⋯⋯」
「あんたねぇ、もし東村が『達成者』で、かつ好戦的だったらどうするのよ。『離脱者』のアナタじゃ太刀打ちできないでしょ?」
「そんな、達成者なんて何人もいないでしょ?」
「ここに二人いるじゃん、私と局長」
「いや、二人は化け物じゃないですか。そんな人間めったにいませんって」
帰還者は『二種類』いる。
『達成者』と『離脱者』だ。
達成者は、現地高次存在や現地人からの依頼──たいていはその世界でも有数の戦闘能力を持っている存在の撃破──を成し遂げて帰還した者。
離脱者は、依頼達成以外の方法で帰還した者、となる。
現在特対で達成者なのは局長の渋谷と灘、離脱者が依田、という事になる。
達成者は、異世界で困難な任務を果たしただけあって、その戦闘能力において人知を超えた存在になるケースが殆どだ。
一方離脱者については、どのタイミングで帰還したかにより、戦闘能力にはかなりバラつきが出る。
「いや、この局でも達成者二、離脱者一の割合なんだから。あり得るでしょ?」
「だけど、他のトーマス入れたって、達成者なんて二人だけじゃないっすか」
「最悪を想定しなさいよ、異世界でも
灘は東村の資料を手に持った。
添付された写真からは、それほど凶悪さは感じない。
だが、できれば──。
「この人が達成者で、犯罪者だったら楽しくなるんだけどなぁ」
「こら、灘くん⋯⋯」
不謹慎な言葉に、渋谷が半眼で
「だって、今まで『処理』してきた他のトーマスも、手応えないヤツばっかりなんですもん。腕が錆びついちゃうじゃないですか」
「あのねぇ⋯⋯犯罪者がいて喜ぶ警察官は問題だよ?」
「冗談ですよ、冗談」
「全く⋯⋯」
「とにかく⋯⋯楽しみですね。彼と出会うのが」
──────────────────
出会えねえええええっ!
ぜんっぜん出会えねぇえええっ!
東京に戻ってから、さっさと童貞を捨てようと、取りあえず出会い系に登録した。
月額4000円近く払っているのに、ここひと月全く出会いは訪れなかった。
だが! 遂に!
連絡先としてメッセージアプリのIDを交換し!
今日待ち合わせだったにもかかわらず!
すっぽかされました!
さっきから何度かメッセージを送っているのに、既読さえ付かない!
何なのマジ、もう。
念のため、もう一回送ろう。
『ハナちゃん? 待ち合わせ場所で二時間待ってるんだけど、事故に遭ったりしてない? 大丈夫?』
うむ、我ながら気遣い溢れる文章だ。
⋯⋯おっ。
既読がついたぞ!
しばらくして、返事が来た。
『なんか面倒になったから、今日いかない』
⋯⋯はっ?
『いや、そんな事いわないでさ、俺もう待ち合わせ場所にいるし、取りあえず会わない?』
『行かないつってんじゃん。アンタ童貞? 必死過ぎてキモイ』
はぁあああああああっ!?
オメーが! 約束破っておいて!
何だその言いぐさわぁあああっ!
【個人情報開示】!
『ねぇねぇ、ハナちゃんつうか田中貞子、お前謝り方知らねぇの? 俺が教えてやろうか? 初台のマンションの501号室だよな? あとお前19歳つってたけど26じゃん、7歳はサバ読み過ぎだろ。あとポッチャリですって、お前みたいなのはデブっつーんだよ、日本語もマトモに使えねぇのか? 取りあえず今からマンションに行った方がええか?』
しばらくして、ハナちゃんこと貞子から返信があった。
『来たら警察呼ぶ』
『おう、いくらでも呼べや。お前の謝り方一つで許してやろうと思ったけど、そういう事言うならもういいわ、じゃあまた後で』
『あの、ごめんなさい』
『オイ、ブタはマトモな謝り方もわからねーのか? お前本当に26歳か? もっとちゃんと謝れや』
『約束破って、本当にすみませんでした。許してください』
『おう、俺もお前みたいなブタにこれ以上時間使いたくねーから許してやるわ。お前出会い系だから相手にされてるだけで、普通だったらノーサンキューだってちゃんと理解しろよ? 実際プライベートじゃ相手されねーんだろ? 貞子の名前通り、お前が待ち合わせ場所に現れるなんて男からしたらちょっとしたホラーなんだよ! いつまでも出荷されずに養豚場でブヒブヒいっとけやカス!』
ふう、これくらいでいいだろう。
はい言いたい事言ったし、既読もついたしこれでブロック、と。
しかし、なーにが『警察呼ぶ』だよ。
この異世界勇者様の俺が、警察ごときにビビるとでも思ってるのか?
そんなもん、現れた所でなんぼでも相手してやるわ!
ワッハッハッハッハー!
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